「君に触れた日、世界が少しだけ変わった」

春夜夢

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第八話:君を守る、その言葉だけで

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文化祭当日。
 いつもと違う制服のアレンジ、出し物の飾り、廊下に広がる甘い匂い。
 教室の中は、まるで別世界みたいだった。

 けれど──その賑わいの中で、佐倉葵だけは、ひときわ静かだった。

 「佐倉さんって、来てたんだ」
 「ちょっと……意外」
 「でも、クラスの飾り付け綺麗だよね。あの人、手先は器用そう」

 遠巻きの声。笑い声に混じる視線。
 それらすべてが、まるで薄く刺すナイフのように、彼女の肩に降りかかっていた。

 「佐倉、大丈夫か?」

 声をかけた俺に、彼女はかすかに笑ってみせた。

 「平気。もう、慣れてるから」

 その言葉が、何よりも痛かった。

 昼のステージ発表。
 次の出し物のアナウンスが流れる中、
 事件は、教室の外──掲示板の前で起きた。

 ──貼られていたのは、一枚のプリント。

 【佐倉葵・裏垢疑惑】【男子複数との写真流出!?】

 作られた画像。歪められた言葉。
 中傷。嘘。それを面白がる目。

 「おい、やりすぎじゃないか」
 「でもマジっぽいぞ、これ……」

 教室の空気が凍り始めたとき、
 その場にいた俺は、迷わずプリントを引きちぎった。

 ──破り捨てる音が、周囲の沈黙を切り裂いた。

 「聞け、みんな」

 教室のど真ん中で、俺は声を張った。
 佐倉の手を握ったまま。

 「この紙、全部デマだ。
 証拠もない、誰かの悪意で作られた中傷。
 信じる必要なんて、1ミリもない」

 皆が黙っていた。
 その沈黙が、逆に俺の言葉を強くした。

 「佐倉は、誰よりも真面目に準備してた。
 壁の飾りも、パネルも、全部あいつの手作りだ。
 それを、こんな形で汚すのは、俺が絶対に許さない」

 そして、俺は言った。

 「俺は、佐倉が好きだ。
 過去がどうだろうと、関係ない。
 今、俺の隣にいる彼女を、信じるって決めたから」

 静寂の中、誰かが小さく拍手した。
 次第に、拍手は連なり、やがてクラス全体を包んだ。

 佐倉は、言葉を失っていた。

 でも、俺の手を強く握り返してきた。

 「……ありがとう」

 帰り道、誰もいない廊下で、彼女が初めて、涙をこぼした。

 「私……初めて、守られた気がした」

 その言葉に、俺はただ、彼女の肩を抱いた。

 「何があっても、俺がそばにいるから」
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