After story/under the snow

黒羽 雪音来

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13.1-4 閑話 ■■の力

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 南の魔神が拠点としている氷の洞窟。
 書斎と呼んでいる場所ではなく、堅い岩を包み込む、一面氷に閉ざされた空間。

 使い方は聖剣と同じ。
 自身の体の中にある、純粋な力として出力できる魔力を剣に乗せる。
 
 聖剣の時みたいに、魔力をただ纏わせると耐えきれずに剣が壊れてしまう。
 剣に薄く塗るように魔力を這わせ、その上から膨大な魔力をくっつけるように乗せる方法に変えた。

 勇者の時に飽きるほど見た輝かしい光は消え失せ、1つの命のようにうねる禍々しい魔力が剣に纏わり付く。他の場所より厚く堅い氷と岩の塊に振り下ろす。

 真っ二つに割れた断面に、剣が通り過ぎた波紋がない。飛び散る欠片もなかった。
 物心がついてから老いて死ぬまで剣を振るい続けた人間であっても、到達できない洗練された技術だと、評価していた。

 唯一の観客であり、先程の評価をした存在が、肉球で拍手をする。

「っよ!! さすが天才剣士!!」

 純粋な歓喜の声で喝采をするのは、コナユキ猫の姿をした魔神だ。

「全然腕が落ちてねぇ!! 天才剣士の名は伊達じゃねぇな!! あはははははは!!」

 自分のことのように喜んで笑う魔神を見て、自分の方が恥ずかしくなってきた。

「じゃ!! 眷族の力も行ってみようっ!!」

 魔神の言葉に、自分は黙って頷いた。 

 ここからは眷族としての力を試す。
 眷族としての能力は、その上級魔族が使える能力によって変わる。
 魔族とは違って元となる能力がない分、どのような能力になるかは未知数だ。


「前にいた元人間の眷族は、精神に直接攻撃できる能力だったな~。幻術が使えたから、それと組み合わせてえげつない攻撃してたなぁ~」

 魔神のこの言葉から、元からある能力と組み合わせることで攻撃に昇華させたのだろう。
 自分の取り柄は魔力強化のみ。
 氷の魔法も使えたが、調整ができないから論外。
 勇者時に、窓から見た旅芸人が使っているのを一度見ただけで使えた。練習として使おうとするたびに無能や無知にはできないと言われ殴られ続けた。最初の1回しか使うことはなかった。
 眷族になってから使っていない。復讐を果たすなら、使えない力に頼るのは避けた方がいいと考えた結果だ。
 魔力を底上げする能力になるだろう。そう目星を付ける。


「ま~。とりあえず感じるままやってみ~」
 魔神はのんびりした口調で促した。

 この能力を発動させて見極めるのだけでも時間はかかる。魔神はそう言っていた。


 神経を研ぎ澄ませる。
 軽く持ち上げた右の拳に、魔力を収束させる。

 掌の魔力に、別の力が交わり1つになるのを感じた。

 目星を付けた能力を考えれば、この魔力を解き放てば発動するだろう。
 操作という形で留めていた魔力を、手を開いて自由にさせる。

 魔力は水雪のようにすぐに解けて消えた。
 魔法の不発によく似ていた。失敗かと思った。


 いきなり自分の体が下に沈んだ。
 両手で氷の地面を掴むが、強い吸引力に引っ張られ、抵抗虚しく引きずり込まれた。


「な、なんだっ!!」
  魔神は目をまん丸にして、毛を逆立てて、驚きの声をあげた。

 その姿を最後に、真っ暗な暗闇の中に自分はいた。
 立っている安心感はなく、漂っているような不安定感があった。
 上を見上げれば、零れ日のような淡い光が薄く広がっていた。
 あそこに行くにはどうしたらいいのかと思った途端、体が上に引っ張られた。

 急浮上するように、もといた氷の空間に放り出される。
 全てがいきなりで対処が追いつかず、着地を失敗して尻もちを着いた。

「・・・・・・なんでそーなるのよ・・・・・・」

 魔神は驚きを含ませた声で呟いた。
 その言葉の真理を聞くと、魔神ははっと我に戻ったように体が跳ねた。

「・・・・・・ウォッホン」
 わざとらしい、咳払いをした。
 だが、あからさまに目が泳いでる。

「お前の能力・・・・・・影にまつわるものだ。・・・・・・間違いない。・・・・・・前にいた、隠密に長けた別の眷族も同じことしていたしな・・・・・・うん・・・・・・」

 魔神は挙動不審だが、この能力は理に適っている。

 日陰を生きてきた自分を体現しているのだと。

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