After story/under the snow

黒羽 雪音来

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13.4-4 日陰を生きることを望まれたもの

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 原因は自分なのだが、どうしたらこうなったと尋ねたい。

 ウタネによる怒濤の質問攻めに合い、ようやく解放された時には外は夜に変わっていた。
 部屋の外にいる執事が夕食の時間を伝えなかったら、まだまだ質問は続いていただろう。
 否。夕食から戻ってきたらまだまだ続くかもしれない。

 先程の疲れがまだ可愛らしく思うほど、今は疲労困憊している。
 剣を振って戦っている方が楽だと思えた。


 必ずと言っていいほど、夕食はアルバースト家当主と一緒に摂っている。
 アルバースト家当主の命令であり、ウタネには拒否する権利がなかった。

 何かの拍子にこちらが欲しい情報を話題として話すかもしれない。そのため、ウタネの影に入って会話を聞いている。
 狩猟会でボタンユキエゾシカを狩って優勝した。そんな自慢話ばかりをする。
 ウタネは微笑みを浮かべて頷き、共感するふりをしている。
 それもそうだ。
 聞いている側の方が飽き飽きする、独りよがりで中身のない話だ。


 先程までの、明るく、好奇心旺盛な様子を見ていればわかる。 
 そんな話をしたいのではない。
 言われたことに対して、頷くだけの道具になりたくない。

 多くの人々の生活を支えるには、どうしたらいいのかという現実的な話をしたい。
 他の大陸ではどのようなことをしていて、この大陸にも応用できないかと相談したい。
 本でなくてもいい。
 同じものを見て、知っていることを教え合い、互いの知見を増やし、知る喜びを分かち合いたいという当たり前のようで、夢のような素晴らしい時間を過ごしたい。

 今のウタネには、それすら叶わない。東の大陸に嫁いでいれば叶ったであろう細やかなそれらは、今では手の届かない遠くに去って行った。

 上に立つ者として、人の役に立ちたいウタネ。
 上に立つ者として、自分の思い通りに動かそうとするアルバースト家当主。
 噛み合わない願い、妥協の話し合いもない以上、どちらかの願いが無下にされるのは当然だ。
 王族とはいえ、戦利品として身分と立場を隠して嫁いできたウタネの方が身分が低くなるのも当然だった。

 この大陸にとって身分は大切だが、それで願っていた夢が叶わなくなるのは辛く悲しいことだ。

 だから。
 ウタネを可哀そうだと思った。
 少しでもそんなことはないと思ってほしくて、いろいろと伝えてしまった。
 烏滸がましいとわかっている。
 殺してやると言っている奴が何を言っている、と自分で自分を責めたくなる。
 
 けれど。
 自由を求めていたのに、その願いすら叶わなかった昔の自分の姿と重なった。
 まだ、罪を犯していない自分を見ているようで、無視することができないのだ。
 


 影に潜る前に言われたウタネの言葉が頭から離れない。
「南の魔神は、影さんをとても気にかけていらっしゃるのですね」
 自分のことのように嬉しそうに笑っていた。
 自分が綺麗な石を見つけ、良かったねと褒めるように。

 ウタネはそれを直に見ていたわけではない。
 自分が語った言葉から、そう感じとった。

 罪を犯していない自分だったら、可哀そうだと思って魔神は手を差し伸べてくれた。
 そう思えた。

 否。そんなはずはない。 
 目的達成の為に、利用価値があるからと自分を手元に置いていただけの相手だ。
 ピエロを思い出せ。
 心の中では自分を蔑んでいた相手だ。
 嫌悪と苛立ちを隠して自分に接していた相手だ。

 日陰を生きることしか望まれていない。それが自分だ。
 何も罪のないウタネではなく、罪深き罪人の自分なのだ。
 
 罪人の自分には、誰かに気にかけて貰える権利などない。
 罪人の自分には、そう思ってもらえる権利もないのだ。

 余計、頭の中がこんがらがってわからなくなってしまった。
 使命のようにやらなければいけない事柄をも巻き込み、ぐちゃぐちゃになっていった。
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