After story/under the snow

黒羽 雪音来

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2.こうして、勇者は■■となった

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 心臓が音を立てて激しく動く。
 目が覚めても、現実は変わらなかった。
 さっきみたいに、混乱して気を失うのは避けたい。
 勇者の時はこんなことなかったから、どうしたらいいかわからない。
 それでも、わからないなりに冷静になろうと決めた。 

 まずは、自分の身の回りを見る。
 自分はベッドの上で上半身を起こすように座っている。
 
 不思議な熊が、氷で出来た縦長の鏡を持ってきてくれた。
 映し出させる自分の姿は、最後に見た姿から大いにかけ離れていた。

 いつの間にか長く伸びた、黒く汚れた灰色の髪。
 細く痩けていた体は、平均というべき状況まで肉が付いている。
 立ち上がれば、大人と同じぐらいの身長にまで大きくなっているかもしれない。

 正直、自分の体とは思えなかった。
 例えるなら、別の人間の体に魂だけが入ったような気持ちだ。

 髪をどかしてみれば、人間と変わりない耳があった。
 潰されたのに音が聞こえる時点で、何か手を加えられているかもしれない。

「お前さん。世間では享年21年だと言われてたからな。普通に規則正しい生活をしていたらこうなってた、て感じで手ぇ加えたんだが・・・・・・面影はあるが、別人になってる気がすんだよなぁ~。どんな生活送ってたの?」
 
 次に、部屋の中を見渡す。

 ベッドの横には小さな棚。
 林のように立ち並ぶ、背の高い棚。
 そこに収めてられているのは、たくさんの書物。
 棚の林を超えた先に、大きな机がある。その上には、山積みの本達と開きっぱなしの本。あと紙も置かれているのが見える。

「ちなみに、ここは書斎って呼んでる。調べ物とか計画練るから俺が作ったんだが・・・・・・良い出来だろ!!」 

 視界に入れないようにしていたが、そろそろこの声の主に向き合わないといけない。
 コナユキ猫の姿をした、南の魔神を見る。 


 正直に言えば、向き合いたくない。

 自分は北の魔神を消滅させた。
 南の魔神の目的は、仲間を殺した自分への復讐だ。
 自分が描く復讐のように、自分を惨たらしく殺したいのだろう。
 感情があって意識があれば、魔神もあいつらのように平気に嘘吐くだろう。
 生かしたのも、この手で殺したいからだろう。
 復讐を望んでいるからこそ、それを否定することはできない。
 自分の復讐が終わるまで待ってくれるか。不安と緊張しかない。 
 
「お! ようやく目合わせたな」

 にんまりと笑うように、コナユキ猫の目が細まる。 
 高さのある脚立に乗っていた。
 その口から、けたたましい鈴の音が鳴った。

 自分の横にいた使い魔の熊が胸の前まで毛に覆われた両手をあげる。
 肉球と肉球を何度も合わせる。パチパチパチと軽快な音が弾けるように鳴る。
 
 魔神と使い魔の熊の視線が、なぜかこちらに向けられる。

「・・・・・・ヘイ!! 拍手ぅう!!」

 魔神は何かを求めるように叫ぶが、それが何かがわからない。
 不思議な熊が両手を見せるように、自分の目の前に持ってくる。
 肉球のある手をパチパチと音を鳴らして叩く。これを何度も繰り返してる。

 これをやれと言っているのだろうか。

 見よう見まねでやってみる。
 手袋のせいだろうか。ポスポスポスと布同士を叩いているような音が鳴った。
 音が違う気がするが、不思議な熊は納得した顔で頷いてる。

 本棚の後ろから、不思議な兎と鳥が出てきた。
 不思議な鳥の翼なのか手なのかわからないが、玩具の木剣が握られている。

「これから始めますは、演劇でわかりやすい昔話でございまーす!!」

 なんかが勝手に始まったのはわかった。
 不思議な熊が拍手を止めたので、こちらも止めた。

「めちゃくちゃ昔。大陸は1つの大陸でした」

 彼らが同時に音を上げる。眉間に皺を寄せて不満そうだった。
 魔神は低い鈴の音を出すと、彼らは黙った。

「土のみの大陸という小さな世界に、2人の神様が降り立ちました。人間サイドでは白い神と黒い神で呼び分けているので今回はそれで呼びます」

 それぞれの使い魔が脚立の足下に立った。

「白い神様は土を捏ねて人間を創りました。黒い神様は水を流して海を創ったり、大地に種を蒔いて草木を育て始めました」

 捏ねる動作をする不思議な鳥。種を蒔く素振りをする不思議な兎。
 魔神の言葉に沿って、それらしい動きをしているらしい。

「ここで色的に配役逆じゃね? どーしてですます口調なの? っと言ってくれないことに寂しいと思いながらも続けます──白い神様は人間に愛着を持っていました。彼らのために食料となる動物や魚を創りました。しかし、人間がすぐに死んでいくのです。どうしてどうしてとあたふたしていたとき、黒い神様が創り出した海や草木の寿命の緩やかさに気付きました」

 不思議な鳥が、不思議な兎に近寄った。
 
 トントンと軽く肩を叩かれる。振り向けば、不思議な熊がマグカップを渡してきた。受け取って中身を見ると温めた水だった。
 とりあえず頭を下げてお礼はしたが、口にする気にはなれなかった。

「尋ねてみたら、黒い神様はあっさりと答えてくれました。マナを巡廻させているからと。さらに詳しく聞きますと、この大陸の大気にはマナという見えない力が充満していたのです。これがなければこの大陸は死んでしまいますが、マナは神様達が創り出したものにとって猛毒だったのです。それを解決するために、マナを適度に消費する魔族を創ったと答えました」 

 魔族という言葉に反応した。
 自分が気を失う前に、魔神が口にした単語だ。

「魔族はマナを体内に取り込んで魔力に変換する存在です。大量に作られるマナを魔族が消費して自然は生き長らえます。魔族が魔力に形を与えて魔法として使えば、自然災害などのトラブル解決にもなっていたのです。その姿も自然と共存するために様々で、人間みたいに背格好が似ていることもありません・・・・・・それが白い神様には気持ち悪いと見えたのです」

 不思議な鳥が、持っていた木剣を突き出す。
 不思議な兎が、当たったふりをして倒れた。

「白い神様は大陸の中心から、次々と魔族を消滅させていきます。同時に、魔族の役割を人間に移そうとしました。しかし、人間とマナの相性は最悪で、さらに人間が死んでいきました。それを見て白い神様は思ったのです────マナがあるのがいけない。こんな大陸なのがいけない、と」

 不思議な鳥が、不思議な兎の腹の上に布をかけた。

「始めにあった大陸ごとマナの上に、黒い神様の死体で封じました。そして、その死体を新たな大陸にしたのです。新たな大陸にはナーマと呼ばれる力が大気に漂い、人間はすぐに死ぬことがなく、様々な文明や文化を発展させました。これには白い神様も大喜び。もっと人間の成長が見たくて、白い神様は無尽蔵にナーマが発生するように大気を弄りました。人間はそれを取り込んで魔力に変換し、魔法が使えるようになりました」

 大喜びする不思議な鳥の背後で、もぞりと不思議な兎が起き上がった。

「しかし、それは長く続きませんでした。下で溜まりに溜まったマナが新たな大陸を壊してわき出したのです。ナーマとマナの相性は最悪。互いにぶつかりあい、大きな衝撃を起こして世界を壊していきます。世界消滅のタイムリミットが迫る中、黒い神様の固まった血肉から4体の魔神が飛び出しました。それぞれの神様は下の大陸に生き残っていた魔族に命令し、黒い神様の亡骸をかき集め、自身の結界で覆うことで崩壊を食い止めたのです」

 青い竜、白い鳥、赤い亀、黒い虎。と順番に、不思議な兎が布の下からぬいぐるみを取り出した。

「しかし、新しく作られた4つの大陸には、ナーマとマナが均等でないと崩壊するというデメリットがありました。無限に湧くマナに無限に発生するナーマ。その打開策として両方を同時に減らすという手段が選ばれました。多くの試行錯誤を重ねた結果、白い神様は4本の聖剣を創り出して人間に授けることにしました。聖剣に選ばれた人間が魔神と戦うことでナーマとマナを大量に消費させつつも均等に減らす。それが聖剣に選ばれた勇者と魔神の宿命の始まりです。おしまい。はい! 拍手ぅ!!」

 魔神が盛大な拍手をする。 
 だが、自分は拍手なんて出来ない。
 聞かされた続けた勇者と魔神の関係と全く異なるからだ。

 強く殴れたよう頭の中が揺らぐ。視界がぐにゃりと歪む。肺を鷲づかみされたように呼吸ができない。
 自分の体はベッドの上ではなく、真っ暗な暗闇に落ちているような気がした。
 捕まってから処刑されるまでいた、暗くて濁った空気の牢の暗闇こそが絶望の底だと思っていたのに、まだ落ち続けることに気付いた。

 復讐の炎は小さく萎み、自分は生きている価値はないのではないかと自身に尋ねたくなる。
 自分の心臓を掴むように服を握りしめ、叱咤するように心の中で呟く。

 自分がどうして復讐を願ったのか。
 そう願うほどの恨みや怒りをあいつらに受けたのだ。あの時の痛みと踏みにじられた願いを忘れるな。
 忘れて楽になりたいなんて自分が許さない。

 記憶という刃を持って受けた傷を抉ってでも思い出せ。
 そう、自分を罵った。奮起させた。

「ええ~……。初めから説明すれば敵じゃないってわかって貰えると思ったんだけど・・・・・・なんか悪化しちまった?」

 掛け布団の上に、魔神がちょこんと乗っていた。 
 声を掛けられるまで、気付かなかった。

「とまぁ・・・・・・宿命っていうのはこの世界を維持するために必要な儀式みたいなものだな。理由はどうあれ戦っているのだからどっちかが死ぬのはあるけど、勇者絶対殺すって気持ちはないから安心してくれ~」 
  
 そう言うが、魔神同士はどうなる。
 人間はそうだ。親しい者が魔物に殺されれば、その恨みを誰にぶつけなければ気が済まない。
 猛る感情に流されるがまま、その言葉をぶつけた。

「ないない~」

 魔神はへらへらとした表情で否定した。

「魔神同士の付き合いなんて全然ないからな~。消滅したって聞いても「あ。お疲れさーん」でおしまい!」

 身も蓋もない。
 少しは悲しんでもいいのではないか。
 魔神の冷たい態度を見て、猛っている感情が少し落ち着いた。

「俺は俺で別件で来ただけ。魔神を倒した勇者にいちいち怒ってらんねぇよ。蒼い炎使えるなら話は別だけど」

 口調とは裏腹に、冷淡な性格なのかもしれない。

 不思議な鳥が、魔神に何か語りかけている。
 魔神が何かを語り出す。
 不思議な鳥と兎の表情が、うんざりとした呆れに変わった。
 視界の隅で、不思議な熊の体がびくりと震えた。

「今、面白ぇ質問あったから伝えるわ。魔法で使える炎ってのは基本赤だ。が、魔法はイメージによって魔力に与える形が変わる。その1つが色による効果の使い分けだ。ちなみにだが、青系統で炎にも3種類あるぞ~。色の三原色の青は水や氷のように冷たい炎。薄暗い月光のような蒼は高熱で骨すら残らん。緑味の強い碧は癒やしの効果を持った炎。と、用途が変わっている。これは人間も魔族も変わらないな」

 何度も魔法を使っていたけど、初めて知った。

「──うんうん!! その顔見ればわかるぞ~!! 魔法に疎い奴がする驚きの顔だ!! その辺りの説明は別の機会にたーっぷりしてやる!! 俺、魔法の説明大好きっ!!」

 魔神は体をくねくねと動かして楽しそうに告げた。

「で、俺が許せんのは2番目の蒼い炎だ。理由はかっこいいからだ!! マジで許せん!!」

 右手で拳を作って上に持ち上げ、仲間の仇を取ると誓うように強く宣言する。

 そんな理由で熱くなれる魔神を見ていたら、なぜか自分の方が冷静になってきた。
 なんでこんなに感情豊かなのだ、と。

「この俺なら毛という毛を全て毟る。狼の俺なら頭をがぶがぶと噛みつく。これでも手加減しているんだぜぇ!!」

 魔物に髪を引っ張られ、噛みつかれた時の記憶が蘇る。共に痛かった。
 髪が束で引き抜かれた時は、髪の数分針を刺されたように痛かった。少しの間だか、痛みの余韻で頭が割れるように痛み続けた。
 すぐに回復して傷は消えた。だが、噛まれた場所は焼き石を入れたように熱く、傷を炙られているかのように痛みが数日間続いた。
 あれでも、手加減だったのだと初めて知った。
  
「・・・・・・で、そこの白熊の魔族よ。お前がさっき出した炎の色は?」

 魔神の口から、自分にもわかる言葉と鈴の音が同時に聞こえた。
 びくりと体が跳ねたのは、不思議な熊だ。

「さぁ!! 楽しい毛刈りの時間だぁよ!!」

 魔神は身を屈めてから高く跳び、不思議な熊──否。熊の魔族に飛びかかる。
 悲鳴を上げるように、鈴の音の声を鳴らして熊の魔族は逃げ出す。
 棚と棚の間を縫うようにして、追いかけっこが始まった。
 熊の魔族が急に方向転回。笑って見ていた他の魔族に気付いたからか。
 兎と鳥の魔族も巻き込み、魔神が追いかけ回すという状況が出来上がった

 ぐるぐると追いかけ回すだけの光景なのに、面白く感じてくる。
 口に手を当て抑えようとするが、我慢できずに噴き出す。
 必死に声を抑えるが、腹はよじれそうになるほど痛い。

 心の中、腹の底から笑うなんて何年ぶりだろうか。
 この間だけ。不安も緊張もどこかに行っていた。
 


 追いかけっこが終わったときには、3体の魔族は疲れ切っていた。
 荒い息をして、敷物のように平たくなっていた。

「存在は似ているが魔神と魔族は別の存在だ。魔神はもう魔神として確立した存在だ。ほとんどの魔族は魔神の元にやってきてレベルアップに励んでいるな。魔神の側にいるだけでも少しだがレベルアップできるからと勝手に集まってくる。下級、中級、上級とランクがあって、上級の一部の奴らには魔神の眷族って名誉と権能が手に入る。ちなみに、こいつらは北の大陸産の下級な。勝手にここに通って──住みついてやがるなぁ・・・・・・」

 何か文句を言いたそうに彼らを睨む魔神は、呼吸1つも乱れていない。
「いつからだぁ~? ・・・・・・お前をここに移してからだわ・・・・・・」

 ひとしきり笑ったせいか、今は魔神を警戒する気になれなくなってしまった。

 話を聞きながら、自分の体の調子を確認する。
 手は感覚がないだけで動かせるが、足の方は全く動かない。
 しかも、全くナーマを吸収することも出来ない。
 聖剣もないから、治癒すらできない。

「あ。お前さん。もう魔法使えねぇぞ」

 南の魔神の言葉に、耳を疑った。

「あんな無茶なことすりゃ魔力変換機関もぶっ壊れるってもんだよ。お前の知っている聖女やお仲間さんなら二度と直らない。が、聖剣に選ばれるほど強靱な機関だ。20年ぐらいで修復するぞ」

 そんな長く待ってはいられない。 

「ま! あと13年ぐらいだ。良かったな!!」

 自分は7年も寝ていた。その事実を笑顔で告げられ、目の前が真っ暗になる。

 魔神は、キョトンとした表情で何度も首を傾げる。

「え? なんで捨てられた子犬のような顔してるの? ──わわ!!」

 今から復讐にしに行かなければならない。
 時間が惜しいのだ。

 ベッドから転げ落ちる。足が使えないなら、這ってでも行ってやる。
 体が重い。前に出す腕が遅く感じる。すぐに呼吸が乱れる。
 でも、13年もベッドの上にいるよりはマシだ。

 右腕を前に出そうとしたとき、羽交い締めにされるように持ち上げられる。
 顔を上げれば、熊の魔族の顔があった。
 両腕と動かせる体を揺らして、離せと暴れる。
 熊の魔族だけでなく、鳥と兎の魔族もあたふたとする。
 
「・・・・・・まぁ。どうにか出来ることもないけど」

 魔神はこちらの様子を窺うように、そう言った。

 自分は暴れるのを止めていた。そして、魔神を見据えていた。

「それを選んだら2度と人間に戻れないし、人類の裏切り者になる。お前さんが処刑された罪を実際に犯すってことだが・・・・・・それでも聞くか?」

 こんな所で時間を無駄にはできない。
 覚悟を見せるように、自分は強く頷く。
 
 魔神は鈴の音で鳴いた。
 魔族たちも同じように鳴くか、どこか不安そうに聞こえた。
 魔神がもう1度鳴くと、熊の魔族は自分を運んでベッドに下ろす。
 そして、魔族達は書斎から出て行った。

「さて」

 魔神の声に、真剣さが籠もっていた。

「これから話す内容は黙っていてくれ。今のお前さんの目の代わりを果たしているのは魔眼と呼ばれる魔力を帯びた義眼だ。魔眼そのものに独立した魔力があるから今は生命維持装置として使っている。こいつがなかったら、お前さんは意識が戻ることなく死んでいた」

 死の瀬戸際にいたことに、おもわず拳を握った。
 そんな危険な状態だったのかと怖くなった。

「両腕、両脚、それと鼓膜は俺の方で用意した代用品だ。お前さんの体の中を巡廻している魔眼の魔力で動かしていると思ってくれ。今は生存維持と鼓膜優先にしているから、足の方はしばらく我慢してくれ」

 自分が生き延びた理由と、足が動かなかった理由がわかった。

「お前の魔力変換機関が全快したら、人間らしい義眼に取り替えるつもりだった。その時こそ、お前の復讐計画を本格的に始める予定だった。──が、それまで待てないっていうなら、お前が俺の眷族になればいい。魔力に変換する機関をマナ専用に交換し、魔眼に連動させればすぐにでも全快できる。しかも、眷族のみに与えられた能力も得られて復讐の手助けになる・・・・・・お前が人間である以上、その代償はかなり大きいから──」

 眷族にしてくれ。そう口にした。

「もう少し考え・・・・・・なんと?」

 魔神が呆けた声を出した。

 もう一度、その決意を口にする。

「・・・・・・寿命で死ねない、苦痛と孤独を味わい続けるぞ?」

 それでもいい。
 復讐が果たせるなら、喜んで人間を辞めてやる。
 それに、自分にはあんたに払える金は持っていない。
 だから、報酬はあんたの道具として使われてやる。
 その考えを魔神に伝えた。

「・・・・・・ほう。随分と啖呵を切ったものだ。眷族になったら、南の勇者とも戦うことにもなる。その辺りはどう思ってる?」 

 復讐が終わった後なら、戦ってやる。
 邪魔なら、その首を持ってきてやる。
 
 そう告げると、魔神は重々しいため息を吐いた。

「・・・・・・わかった。眷族として契約してやる」

 否定されるかと思った。
 あのため息を知っていたからだ。
 期待外れと失望。そして嫌悪。
 全て、勇者の時に向けられ続けたものだった。
 そうでなかったことに安堵する。

「だが、復讐を始めるのは早くて1年後だ。人間が魔族になるなんてほぼない。復讐しているときに支障が出るかもしれないからな」

 即座に頷いた。
 7年も無駄にしてしまっている以上、さらに13年待つよりも条件は良かった。

 それに、この体1つ差し出すことで復讐が叶うなら安いものだ。
 この体なら、好きに使ってくれと思った。

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