「君に触れた日、世界が少しだけ変わった」

春夜夢

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第10話(最終話):君と歩くこの世界が、愛しい

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卒業式の日、校庭の桜は満開だった。

 肌寒い風の中、教室に残った最後の数人。
 制服の胸元には、友達の名前が書かれた色とりどりのボタン。

 私は、最後まで外せなかった第二ボタンを指でなぞみながら、
 誰かの名前を、心の中でずっと呼んでいた。

「──葵」

 その声に、心臓が跳ねた。

 振り返ると、君島くんが立っていた。
 制服の襟元には、何も残っていなかった。

「……遅いよ。ボタン全部取られてんじゃん」

「まあ、な。……でも、残したの、ある」

 そう言って、彼はポケットから小さな箱を取り出した。

 中に入っていたのは──指輪だった。
 装飾もない、シンプルな銀の輪。

「大学、別々になっちゃうけどさ。
 俺は、ずっとお前の隣にいたいって思ってる」

「……うん」

 涙が浮かびそうになる。
 でも今日は、泣かないって決めてた。

「約束ね。たとえ離れても──私のこと、信じてて」

「当たり前だろ。俺の初恋なんだから」

 春風が吹いた。
 制服の裾が揺れて、桜の花びらが二人の間に舞った。

 未来なんて、わからない。
 でも、君と歩くこの世界なら──
 きっと、全部、愛しく思える。

 それが、私の答え。

〈完〉
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