「君に触れた日、世界が少しだけ変わった」

春夜夢

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第三話:君がいない放課後

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その日、放課後の屋上には、彼女はいなかった。

 いつもなら、授業が終わるとそっと姿を消す佐倉が、いない。
 理由はわからない。ただ、なんとなく気になって、屋上へ足が向いていた。

 鍵は開いていた。風も、空も、変わらずだった。

 でも──彼女だけが、いなかった。

(……別に、来るって言ってたわけじゃないし)

 ひとり言い訳みたいに呟いて、俺はフェンスにもたれかかる。

 あの時と同じ景色なのに、今日だけは、何か足りなかった。

 翌朝、教室に入ると、佐倉はもう席にいた。

 いつもと変わらない無表情。
 でも、目の下のくまが少しだけ濃い気がした。

「おはよ」

 声をかけると、彼女は少しだけ間を置いて、答えた。

「……おはよう」

 昨日、何かあったんじゃないか。
 そう思いながらも、問い詰める理由なんてなかった。

 ……俺たちは、まだそんな関係じゃない。

 放課後。
 俺が下駄箱で靴を履いていると、ふいに、後ろから声がした。

「君島くん」

 その声に、俺の心臓が、少しだけ跳ねた。

「……佐倉」

「ちょっと、歩いてもいい?」

「うん」

 並んで歩く道。昨日の帰り道と同じ道。
 でも今日は、彼女の歩幅が少しだけ小さかった。

「昨日、ごめんね」

「え?」

「……屋上、行けなかった。……いや、行く勇気がなかったの」

 俯いた彼女の声は、いつもよりずっと小さかった。

 何があったのかは、聞かなかった。
 でも俺は、傘を差し出すように、そっと言った。

「じゃあ今日、行く?」

 佐倉は驚いたように顔を上げた。
 そして──ほんの少しだけ、微笑んだ。

「……うん」
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