「君に触れた日、世界が少しだけ変わった」

春夜夢

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第二話:遠くで揺れる髪

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屋上でのあの会話以来、佐倉と俺は──少しだけ話すようになった。
 廊下ですれ違えば目が合う。
 体育のあと、教室で水を飲んでる姿に、なんとなく視線がいく。

 でも、それだけ。

 放課後、いつもひとりで帰るはずの佐倉が、今日は昇降口で立ち止まっていた。

「……雨」

 ポツ、ポツ、と制服の肩にしみができる。

「傘、持ってないのか?」

「うん」

 彼女の返事は短い。でも、嘘じゃなかった。

「……行こうぜ」

 そう言って、俺はカバンから傘を取り出した。
 佐倉は一瞬だけ、目を丸くして──そっと傘の下に入ってきた。

「ありがと」

 その声が、小さくて、でも嬉しそうで。
 まるで、それが今日一日のご褒美みたいだった。

 雨音を聞きながら歩く帰り道。
 彼女は、少しだけ遠慮するみたいに歩いてた。

 肩が触れるか触れないかの距離。
 でも、たしかに近くにいた。

「ねえ、君島くんって、さ」

 ぽつりと、彼女が口を開く。

「……なんで、屋上に来たの?」

 あの日の話。俺はちょっとだけ、考えてから答えた。

「なんとなく、かな。サボりたかっただけかも」

「ふーん。……似てるね、私と」

 ふいにそう言って、佐倉はくすっと笑った。

 それは初めて見る笑顔で、
 俺の胸の奥が、不意打ちみたいにじん、と熱くなった。

 彼女が家の前で「じゃあね」と言ったあとも、
 俺はしばらくその場を動けなかった。

 雨は止んでいた。
 でも、なぜだか俺の心はずっと、
 あの日の屋上みたいに、風に揺れていた。
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