「君に触れた日、世界が少しだけ変わった」

春夜夢

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第五話:君に触れてはいけない理由

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 「文化祭の実行委員に、空きがあるらしいんだけど」

 朝の教室。黒板の前で、クラス委員がそう告げると、ざわついた空気が教室を包んだ。

「やだ~、絶対大変じゃん」
「もう決まってるメンツ、地味な子ばっかでしょ」
「佐倉さんも誘えばいいじゃん。暇そうだし?」

 無邪気な声に、空気が変わった。

 佐倉は、何も言わなかった。
 いつものように教科書に目を落とし、無反応を貫く。

 でも、俺は見ていた。
 彼女の指が、ほんのわずかに震えたことを。

 昼休み。中庭のベンチにて。

「……昔、私、実行委員だったことあるの」

 ぽつりと佐倉が呟いた。

「でも、何もできなかった。
 自分から立候補したのに、途中で倒れて。
 迷惑かけて、責められて、気づいたらひとりだった」

 風の音が、遠くで木の葉を揺らした。

「それからずっと、人と関わるのが怖くなった。
 何を言われるか、どんな顔されるか……考えるだけで、息が苦しくなるの」

 その言葉に、俺は何も言えなかった。

 “強がりで無口な子”だと思ってた。
 本当は、過去に傷ついて、必死に距離を取って生きてきただけだった。

「だからね、君島くん。私に優しくしないで」

 彼女は俯いたまま、はっきりと言った。

「期待して、また裏切られるの、怖いから。
 君が“ただの気まぐれ”なら、これ以上近づかないで」

 そのとき、俺の中で何かがはっきりした。

「……気まぐれじゃない」

 自分でも驚くほど、強い声だった。

「俺は……お前がひとりでいるとこ、もう見たくない」

 佐倉の肩が、ピクリと動く。

「できないことがあっても、倒れても、迷惑かけてもいい。
 俺が全部フォローするから。……だから、逃げんなよ」

「……どうして、そこまで……」

 涙声だった。
 でも、彼女はまだ泣いていなかった。

 泣き方を忘れてしまったような、そんな顔だった。

 その日の放課後。
 屋上のドアを開けると、風が優しく吹き抜けた。

 そこに彼女はいなかった。
 でも──明日、また来てくれる気がした。

 はじめてそう思えた、夕焼けだった。
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