君に二度、恋をした。

春夜夢

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第14話 もう俺のこと、二度と置いていくな

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遥の住むタワーマンション。
 今まで何度も足を運んだはずのエントランスが、今日はひどく遠く感じた。

 インターフォンを押す指が、震えている。

 

 『――はい』

 「……俺。春翔」

 

 一拍の沈黙。

 

 『……上がってきて』

 

 それだけの短いやり取りで、心が震えた。

 

 エレベーターの扉が開き、上階のフロアに着く。
 ドアの前には、遥がいた。スーツ姿のまま、ネクタイもほどかず、じっと俺を見ていた。

 

 「……来てくれて、嬉しいよ」

 「話がある。ちゃんと聞けよ。途中で茶化すな。逃げるなよ」

 

 「……わかった」

 

 部屋に入ると、昨日の夜のままだった。
 散らかったままのリビング。ベッドの上に、俺の忘れたシャツ。

 全部が、俺たちの“痕跡”だった。

 

 「お前が、婚約話を蹴ったって聞いて、……正直、嬉しかった」

 「うん」

 「でも、同時に、怖くなった。お前の未来に、俺がいないんじゃないかって」

 

 遥は口を挟まず、ただじっと聞いていた。

 

 「俺、今までひとりでも生きていけるって思ってた。
  でも違った。お前がいないと、前に進めなかった」

 「……春翔」

 

 「だから――」

 

 ゆっくりと、一歩踏み出す。

 遥の目の前に立って、まっすぐ見つめる。

 

 「――もう俺のこと、二度と置いていくな」

 

 その言葉に、遥の目が潤んだ。

 「……わかった。絶対、離さない」

 

 次の瞬間、抱きしめられていた。

 腕の中はあたたかくて、震えていたのは――遥の方だった。

 

 「俺の方こそ……ごめん。もっと早く、ちゃんと向き合うべきだった」

 

 強く、強く、抱きしめ返した。

 

 「春翔……触れても、いい?」

 「……ああ。今度は、ちゃんと俺が望んでる」

 

 唇が重なった。

 静かに、深く、熱く――
 ふたりの間にあった空白が、もうどこにも残らないように。

 

 何度も名前を呼ばれながら、
 俺はようやく、“愛される”ことを、全身で受け入れていった。
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