「君に触れた日、世界が少しだけ変わった」

春夜夢

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第9話:これが、私の初恋だった

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※佐倉 葵 視点

 ──君島くんが、あんなふうに言ってくれるなんて、思ってなかった。

 信じてくれる人なんて、もういないと思ってた。
 そばに立ってくれる人なんて、いないと思ってた。

 ……ずっと、そうやって生きてきた。

 過去のことを話しても、誰も助けてくれなかった。
 信じてもらえなかった。
 ただの噂に、私の“本当”はかき消された。

 でも、君島くんは──違った。

 「俺は、佐倉が好きだ」

 その言葉が、どれだけ私を救ったか、
 君はたぶん、まだ気づいてない。

 文化祭が終わって、教室は片付けのざわめきに包まれていた。

 私は、一人で黒板を消していた。
 チョークの粉が指先に残って、なんだか懐かしい感じがした。

 「佐倉」

 背中越しに聞こえる声。
 その声だけで、胸がきゅっとなる。

 振り返ると、君島くんが立っていた。
 まっすぐ、私だけを見ていた。

 「……時間、大丈夫?」

 「うん。君になら、いくらでもあげる」

 不器用で、でも嘘のない声。

 私は思わず、ふっと笑ってしまった。

 ふたりで帰った放課後の道。
 いつもより空が高く見えた。

「……ねえ、君島くん」

「ん?」

「今日、君に言いたいことがあるの」

 足を止めて、私はゆっくりと顔を上げる。

「たぶん、君がくれた“好き”は……
 私が人生で初めて信じていいって思えた、“本物の好き”だった」

 言葉が震えて、胸が熱くなる。

「私……君が好き。
 きっと、これが“初恋”ってやつなんだろうなって、そう思った」

 言い終わった瞬間、涙がこぼれた。
 止めようとしても、止まらなかった。

 でも、それは苦しい涙じゃなくて──

 “やっと出会えた”という安堵の涙だった。

 君島くんは、何も言わずに、私を抱きしめてくれた。
 ただ、静かに、優しく。

 「……ありがとう。葵」

 名前で呼ばれたのは、たぶん初めてだった。

 でもその一言が、私の心を全部、満たしてくれた。

 私の世界は、たったひとりの“君”に触れて、
 ほんの少しだけ、変わった。

 これが、私の初恋だった。
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