After story/under the snow

黒羽 雪音来

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13.2-4 協力関係

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 ウタネは民草を守る王族として、アルバースト家当主が許せなかった。

 政略結婚という名目とはいえ、幼いことから東の大陸の婚約者と交友を持ち、育て続けてきた関係を壊された。
 だが、悔いは無いと言う。

 魔神討伐の戦利品としてウタネを欲した。
 だが、それを快諾した王妃の思惑は違った。
 ウタネを嫁がせる条件として、優秀な子孫を作るように。そう命じたのだ。
 その命令から逃げるように夜な夜な女遊びに出かけ、王妃から毎日届く催促と報告の手紙の対応すら放棄する、アルバースト家当主に嫌気がさした。王妃からの催促の対応を押し付けてくることに理不尽に感じて怒りを覚えた。
 と、いうことでもなかった。
 寧ろ、出掛けてくれた方がありがたいとすら思っていた。宝石を撫でるように、抱きつかれるのが嫌だからだ。


 アルバースト家当主は、自らの名誉の誇示のために民草を苦しめている。これが許せないのだ。
 その証拠を見つけて失脚させ、虐げられている民草を助けたい。それだけだ。
 だが、1人では限界だと思い始めた矢先に、自分を見て手を組むべきだと直感した。
 それが、身分を明かしてまで話をし続けた理由だ。

 こちらにも利がある。

 ウタネを隠れ蓑にすれば、レモーナ家当主の屋敷に張られた魔法壁や魔法の罠の数と解除を調べることができる。
 大賢者の行動パターンもわかるかもしれない。
 自分ひとりで探すより、時間も少なく済むはずだ。

 利用してから殺せばいい。
 そう思い、協力関係の申し入れを受け入れた。



 協力関係を結んでから数日で、奇妙な習慣が出来てしまった。
「そもそも聖剣は、白き神が魔神を倒すために創られた武器です」

 最初の方は、情報交換や作戦を練るための話し合いでとても短かった。

「東の大陸では、ナーマが満ちていた時の大陸の土を捏ねて造りあげたとありましたが・・・・・・苗床という言葉から植物のように花を咲かせるか実を付けるような存在なのかも知れませんね・・・・・・」

 だが、互いにいろいろと不祥事を探って成果を語り合っていく内に、情報交換の時間が伸びていき、ウタネが紅茶や焼き菓子を出してきた。

 こちらが要らないと拒否しても、紅茶を注いだカップを渡してくる。
 ウタネは、諦めが悪い性格であった。
 自分が諦めるしかなかった。


 菓子はウタネがこの部屋で作っている。
 嬉しそうに小さなオーブンを見せられたときは、軽い頭痛がした。

 この皇女は何をしているのだ、と。

 だが、ウタネなりに菓子を焼く理由があった。

 一般市民が始めた店に貴族が来ることはほとんどなく、細々と営業していても赤字が続いて閉店に追いやられる店があとを絶たない。
 そんな店からウタネが焼き菓子の材料や調理器具を買い、実際作って感想を伝えたり、孤児院のチャリティーで代わりに売ってもらってどこの店の商品かを宣伝することで、飲食をしている店や貴族という大口からの依頼という架け橋を担っている。

 最初は、無理矢理口に突っ込むという印象の悪さがあった。
 それをなかったことにしてしまうほど、とても美味しい焼き菓子だった。
 自分は商売の仕組みを知らない。だが、この美味しい菓子がお店で食べられれば買いたいと思う人はいるだろう。
 食べていて、南の魔神にも同じことをされたのを思い出した。


 短い時間はさらに長くなっていった。
 黒猫の結界もあり、この屋敷の人間は全く気付いていない。

「他の大陸の伝承とか知れれば考察の範囲も広がるのですが・・・・・・」

 自分は復讐と同時進行に、〈聖剣の苗床〉を調べていた。 
 勇者が見つかるまでの間の聖剣の管理保管は、聖剣を拵えた天井の神を祀る教会ではなく、城で行っている。
 王族なら何か知っているのではと思い、単語を伝えたが知らなかった。
 こちらとしては、求めている答えが得られるとは期待はしていなかった。
 
 ウタネが〈聖剣の苗床〉に興味を持つとは思わなかった。
 調べるのを手伝うと言い出したので断った。しかし、ここでも頑固を発動させて勝手に調べ出す始末である。

 ウタネは使用人に頼んで、聖剣にまつわる伝承の書物を借りてきた。
 分厚いが3冊しかなかったと驚きながら告げるウタネに、自分も驚いた。
 魔神が言うには、同じ伝承でも内容に変化が応じているためにかなりのバリエーションが存在していると言っていた。それを調べてみると面白いぞ、と。

 北の大陸の異常な少なさに、頭が少し混乱した。
 それでも、何か手かがりはあるかもしれないと読み始めた。

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