「君に触れた日、世界が少しだけ変わった」

春夜夢

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第四話:心のドアをノックする音

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放課後の屋上。
 夕焼けに照らされたフェンスの向こうに、彼女は立っていた。

「……今日は、来てくれるって思ってた」

 俺がそう言うと、佐倉は静かに頷いた。
 風が髪を揺らして、彼女の横顔を隠した。

「ここ……好きなの。誰もいないし、うるさくないし」

「うるさいの、嫌い?」

「うん。特に“うわべだけ”の会話」

 彼女の言葉は、静かだけど鋭かった。
 たぶん、誰かに裏切られたことがあるんだろう。

「私さ、家でもあんまり喋んないの」

「そっか」

「両親、仕事で忙しいから。帰っても、部屋に明かりついてないこと多くて……」

 淡々と話すその声が、妙に大人びて聞こえた。
 たったひとりで、時間を生きてきたみたいな。

 だからだ。
 放課後の屋上で、風の音だけを聞いていたのは。

「……寂しくない?」

 聞いてから、自分でバカだと思った。

 でも佐倉は、不思議そうに俺を見て──そして、こう言った。

「寂しい、って何?」

 笑ってなかった。怒ってもなかった。
 本当に“わからない”って顔をしていた。

「……そっか。じゃあさ」

 俺は、一歩だけ、彼女の隣に寄る。

「今度から俺が隣にいても、いい?」

 風が止まった。

 彼女の肩が、ほんの少し震えた気がした。
 でも、佐倉は答えなかった。

 ただ──黙って、俺の隣に立ち続けた。

 それだけで、なんだかすごく、意味がある気がした。
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