「君に触れた日、世界が少しだけ変わった」

春夜夢

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第六話:笑顔の裏に、ささやきは潜む

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 「はい、ストップ! ここの飾り、もっと間隔広げよう!」

 文化祭準備が本格的に始まった教室は、活気にあふれていた。
 段ボール、絵の具、音楽、笑い声。
 普段は静かなクラスも、このときばかりはひとつになっているように見えた。

 その中で、佐倉葵は壁の装飾をひとつひとつ丁寧に貼っていた。

「……佐倉、器用だな」

 何気なく声をかけた俺に、彼女は小さく頷いた。

「家で……ひとりでこういうの、作るの好きだから」

 その言葉を聞いて、なんとなく胸が詰まった。
 そうか──これまでも、ずっとひとりで作ってたんだ。

「じゃあ、次は一緒にやろ」

「……うん」

 小さく笑った彼女の表情は、たしかに“楽しそう”だった。

 でも、楽しい時間は長くは続かなかった。

 「……聞いた? 佐倉さん、前の学校で問題起こしたらしいよ」

 「男子に手を出したって。しかも複数とか……怖」

 「クール気取りだけど、裏ではメンヘラらしいし?」

 女子たちのささやきが、教室の隅で密かに交わされていた。

 そして、噂はあっという間に広がった。

 誰かが笑っている間に、誰かが傷ついていた。

 放課後、佐倉は一人で飾り付けを片付けていた。
 その背中は、昨日よりもずっと小さく見えた。

「……佐倉」

 声をかけると、彼女はゆっくり振り返った。
 でも、目は笑っていなかった。

「……ああいうの、慣れてるから。気にしてない」

「……嘘だろ」

「ほんと。昔もそうだったし。
 それに、君島くんにまで嫌われたくないから、
 “平気なフリ”くらいできるよ、私」

 俺は、言葉を失った。
 “強い子”じゃなくて、“強がるしかない子”だった。

 そして、気づいた。

 この子の笑顔は、“ひとりで泣かないため”の仮面なんだって。

「佐倉」

 俺は、一歩近づいて、彼女の肩をぎゅっと掴んだ。

「俺は、お前のこと、全部信じてる。
 誰に何言われても、疑わない。
 だって俺は、お前の“本当の顔”を見てきたから」

「……君島、くん」

 その瞳に、涙が浮かぶ。

「もしさ、全部信じてくれるなら……」

 佐倉の声が震える。

「今夜……屋上で、話してもいい?」

「……もちろん」

 そしてその夜。
 ふたりきりの屋上で、彼女は過去の真実を語ることになる。
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