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一通の書状
一通の書状 ④
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翌日碧琉は碧慈とともに王宮のすぐ外に広がる街へ出た。碧琉は家庭教師について学んだが、碧慈は王宮外にある学校へ通っていたから街の露店に詳しい。碧慈について、碧琉は辺りをきょろきょろと見回しながら歩く。
「碧琉は覚えていないかもしれないが、小さい時私とここを歩いたんだよ。二人で抜け出して」
隣を歩く碧慈は頭一つ大きく、碧琉は見上げなければならない。精悍な顔立ちに逞しい体躯の碧慈は普段、背を伸ばし堂々と歩く姿が王族らしく、碧琉は常々手本にしたいと思っているのだが、こうやって目立たないよう市井の服に身を包んでいると街の若者の一人に見えるから不思議なものだ。
「私がですか?」
「ああ、昔はわりと自由にしていたんだ。碧佳兄さんが襲撃される前までは」
碧慈の話では碧流が四歳になる前、碧佳が外出中何者かに襲われる事件が起こった。碧佳は従者を連れていたので腕を刃物が掠めるくらいで済んだのだが、すぐに犯人が捕まらなかった為、王宮は厳戒態勢に入った。特に小さかった碧琉は誘拐防止もかねそれ以降王宮外に出ることは禁止されたそうだ。
「碧琉はこれが好きだったよ」
碧慈は大きな蒸し器がずらりと重ねてある露店で立ち止まり饅頭二つ買って一つを碧琉に渡した。
二人で道の端に腰掛け食べたと懐かしそうに話す碧慈に碧琉は何度も頷く。覚えてはいないけれど、生真面目な碧慈が言うならきっと間違いないだろう。
街を歩く間も碧慈は黄国行きを思い留まるよう話しかけてきたが碧琉が頑なに行くと譲らないので最後は押し黙ってしまった。
碧慈の心配は、言外からも伝わってくる。その気持ちはとても嬉しかった。
「私は大丈夫です。碧佳兄さんと父王様をお願いします」
宮殿の門をくぐりそう言うと碧慈は碧琉を引き寄せその胸に抱き締めた。
「私であればよいものを。碧琉はあまり人前に出ることはなかったのに、どうして」
「碧慈兄さま。きっと一人預かるならば何の影響もない私が丁度良いと判断されたのでしょう。そうやって樹の事を考慮して下さるのですからきっと大丈夫です」
背に手を回し碧慈の胸に鼻先を擦り付ける。六年前母、寛が亡くなった時も碧慈がこうやって慰めてくれた。
そっと手を離すと悲しげに微笑む碧慈の顔が見える。目の縁が少し赤く染まっていた。
それから二言三言、言葉を交わす間もなく王宮内に待機していた従者が林老師が呼んでいると碧慈を連れて行ってしまった。
あんな風に心配されると不安が移ってしまう。昨夜奮い立たせた心がしゅるしゅるとしぼんでゆく。
足が向くまま進むと目線の先に霊廟の白い屋根が樹木の影にちらりと見えた。吸い寄せられるように向かうそこは碧琉の生まれるはるか昔からここに存在している。きらびやかな装飾の施された白塗りの建物は中に入ると外気に比べひんやりとしていた。
静かに眠る母に長く手を合わせていた碧琉に「碧琉様、」 と声を掛けたのは碧琉付き使女の巻(まき)だ。
振り返ると巻は細い手を胸の下辺りで組ませ、背後に控えていた。巻が傍にいなかったことなど数えるほどしかないが、今日の外出にはついて来てはいなかった。いつの間にそこにいたのだろうか。
巻の肩越しに扉のない入口が目に入る。外は木々が赤く染まっていた。
「もう暮れる時間なんだ」
「はい。お身体も冷えます」
「うん、でも大丈夫だよ。そんなに寒くない」
巻は苦笑した碧琉を穏やかに見つめる。
「今日は碧琉様のお好きな茸粥に蒸し物でございますので」
「ありがとう、そうだね。いつまでもここにいるわけにもいかないし。行こうか」
首を垂れる巻の前を通り碧琉は霊廟を後にした。
「碧琉は覚えていないかもしれないが、小さい時私とここを歩いたんだよ。二人で抜け出して」
隣を歩く碧慈は頭一つ大きく、碧琉は見上げなければならない。精悍な顔立ちに逞しい体躯の碧慈は普段、背を伸ばし堂々と歩く姿が王族らしく、碧琉は常々手本にしたいと思っているのだが、こうやって目立たないよう市井の服に身を包んでいると街の若者の一人に見えるから不思議なものだ。
「私がですか?」
「ああ、昔はわりと自由にしていたんだ。碧佳兄さんが襲撃される前までは」
碧慈の話では碧流が四歳になる前、碧佳が外出中何者かに襲われる事件が起こった。碧佳は従者を連れていたので腕を刃物が掠めるくらいで済んだのだが、すぐに犯人が捕まらなかった為、王宮は厳戒態勢に入った。特に小さかった碧琉は誘拐防止もかねそれ以降王宮外に出ることは禁止されたそうだ。
「碧琉はこれが好きだったよ」
碧慈は大きな蒸し器がずらりと重ねてある露店で立ち止まり饅頭二つ買って一つを碧琉に渡した。
二人で道の端に腰掛け食べたと懐かしそうに話す碧慈に碧琉は何度も頷く。覚えてはいないけれど、生真面目な碧慈が言うならきっと間違いないだろう。
街を歩く間も碧慈は黄国行きを思い留まるよう話しかけてきたが碧琉が頑なに行くと譲らないので最後は押し黙ってしまった。
碧慈の心配は、言外からも伝わってくる。その気持ちはとても嬉しかった。
「私は大丈夫です。碧佳兄さんと父王様をお願いします」
宮殿の門をくぐりそう言うと碧慈は碧琉を引き寄せその胸に抱き締めた。
「私であればよいものを。碧琉はあまり人前に出ることはなかったのに、どうして」
「碧慈兄さま。きっと一人預かるならば何の影響もない私が丁度良いと判断されたのでしょう。そうやって樹の事を考慮して下さるのですからきっと大丈夫です」
背に手を回し碧慈の胸に鼻先を擦り付ける。六年前母、寛が亡くなった時も碧慈がこうやって慰めてくれた。
そっと手を離すと悲しげに微笑む碧慈の顔が見える。目の縁が少し赤く染まっていた。
それから二言三言、言葉を交わす間もなく王宮内に待機していた従者が林老師が呼んでいると碧慈を連れて行ってしまった。
あんな風に心配されると不安が移ってしまう。昨夜奮い立たせた心がしゅるしゅるとしぼんでゆく。
足が向くまま進むと目線の先に霊廟の白い屋根が樹木の影にちらりと見えた。吸い寄せられるように向かうそこは碧琉の生まれるはるか昔からここに存在している。きらびやかな装飾の施された白塗りの建物は中に入ると外気に比べひんやりとしていた。
静かに眠る母に長く手を合わせていた碧琉に「碧琉様、」 と声を掛けたのは碧琉付き使女の巻(まき)だ。
振り返ると巻は細い手を胸の下辺りで組ませ、背後に控えていた。巻が傍にいなかったことなど数えるほどしかないが、今日の外出にはついて来てはいなかった。いつの間にそこにいたのだろうか。
巻の肩越しに扉のない入口が目に入る。外は木々が赤く染まっていた。
「もう暮れる時間なんだ」
「はい。お身体も冷えます」
「うん、でも大丈夫だよ。そんなに寒くない」
巻は苦笑した碧琉を穏やかに見つめる。
「今日は碧琉様のお好きな茸粥に蒸し物でございますので」
「ありがとう、そうだね。いつまでもここにいるわけにもいかないし。行こうか」
首を垂れる巻の前を通り碧琉は霊廟を後にした。
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