大文字伝子が行く

215．黒忍者1号

　＝＝＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝
　==============　主な登場人物　================
　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
　大文字（高遠）学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
　一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。
　久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
　増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。
　馬場（金森）和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。
　高木（日向）さやか一佐・・・空自からのEITO出向。
　高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。EITOボーイズに参加。
　馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
　大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
　田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
　浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
　新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。
　結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。
　安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
　稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。
　愛川静音（しずね）・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。
　工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。
　伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。
　葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。
　越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。
　小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。
　飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。
　財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。
　仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。
　青山たかし・・・元丸髷署生活安全課警部補。EITOに就職。江南（えなみ）美由紀と結婚した。EITOガーディアンズ（EITOボーイズ）所属。
　渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。
　久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。伝子をEITOにスカウトした。EITO前司令官。
　愛宕（白藤）みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。
　愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
　斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
　夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。
　筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。
　大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。
　内藤久女（ないとうひさめ）・・・ウーマン銭湯の客。
　田尾美緒子・・・白バイ隊隊長。巡査部長。
　川崎類大使・・・元駐那珂国大使。那珂国に対して批判的な為、金槌研一大使と交代になった。
　河村善子・・・SP隊隊長。柔道が得意。
　守谷哲夫・・・SAT隊長。
　中津健二・・・中津興信所所長。
　泊哲夫・・・中津興信所所員。
　橋爪警部補・・・愛宕の相棒。普段は、丸髷署生活安全課刑事。
　ケン・ソウゴ・・・かつて伝子と闘っていた『死の商人』グループにいたが、実はイーグル国のスパイだった。イーグルが独立後も時々伝子を助けている。

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　==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
　==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

　1月4日。午後1時。神奈川県川崎大師。
　エマージェンシーガールズが大山門にやって来たが、圧倒的な広さに戸惑った。
「代表者は誰だ。」後ろから、虚無僧姿の男が声をかけた。
「私だ。お前、似合ってるな。」と、思わず伝子は言った。
「お褒めに預かって光栄だ。ここでは、お互いに闘いに不利だ。この近くに『場所取り』してやったぞ。」と虚無僧は言った。
「ああ、助かる。」と言って、伝子はエマージェンシーガールズと共に移動した。
　午後1時15分。大師公園。
　実は、ここは、時限付きで一般客は入園禁止にしてある。川崎大師側と神奈川県警が、頑として参拝客の制限を拒んだからである。境内が荒れるのは、既にEITOの過去の闘いで実証済みだ。物怪の幸い（もっけのさいわい）の条件を呑み、移動すると、黒い忍者衣装の集団がいた。
「みんな、似合ってるなあ。」と、また伝子は大きな声で言った。
「どうやら、エマージェンシーガール1号こと大文字伝子は、褒め上手のようだ。だから、皆が慕っている、そうだろ？」「よく、ご存じだな。あんたは？アンタの名前は？」
「黒忍者1号、ということにしておくか。」虚無僧はさっと、虚無僧衣装をサッと脱いだ。
「銃火器を使うと、無駄になる。胡椒だらけか、粘着質の変な水でひたひたか、いずれにせよ、それから本格的に闘うんだろう？じゃあ、初めからまともにやり合おう。銃の弾の値段も馬鹿にならないしな。どうせ、映画の撮影とかの許可取って、ダミーの撮影しているんだろう？どうだ。こういうのは。『剣』の心得のある者が先ず闘うってのは。こっちは5人出す。」
　伝子は、デジャブを覚えた。まるで、オクトパスこと山下のやり方だ。無論、負けてはくれないだろうし、負ける訳にはいかない。伝子はインカムで指示を送った。
　午後1時。川崎家の書斎。
「大使。」「私はもう大使じゃない。金槌さんと交代したんだ。」「知ってます。」
　川崎が振り向くと、入って来た男は猛毒マスクを着けている。
　川崎がしまった、と思った時には何かスプレーを噴霧された。
　気が遠くなる前、以前最近の催涙スプレーのことを思い出した。簡単に言うと、催眠ガスだ。よくドラマや映画では、クロロフォルムを使って昏倒させる場面があるが、消毒薬なので、そんな効果はない。
　5分後。SP隊隊長河村は、SAT隊長守谷に連絡した。「了解しました。」
　そして、EITO本部に連絡を入れた。「了解しました。国賓警護に戻って下さい。靴に仕込んで貰った追跡装置が作動しているので、こちらで行方を追います。」
　折悪しく、ヨーロッパの国賓がお忍びでやって来たので、伝子はSATに下駄を預けたのだ。だが、SATは東京都に活動範囲が固定されている。それで、川崎大師の応援には行けなかった。もし都外に出たら、EITOが出動するしかないのだが・・・。
　午後2時。大師公園。
　静音、大町、馬越、あかり、青山が、敵の先発隊と闘っている。青山だけはバトルスティックではなくフルーレだが、敵の『枝』は文句を言わなかった。
　枝の作ったルールで、膝を折った者は退場、いや、控えの場所に戻り、他の者が替わる。変則だが、勝ち抜き戦だ。
　敵は10人以上抜けたが、こちらは、大町と馬越が抜け、増田と越後が替わった。
　この時点で、伝子はインカムで合図を送った。わざと長期戦を作っている。つまり、やはり本命は元大使、いや、元議員だ。川崎氏は、退任後、議員辞職をしたのだ。
　午後3時。EITO本部。司令室。
「どうだ、渡。場所はどこだ？」「常総大橋近くの下総利根宝船公園です。」「千葉県か。」
　午後3時10分。下総利根宝船公園。
　両手を縛られて、猿ぐつわを咬まされた川崎が、数人の男達と共に、ワゴン車から降りて来た。
　暫くすると、1台のトラックが来て止まった。男達は拳銃とジュラルミンケースを持っていた。
　拳銃を持った数人の男達が対峙し、その1人がジュラルミンケースを、ワゴン車のリーダーの近くまで持って行く。
　そこへ、マセラティが走ってきた。
　ワゴン車のリーダーは、川崎を突き飛ばした。
　拳銃の男達は、マセラティに向かって打ち続けた。
　ワゴン車の男達は、さっさとワゴン車に乗って逃走した。
　そちらに気を取られた隙に、物陰に隠れていた中津健二と泊が川崎を隠した。
　マセラティのガルウイングが開き、あつこがブーメランを投げた。
　男達が、その方向に撃ち始めると、SATの守谷とSP隊の河村がシールドを手に、突進した。2人は瞬く間に男達を倒した。
　一方、逃げたワゴン車は、前方から白バイがまっすぐ迫って来た。ワゴン車は、常総大橋の真ん中でハンドルを切り損なって、ガードレールにぶつかり、止まった。
　白バイ隊の田尾は言った。「きっぷきりまーすう。」
　あつこは警察無線で連絡をした。
「1匹くらい残しといてよ。」離れた所にいた、ケンが笑った。
「オールスターだな。」と、中津健二が呟いた。
　午後3時半。大師公園。
　エマージェンシーガールズは5人とも交代し、伝子、なぎさ、みちる、金森、大空に替わっていた。
『黒忍者1号』こと『枝』は、冷静だった。こちらの戦力もあと5人だ。仲間が捕まったことは、スマホの鳴動で理解した。鳴動は電話では無く、アラームだった。『作戦成功』の連絡が来たら、アラームは解除する予定だった。
　突然、味方の5人に加勢しだした。自らルールを破ったのだ。
　伝子は、『本命』の作戦が失敗したことを悟った。
　では、こちらも、とフォーメーションを作り、1人1人集中攻撃をして行った。
　そして、田坂、安藤、浜田による弓矢隊が、敵グループの近くに矢を放って、サークルを作り、狭めて行った。
　他のエマージェンシーガールズは、シュータを投げることで、サークルを作って行った。シュータとは、EITOが開発した、うろこ形の手裏剣で先端にしびれ薬が塗ってある。だが、この攻撃は、言わば『弾幕』だった。
　やがて、『枝』を含めた6人は膝を折った。
　時間は午後5時になっていた。
　伝子は、長波ホイッスルを吹いた。長波ホイッスルとは、犬笛に似た笛で、作戦終了の合図を待機している『片付け隊』に報せることが多い。
　間もなく、橋爪警部補と愛宕が警官隊を率いてやって来た。
　筒井が現れた。「異常無し。あっちにケン・ソウゴが現れたらしいが、何で今頃日本に？」
「震災だよ。能登地震発生を聞いて、イーグル国の陛下は落ち着いていられなかったらしい。そこで、お忍びでお見舞いと復興支援の相談にやってきた、ということだ。ケンは重臣だからな。SP隊もホントはいなくても大丈夫だった。傭兵上がりが多いからな。あそこは。」
　午後7時。伝子のマンション。
　綾子が予備の部屋から起きて来た。新年会でお屠蘇を飲み過ぎ、気分が悪くなって少し横になっていた。
「あれ？今夜、カレーだった？起こしてくれれば良かったのに。まあ、いいや。残ってるみたいだし、ご飯あるし。」綾子は、暖かいご飯に冷たいカレーをかけて、あっと言う間に食べた。
　洗い物をしていないようなので、自分の分と一緒にサッと片づけた。
　そして、ふと気がついて、寝室に近づき耳を傾けた。
　伝子の、あられもない喘ぎ声が聞こえた。綾子は少し興奮したが、自分を抑えた。
　DK部のテーブルの端の紙片が目についた。
【
　さからうものにはようしゃなし（逆らう者には容赦なし）
　かんしゃするならかんがえる（感謝するなら考える）
　いまだみらいはみえてこない（未だ未来は見えて来ない）
　きたみちかえるばかはいない（来た道帰る馬鹿はいない）
　わざわざえらぶはいばらみち（態々選ぶは茨道）
　だせいですすむかいくじなし（惰性で進む意気地無し）
　しかたがないからついてこい（仕方が無いからついて来い）
　】
「よく思いつくわねえ、こんなの。よく解いたわよねえ、こんなの。私には無理。早く孫作ってよね。」
　伝子と高遠の寝室。
　ラジカセで伝子の喘ぎ声を流して、2人で我が子おさむの写真や動画を観てひそひそ話をしている。おさむは、池上病院を経営している池上葉子の家に匿われている。おさむが狙われないよう、おさむの祖母である綾子にも内緒にしている。EITOでは、理事官となぎさだけが知っている。
　瞬く間に次の朝がやって来た。そして・・・。
　―完―