After story/under the snow

黒羽 雪音来

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14.1-4 閑話 こだわり

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 南の魔神には、奇妙なこだわりがあった。

 序の口なら服装。

 なぜか同じものを数着用意する。
「つーかよぉ。なんで人間って動きにくい服を好むんだろうな~?」 

 渡された北の大陸の貴族らしい服装よりは、今着ている服の方が動きやすい。
 シルクハットもいらない気がする。外見を気にしてという理由なら、渡された服だけで充分な気がする。

「いやいやいや~。シルクハットは重要よ~。服だって毎日交換しないとな~」

 服は1着あれば充分に生活できる。そもそも、服を交換する理由はない。
 それを伝えると、魔神は目を丸くした。

「・・・・・・南の大陸では、自分の体と着ている服の汚れを一瞬で綺麗にする魔法があるんだが、お前さん使えるぅ?」

 自分は無言で首を横に振った。

 そもそも。服の役割は、肌の露出を少なくし、寒さから少しでも身を守るためだ。
 破れたって服として機能しているなら、着続けるものである。


 猫の姿をした魔神が固まった。図鑑の写真で見たフレーメン反応そのものだ。

 鳥の姿をした下級魔族が、翼のような手で激しく叩くも何も反応がない。
 兎の魔族、熊の魔族と、順番に叩く。


 その魔法が使えないことが、なにか問題だったのだろうか。そう疑問に思った。

「・・・・・・北の大陸、まじでありえん・・・・・・」

 南と北では違うのだからわかりあえるはずもない。
 そう思っていたら、敵を睨み付けるように魔神が上目でこちらを見る。

「いいかぁ~。人間も魔族も心と体を洋服を洗わないとカビるんだぁよ~」

 この「だぁよ」と不思議な言い方をする時の魔神は、かなり不機嫌な時だ。
 そうなる要素がどこにあったかわからない。

 他の魔族達がその不穏な空気を感じとり、おろおろと自分と魔神を交互に見る。

 人間がカビに犯されることはない。
 そう言った直後、「無自覚野郎に清潔さの良さを教えてやるだぁよ」と息巻く魔神が作り出した砂嵐に連行された。



 ただ、この序の口は後にそう思ったことだ。
 先にやり過ぎと思う経験をしていたため、自分の感覚が狂っていて、ああそうか程度にしか捉えていなかった。
 自分の中で、これが1番やりすぎだと思った。
  


 眷族の力を貰ったばかりの頃。書斎でそれを行っていた。
 意味がない。復讐に必要ないからする必要はないと魔神に伝えた。

「・・・・・・ここ、スペルミス」

 何も聞いていないかのように流された。

「・・・・・・この文章は現在形じゃなくて過去形」

 もう一度。同じ言葉を伝えた。

「・・・・・・またスペルミス・・・・・・っと。もっと頑張りましょう~」

 猫の姿の魔神は、持っていた赤色の鉛筆を机の上に置いた。

 こんなくだらないことしているより、復讐の計画を立てるか、剣の特訓をした方がいい。そう伝えた。
 すぐに動けるようになったとは言え、7年間も寝ていたのだ。体が鈍っている。

「いやいや~」
 魔神は冗談を笑いながら受け流すように、器用に右手を左右に振る。

「無知で復讐完遂できるワケねぇから!」

 猫特有の可愛らしい笑っているような笑みで、心臓を抉る言葉を放った。
 こちらとしては、心臓だけでなく耳も痛い。
 無知。それは、勇者の時に魔法使いに何度も言われた言葉の1つだ。
 嫌な言葉ほど心臓に良くない。

「……復讐ってのはルールもジャンルも関係ねぇ! 先手必勝! 勝った奴が正しい! 邪魔する奴は殴り飛ばせ! 弱肉強食なら中の立場から弱も強も食っちまえっ! ・・・・・・って感じだからな。使えるものは全て使わないといけなくなるのよぉ・・・・・・」

 最後は諭すように言っているが、興奮した声で言っていた途中の言葉は復讐と関係ない気がする。

「神様から祝福授かってます~って思うほどの幸運あればいいけどよぉ・・・・・・お前なさそうだし・・・・・・」

 運の無さは、1番自分が理解している。
 言い返せない。視線を逸らすことしかできない。

「・・・・・・なんだかんだと言いながら真面目に取り組むし負け惜しみの1つもない・・・・・・こいつ生きていけるか不安になるなぁ~」

 よくわからないが、守ってあげたいと言いたげな目でこっちを見ないでほしい。

「ま! 運を当てにするより、自分の実力で突破した方がいいって話だっ‼ この大陸じゃお偉いさんしか勉強する機会がないからわかりにくいだろうが、私生活から仕事や戦いまで幅広く使えるし、勉強したことが使えると楽しくなるぞ~」

 語学の答案用紙を片付け、数学の答案用紙の採点を始めた。

「・・・・・・ここは計算ミス。赤点だったら復讐お預けにして勉強漬けになるから気を付けろよぉ~」
 今。さらりととんでもないことを言われた。

 それはありえない。あってはならない。

 自分の目的は復讐だ。その手助けをするといった人物が何を言っている。

 魔神がじっとこちらを見る。
 まるで、自分の心の中を覗いて何を考えているのか見ようとするように。

「お前が復讐を果たせるように計画を立てサポートするのが俺の仕事。脳まで筋肉でできた武術の匠に余裕で勝てるのは保障してやる。が、知恵と知識で筋肉を補う頭脳派相手だと苦戦する。いや、負けるな。天地がひっくり返るほうがまだ当たり前だと断言できるほどお前に勝ち目はねぇ」

 勝ち負けは関係ない。この大陸の人間全てを殺せるなら差し違えても構わない。

「特に、魔法使いや賢者の類いが今のお前にとって相性最悪な敵だ。そいつらに対抗する切り札は、知識とそれを使う脳。魔法を使わせないじゃない。打ち破るが勝利の条件になって、必ず後手に回らないといけなくなる──知識で対処できりゃ、自慢の戦闘センスでノックアウトっ!!」

 魔神は赤い鉛筆を抱えて、何もない空間に何度も突き刺す。

「も、可能だ!! ・・・・・・おいおい。この数字はどっから出てきたよぉ?」
 魔神は鼻の上に皺を寄せて、1つの数字を丸で囲んだ。

 げんなりしたいのはこっちだ。ちんたらとこんなことをしていても時間の無駄だ。

「勉強以外にも言葉使いやマナーとかいろいろ覚えること多いからな~。そっちでも赤点だったら補習だぞぉ~」

 変なところばかりこだわる奴になぜ頼んだ。と、死にかけていたあの日の自分を恨みたくなった。

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