After story/under the snow

黒羽 雪音来

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14.2-4 自分の置かれた立場

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 なぜ魔神が、アルバースト家当主を後ろに回したのかわかった。
 この場所はマナがないのだ。

 人間の命を奪うほど危険な大気の力は、人が多い場所にはない。
 それを失念していた。

 生命維持の魔力は魔眼が担ってくれている。だが、眷族としての役割の分が日に日に減っていく。
 ナーマを吸収して今はどうにか賄っているが、あと数日で吸収よりも消耗が上回ってしまう。
 魔族にとってナーマは粗悪で少量の魔力しか生産できない。
 それを身を以て知ることになるとは思ってもいなかった。

 気づいたのは、ウタネに南の魔神のことを明かした数日後。
 黒猫を借りて、結界の中で眷族の力の練習に魔力を回したことで発覚した。
 影に潜る以外の使い方をしていたら、すぐに気づけたことだった。
 
 勇者の時なら、大賢者がお墨付きをするほど魔力の生産量が膨大だった。
 どれほど聖剣に注いでも、すぐに魔力を作り出せるほどだった。

 その量を作り出せた、魔力変換機関は壊れた。
 眷族になる時に、マナ専用に魔力変換機関を作り直した。

 その際に、ナーマの吸収と生産の量が変わってしまったのだろう。
 ナーマでは、勇者の時の量を自分は2度と作り出せないのだ。
 

 復讐が果たせるなら、喜んで人を辞めてやる。
 あの時はそう思っていた。
 後悔はない。あの選択肢をしなかった方が、後悔していた。
 だた、それに気づいた今だけは全然喜べなかった。

 魔族にとって、人間の住む場所がこんなにも生きにくく、戦いにくいとは思いもしていなかったからだ。
 

 話を戻す。戻さないといけない。
 魔力量に関係する話だからだ。

 魔神は、こんな計画を立てていたのだろう。

 体力があり、警戒すらしていない状態の魔法使いと大賢者に復讐を果たす。
 余力があれば、そのままアルバースト家当主に手をかける。
 余力がなければ、一度撤退してアルバースト家当主と国王に手をかける。

 だが、今となってはその計画も崩れた。
 自分が離れた。それだけではない。 

 教会で信徒虐殺が起きたと、世間を震え上がらせている。
 生存者はいないという部分が、さらに人々に恐怖を植え付けた。

 ウタネから聞いた外の情報により、それを知った。
 あの密談で、教皇を裏で処分したとか言っていたのはこの1件のことかと察した。
 あの魔物のせいで、最悪な目立ち方をしてしまった。
 レモーナ家当主に警戒心を抱かせてしまった。大賢者も警戒しているに違いない。

 本音を言えば、どちらかは仕留めたい。
 行動がわからない大賢者より、レモーナ家当主に当たる可能性が高い。
 そのことに弱気になる自分がいた。

 レモーナ家当主の強さを、自分は知っていた。
 あの魔法使いは、魔物の相手をしないだけなのだ。

 自分が勇者の時、大陸を賑わすほどの暴力的な犯罪者集団が悪事を働いていた。
 人殺しは当たり前。それで村や町を襲い、金目の物を奪っていく。騎士団が退治に来た時にはすでにいなく、おびただしい死体だけが残されていた。
 強力な魔法使いも仲間にいた。それも複数人。
 暗殺者もいた。武器を持たせて兵士にした少年は最強の青年兵となって組織に尽くしていた。
 なにより、その組織のまとめ役が強かった。
 風の魔法を乗せて拳で殴られれば即死。
 拳を大きく振るって纏わせた風を飛ばすという、遠距離攻撃までしてくるのだ。
 そいつらが、自分たちがいた鉱山の町にやってきたのだ。
 それを、レモーナ家当主がひとりで返り討ちにしたのだ。

 圧倒的で、一方的に、ゴーレムという魔法の暴力で蹴散らしていった。
 魔物より連携が取れ、個の戦力も強かった暴力団を、赤子の手首を捻るようにあっさりと撃退したのだ。
 あの頃の記憶が、鮮明かつ強烈に残っている。
 それが、自分を不安にさせた。
 あんな数に、あんな暴力に、今の自分が勝てるはずがない、と。



 だが、悲観することばかりではなかった。
 潜伏を決めてから、黒い靄が随分と落ち着いているのだ。
 何かあったかと思い返しても、特段何もなかった。
 復讐の下準備の調べ物や用意をし、ウタネと会話していたぐらい。
 
 やっていることが、拠点の書斎での日々と変わっていないことに気付いた。
 拠点とこちらで、何が違うのかともう一度思い返す。
 黒い靄が広がる時、必ずと言っていいほどのふたつの事柄を起こしているのに気付いた。
 
 
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