After story/under the snow

黒羽 雪音来

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3.1‐3 閑話 魔法の授業

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 あの書斎で過去にあった話だ。

「よーし!! 今回の講座で1番のお楽しみっ!! 人間と魔族の使う魔法の話だ!!」
 教える側が、小躍りして浮かれている。
     
「ぶっちゃけ。魔神や魔族に、人間のような魔法の概念はねぇ」 
 唐突な証言だ。それを言ったらこの講座はもう終わってしまう気がする。 

「人間は呪文や魔法陣という型に魔力を押し込めて魔法に整形する。魔族は自分が思い描いたイメージ図で魔力を整形する」

 魔神はそう言うと、書斎にある簡易キッチンへ向かった。

「口で言ってもわかりにーくーいーのーでー・・・・・・クッキー焼いたぞぉ!!」

 小さな猫の体で、大きな鉄板を運んで戻ってきた。

 くっきぃ、とはなんだ。
 そう疑問に思ったとき、彼らは目を輝かせて何度も両手を挙げて喜び始めた。

「っふ。下級魔族達よ。心して魔神お手製クッキーを食えよ・・・・・・今なら、温かいうちじゃないと味わえないソフト系だ!」

 彼らは、鉄板の上のそれを摘まんで口に運ぶ。
 顔を綻ばせ、次々と手を伸ばす。

 しかし、魔力の説明にくっきぃがどのように関わるのか、全くわからない。
 魔神は、薄くて綺麗な形のものを数枚手に取る。

「星なら星形、丸なら丸形と、決まった型しか作れねぇのが、ナーマで生産した魔力で使う人間の魔法。炎の魔法なら炎を生み出すそれだけに絞る。型があるぶん、威力や継続時間が安定した魔法が作り出せる。──ナッツ系などの飾りを乗せるように、多少の付与を付け加えれば、炎を火柱のように伸ばしたり、地面を這わせたりすることもできるぞ。だが、それは生み出した炎限定。何度も火柱を上げたいと思ったら、炎を生み出すたびに付与しないといけねぇ」

 持っていたそれを鉄板に戻し、今度は厚みがあるが形が歪なものを1枚手に取る。

「そんでマナで生産した魔力は上質かつ膨大なので・・・・・・使っている材料と生地の厚みがランクアップぅだっ!!」

 厚みのあるものばかり手に取っていた彼らは、薄い方ばかりを食べ始める。
 
「型抜きを使わずに俺が作りたい形に作ったように、魔族の魔法には決まった形が存在しねぇ。炎を生み出そうと思ったら時に、ついでに火柱もあげちゃおうって軽い気持ちで使えちまうのが良い点だな。同じ火柱でも、使う魔族によって見た目なども変わるのも特徴だ。見た目より味と量で勝負!! ──だが、型がねぇから安定感もなく、出力に乱れが起きやすい。そーなると、何かの拍子で魔法が消えたり、暴走したりしちまう」

 魔神は持っていたそれを2つに割った。

「人間の魔法は自由と応用力はねぇけど安定感はある。魔族の魔法は安定感はねぇけど自由と応用力はある。まさに対の関係だ」

 魔神は割ったそれを、もぐもぐと食べ始める。

「魔力の波長や属性の相性もあるからこれが全てってワケじゃねぇが・・・・・・これが基準になるぞ。あと、魔族の魔法は現象や能力って呼んでいる。魔族にとって魔力は生存のために必要なエネルギー。攻撃に使うより自分の体の延長線って思って使った方が安定する」

 魔神は、厚みのあるそれを手に取ると、自分の口に強引に突っ込んできた。
 口に突っ込まれた衝撃と、今まで口にしたことのない味の衝撃に、頭が混乱を起こす。
 だが、異物ではないと体は理解しているか。吐き出すことはなかった。

「味の薄い保存食ばっか食ってるの知ってるんだぞー。たまには甘~い菓子を食えー。チョコクッキーの甘さに喜びー悶えろー。あっはっはっは!!」」

 悶えはしないが、甘さと美味しさに頬が落ちそうになる。
 この世には、こんな美味しいものがあったのかと、今更気付かされた。 

「そーしーてー」

 魔神は、再び簡易キッチンへ行き、鉄板を持って戻ってきた。

「魔神は超越した存在なので・・・・・・同じ材料で、完璧なマドレーヌが作れてしまうのだぁ!!」

 大喜びする彼らと、どうだっと得意げな顔をする魔神。
 説明は理解はできたが、このやり取りは必要なのか、と呆れた。
 
 そのせいで、新たな菓子を持ってにじり寄ってくる魔神に気付くのが遅れた。

 
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