After story/under the snow

黒羽 雪音来

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3. 3-3 不愉快、懐疑。そして

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 纏わせていた魔力を消し、剣を鞘に戻す。
 
「で、どのぐらい本気出した?」
 狼の姿をした南の魔神が、ゴクンと呑み込む音を鳴らしてから尋ねた。

「・・・・・・教わったとおりに影を操ったのと、駆けだして剣を振るっただけだ」 
 自分がそう答えている間、この狼の特徴である長い舌で、口の周りの血を舐め取っていた。
「わぉ!! 強ボス相手に全っ然本気じゃなかったってことか・・・・・・初めての得物で返り血なし。──よっ!! 天才剣士!!」
 言葉だけなら嫌みに聞こえるかもしれない。だが、南の魔神の声にはこの結果に対する歓喜と、次も期待するような微かな興奮があった。
 いつもの冗句として流す。

 欲しいのは的確な評価。
「今回はどうだ?」
「ちょっとは余韻に浸れよぉ~。・・・・・・ま、不合格だな。力の方が足を引っ張ってるぞ」
 やはり、そうなってしまった。
「トリガーとコントロールに時間がかかりすぎ。魔物の拘束に集中しすぎて、影を使った防御球の維持が大雑把。前回の方がまだ良かったぞぅ~」

 南の魔神の言葉は正しい。
 こちらは返す言葉もない。

 今回のように、村や町などの小規模の人家の集まりばかりを狙って襲う魔物相手に、毎回同じことをしている。
 今回で7件目。
 下級魔物は全て拘束。住人は影の防御球で保護。強ボスは殺さずに一撃で無力化。
 この3つを課題として、南の魔神が合格を出したら本格的に復讐を始める。

 自分のやらかしが原因だが、そういう流れにされてしまった。
 途中で気付かなければ、不合格と言われなかったかもしれない。
 過ぎたことは変えられない。不合格と言われたらそれまでだ。


 正直、強ボスの最後の言葉が気になる。
 以前、魔物と魔族は全くの別だと、南の魔神から教わった。

 書斎にある本に、魔族の特徴は書かれていた。
 1番わかりやすい違いは、魔力変換機関に対応する大気中の力だ。魔物はナーマを取り込むが、魔族はマナを取り込む。

 眷族になったことで、マナを取り込んで魔力に変えている。違う力を取り込んでいるのに、強ボスは同じ存在だと言い放った。
 その言葉の意味を知っていると思われる南の魔神が、絶対に教えないという意志を見せつけるように、わかりやすい口封じをした。 
 考えても仕方ない。答えを探すにも、時間がかかるので保留にする。
 これから、大事な用を果たさなければならない。


「お! 国の騎士団が到着から移動するぞ~」
 魔神の声に、自分は静かに頷く。
 水の中に体を沈めるように、魔神の影に潜る。
 同時に、魔物を抑えていた影の拘束だけを解除する。
 これは、復讐計画の下準備。
 リーダー格を失った魔物達は、村に辿り着いた騎士団へ襲いかかる。
 新しい玩具を見つけたかのように。我先へと。

 魔神は、戦いが起きていない道を駆して離脱する。
 巻き込まれないが、高見の見物ができる場所で足を止める。
 水の中から飛び出すように、魔神の影から出て、雪の上に長靴の底を着ける。

 人形のような小さな姿に見える人間と魔物を見るのも、7回目だ。
 声までは聞こえてこない。
 魔力を調節すれば、騎士団の怒声や悲鳴、魔物達の歓喜と哄笑の声を拾うことはできる。だが、自分の手で人間を殺せないという虚しさしかなかった。1回で止めた。

 音がなくても、状況はわかる。

 村が魔物に襲われている。
 そう言われて救助にやってきた王国の騎士団。
 結果は最悪だった。
 5人がかりで1体の魔物を仕留めようとしてもあっさりと返り討ちにあうほどだ。
 人間の負傷者と死者を増やすばかり。騎士団から魔物の人形に成り下がるまで、時間はかからなかった。

 ほどなくして、教会の守護団が加勢した。
 だが、状況は一向に変わらない。  
 最悪な形の敗北は、約束された結果だった。

 北の魔神を討伐した一行──北の聖女、騎士、魔法使い、大賢者がいれば状況は変わった。あの中にはそれを願った人達もいただろうが、それは絶対に叶うはずのないのだ。
 太陽と月が交互に登るのが当たり前。それと同じだ。


 満足した魔物は立ち去った。
 村で起きた悲惨な光景の方がまだ優しいと思えてしまうほどの、惨たらしい光景が残された。
 戦いに不得手な人間が風下にいたら、風に運ばれた濃厚な血の臭いで胃がひっくり返り嘔吐していただろう。
 
 そんな光景に、魔神は愉快そうに口笛を吹いた。 
 自分には人間と魔物を殺すことを、口酸っぱく何度も言って禁止している。血生臭い、残虐な光景が嫌いならわかるが、そう言った様子はない。
 むしろ、今みたいに楽しそうにしている。
 戯けた様子も相まって、どれが本当の性格なのかわからずに、不愉快さと懐疑が募る。
 体の内側に薄く広がっていた黒い靄が、さらに広がっていくのを感じた。
  
 だが、今は大人しくするしかない。 
 魔物が村を襲撃する中で、子供を囮に逃げ出す、復讐対象の男がいたのだ。
 この好機を逃したくないのだ。


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