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20.2-4 感情が消えた景色
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計画は、ある意味わかりやすいものだった。
雪の下に埋まっている大地に、右手を当てること。
直接触れることで、自分の中にある黒い神の力と大地が一時的に接続して、この大陸の上にいる人間を無差別に殺す。
分かれた4つの大陸は、元はひとつの存在の体だった。
伝承にあった黒い神様。その死体。
大陸という地続きを利用して、死体を使って人間を一掃する。
黒い神だからこそできる、やり方だった。
そのためにも、雪を溶かさなくてはならない。
黒い神の力を通して自分の影を大きく広げ、鏃付きの鎖を大量に作り出せる場所を作り出した。
白神の言葉を借りれば、工場のようなものだ。自分の魔力という原料を入れていき、黒い神の力で加工して炎を放出させる鎖を作る。それを魔力尽きるまで無限に生産する。
自分で必要なだけ形を与えて、具現化させる必要はなくなった。
その場所から出現した鎖は勝手に増え続け、すでに隙間なく鎖が鎌首のように伸びる。
錨が4つに分かれ、中心部分の小さな穴から縁に蒼い炎が放出させる。
目的は雪を溶かすこと。
魔神を倒すのが目的ではない。
自分は復讐をしたいだけであって、南の魔神を倒したいのではない。
例え、自分を使い勝手の良い駒として使っていた相手であっても、自分の復讐とは関係ないからだ。
先程からずっと攻撃してくる魔神を、鏃付きの鎖で妨害。その間に雪を溶かす。
簡単に雪が溶けるかと思っていたのだが、全然雪の層が減る様子がない。
もたついている間に、鎖の包囲網から抜け出した魔神が、砂の爪を向けてきた。
工場で待機させていた鎖を盾にする。
先ほどの攻防戦で使っていた、砂塵の風よりも威力は劣る。
黒い剣を向けられる前に、その剣を握る方の腕に鎖を巻き付けて投げ飛ばす。はずだった。
魔神は砂の爪を解除して、絡まる鎖を掴んだ。飛ばす方向に小さな砂嵐が出現させ、それを足場に強く踏み蹴り、正面から横に方向転換させて、こちらに戻ってきた。
距離が近すぎた。盾の移動もしくは再構築、あるいは鎖を伸ばしてもう一度投げ飛ばすにしても、間に合わない。
魔神の判断力、それを実行する行動力が早すぎる。
否。それを許してしまった自分の落ち度だ。魔神云々は、言い訳でしかない。
鎖が誘導線となって、一直線に自分の方に向かってくる。
このままでは、確実に生存不能の1撃を受ける。
これは賭けだ。
鎖同士を絡め帯状にした。それを3本、間隔を一定に空けて、自分の前に横に並べる。
振り下ろされる黒い剣を、一瞬でも受け止められればいい。
その間に鎖の盾を移動させて、防御にあてる。
否。雪を溶かすのを中断させ、その分の鎖を持ってきて魔神に絡ませて動きを封じた方が早い。
炎を消して、こちらに回そうと移動させ始める。
突然、乾いた砂の塊が下から反り上がって鎖に覆い被さった。
砂嵐のように出現したとは違い、姿が見えないだけで元からいた。そんな動きだった。
雪の上に乾いた砂があるのに気付いた。
その砂は、魔神が魔法で作り出して使役しているものによく似ていた。
魔神が砂を間に入れて、雪を溶かさないようにしていた。炎の火力が仇になった。
これでは溶かせるはずがないと考えながら、鎖を魔神に向ける。
だが、魔神は黒い剣ではなく、1番上の鎖の帯びを足場にして高く跳んだ。
魔神が落ちていく先にあるのは、自分の後ろにある工場だった。
狙いをそちらに定めた理由は、理解できない。
だが、これは好機だと思った。
黒い神の力も使った工場は、1撃で壊せるものでない。
貸し出された炎とは別のこの力は、魔力という源ではなく、魔法という形に出力したものに近い。形がある分、それなりに強固されている。
工場が壊される前に、雪を溶かして右手で触れる。それが最適解だと判断した。
鎖達にそれを指示した。
だが、鎖達は自分の指示を無視して、勝手に動き出した。
ある鎖達は、黒い剣を突き立てるように落下していく魔神に向かっていく。
ある鎖達は、全方位に伸びていき、壁にぶつかったかのように曲がった。
ある鎖達は、溶かすではなく舐めるかのように、雪の大地に蒼い炎を放出した。
魔法の暴走とは異なり、統制が取れている奇怪な現象を見て、すぐに指示をし直すも鎖達が言うことを聞かない。
自分の命を流して作った魔力が、勝手に流れていく。
それも、ごっそりと。
突然、自分の体が崩れた。膝を雪の上につける形でどうにか持ち堪えた。
魔力の流れを辿って視線を向ければ、炎の上を突き進む別の鎖達がいた。
何かを見つけたように、1点に向かっていく。
その鎖のかなり上から、砂嵐と共に魔神が姿を現した。
砂嵐はため込んでいた砂を吐き出して、蒼い炎ともみくちゃになる。
魔神は魔力で纏った黒い剣で一閃、突き進む鎖達を砕くように斬った。そのまま落下し、地面に叩きつけるように黒い剣を振り下ろし、蒼い炎と砂を吹き飛ばした。それだけでは留まらず、その余波で炎を噴いていた鎖も粉々になった。
自分は魔神の様子を見ながら、立ち上がった。
再び鎖達に指示を与えると、魔神の近くにいる鎖以外は自分の指示に従って雪を溶かし始める。先ほどのはなんだったのか、考える余裕などない。
否。また砂の塊が妨害してきた。場所を変えてもすぐに移動して身代わりになる。
熱い炎と冷たい雪が混ざり合って温度が急激に変化したら、霧のように白い煙で見えなくなると予想していた。しかし、自然の炎ではないからか。煙1つすら立たなかった。
飛び散った蒼い火の粉は、雪の上で小さく燃えているか、魔力が足りなくなって消えるかのどっちかだった。
その中に、見覚えのある姿がいた。
「あ~あ。ごり押しでバレた……」
そう言ったのはピエロだった。残念そうに肩を落とした。
ああ。分身体を協力者にしていたのか。そう自分の中で結論を出した。
ピエロには嫌な感情があったはずなのに、全く湧いてこなかった。
あるいは、ピエロの格好をした別の存在かもしれない。声が魔神と全く似ていないからだ。
「で、俺の幻術と並列思考を使った短時間決戦は失敗したけど・・・・・・別プランに変更するか?」
南の魔神は何も答えず、こちらを見ていた。
出方と窺うというより、観察している。そう見えた。
「・・・・・・おーい? 話聞いているかー?」
「・・・・・・ん? ・・・・・・いやいやいや。先に口挟んできたお前のせいだろぅ?」
南の魔神は剣を持たない手の手首を、高速で左右に振った。
会話が嚙み合ってなかった。
「なんかボーとしているが……どっかで頭打った?」
南の魔神は、頭についた小さなゴミを払うかのように頭を軽く叩いた。
「いや・・・・・・。策士あるあるの考えごと……」
その時、自分は真っ黒な液体を吐き出した。
先ほどの急な魔力の消費で、粗悪品の臓器に負担がかかったのだと推測した。
顔から零れていく血と同じものとは思えなかった。
馴染みのある錆びた鉄の味から、これも血なのだと理解した。
吐血するたびに、胸や喉が痛んだ記憶が蘇った。
ざらざらとした皮膚を持つ魔物の攻撃の時のように、皮膚を削り取られるような痛み。そこに自分の体温で熱し続けた血を吐いた時の焼けるような熱さがあった。
処刑された日は、まだ自分にも熱があったのだと暢気に思ったのを思い出した。
今は、慣れ親しんだ痛みも熱も感じられなかった。
自分の指示から離れた鎖達が、また高速で移動を始めた。
この鎖達を、どうにかしようという気はなかった。
魔神を妨害してくれるなら、それでいい。
その間に、自分は雪を溶かす。
鎖から炎が噴出された時、どこからか砂の塊が滑るように移動してきて、雪と炎の間に割り込んだ。
砂はぐるぐると回って、炎そのものを弾いていく。
雪が溶けない原因が判明した。
気づかなかったのはなぜか。そう疑問を浮かべた時に、ピエロの言葉が蘇った。
そういうことかと理解し、他に溶かせそうな場所はないかと視線を走らせた時だった。
「確認してぇことあっから後方退避よろしく」
「は? ……ちょっ‼ 待て‼」
そんなやり取りが聞こえた。
振り向けば、魔神が黒い剣に魔力を流していた。
そして、横に薙ぐように勢いよく素早く動かした。
放たれたのは、魔力の塊だ。
盗賊団の頭首が使っていた、拳に風を纏わせて飛ばす遠距離攻撃と同じ原理だ。
風の拳も、その周りを吹き荒れる風も、受ければ危険。
それを魔神が行えば、威力は計り知れないほど上がるのは必然だった。
鎖の盾では防ぎきれない。
炎を放てば、強風に吹き返されて巻き込まれる。逆に危険に晒される。
工場から鎖を伸ばし、それを掴んで自分ごと引っ張り上げる。風に巻き込まれない上空で鎖を手放してやりすごす。
朽ちていく体に負担は大きいが、これしか手がない。
最後の復讐相手に手をかけるまで、この体が使い物にならなくなるのは避けなければならない。
伸びてきた鎖を掴もうと、手を伸ばした。
手を通り過ぎて、腕に絡まった。そのまま引っ張り上げるよう指示を出すも、鎖は全く動かなかった。
このままでは当たる。そう確信した。
どんどん近づいてくる魔力の塊が、前触れなく霧散した。
静寂の中に、盛大なため息が聞こえた。
「・・・…本当、目的のためなら手段問わねぇよなぁ・・・・・・」
魔神の、その声音に覚えがあった。
怒りと軽蔑だった。
「俺の依頼人誑かして楽しいかぁ? 糞上司」
雪の下に埋まっている大地に、右手を当てること。
直接触れることで、自分の中にある黒い神の力と大地が一時的に接続して、この大陸の上にいる人間を無差別に殺す。
分かれた4つの大陸は、元はひとつの存在の体だった。
伝承にあった黒い神様。その死体。
大陸という地続きを利用して、死体を使って人間を一掃する。
黒い神だからこそできる、やり方だった。
そのためにも、雪を溶かさなくてはならない。
黒い神の力を通して自分の影を大きく広げ、鏃付きの鎖を大量に作り出せる場所を作り出した。
白神の言葉を借りれば、工場のようなものだ。自分の魔力という原料を入れていき、黒い神の力で加工して炎を放出させる鎖を作る。それを魔力尽きるまで無限に生産する。
自分で必要なだけ形を与えて、具現化させる必要はなくなった。
その場所から出現した鎖は勝手に増え続け、すでに隙間なく鎖が鎌首のように伸びる。
錨が4つに分かれ、中心部分の小さな穴から縁に蒼い炎が放出させる。
目的は雪を溶かすこと。
魔神を倒すのが目的ではない。
自分は復讐をしたいだけであって、南の魔神を倒したいのではない。
例え、自分を使い勝手の良い駒として使っていた相手であっても、自分の復讐とは関係ないからだ。
先程からずっと攻撃してくる魔神を、鏃付きの鎖で妨害。その間に雪を溶かす。
簡単に雪が溶けるかと思っていたのだが、全然雪の層が減る様子がない。
もたついている間に、鎖の包囲網から抜け出した魔神が、砂の爪を向けてきた。
工場で待機させていた鎖を盾にする。
先ほどの攻防戦で使っていた、砂塵の風よりも威力は劣る。
黒い剣を向けられる前に、その剣を握る方の腕に鎖を巻き付けて投げ飛ばす。はずだった。
魔神は砂の爪を解除して、絡まる鎖を掴んだ。飛ばす方向に小さな砂嵐が出現させ、それを足場に強く踏み蹴り、正面から横に方向転換させて、こちらに戻ってきた。
距離が近すぎた。盾の移動もしくは再構築、あるいは鎖を伸ばしてもう一度投げ飛ばすにしても、間に合わない。
魔神の判断力、それを実行する行動力が早すぎる。
否。それを許してしまった自分の落ち度だ。魔神云々は、言い訳でしかない。
鎖が誘導線となって、一直線に自分の方に向かってくる。
このままでは、確実に生存不能の1撃を受ける。
これは賭けだ。
鎖同士を絡め帯状にした。それを3本、間隔を一定に空けて、自分の前に横に並べる。
振り下ろされる黒い剣を、一瞬でも受け止められればいい。
その間に鎖の盾を移動させて、防御にあてる。
否。雪を溶かすのを中断させ、その分の鎖を持ってきて魔神に絡ませて動きを封じた方が早い。
炎を消して、こちらに回そうと移動させ始める。
突然、乾いた砂の塊が下から反り上がって鎖に覆い被さった。
砂嵐のように出現したとは違い、姿が見えないだけで元からいた。そんな動きだった。
雪の上に乾いた砂があるのに気付いた。
その砂は、魔神が魔法で作り出して使役しているものによく似ていた。
魔神が砂を間に入れて、雪を溶かさないようにしていた。炎の火力が仇になった。
これでは溶かせるはずがないと考えながら、鎖を魔神に向ける。
だが、魔神は黒い剣ではなく、1番上の鎖の帯びを足場にして高く跳んだ。
魔神が落ちていく先にあるのは、自分の後ろにある工場だった。
狙いをそちらに定めた理由は、理解できない。
だが、これは好機だと思った。
黒い神の力も使った工場は、1撃で壊せるものでない。
貸し出された炎とは別のこの力は、魔力という源ではなく、魔法という形に出力したものに近い。形がある分、それなりに強固されている。
工場が壊される前に、雪を溶かして右手で触れる。それが最適解だと判断した。
鎖達にそれを指示した。
だが、鎖達は自分の指示を無視して、勝手に動き出した。
ある鎖達は、黒い剣を突き立てるように落下していく魔神に向かっていく。
ある鎖達は、全方位に伸びていき、壁にぶつかったかのように曲がった。
ある鎖達は、溶かすではなく舐めるかのように、雪の大地に蒼い炎を放出した。
魔法の暴走とは異なり、統制が取れている奇怪な現象を見て、すぐに指示をし直すも鎖達が言うことを聞かない。
自分の命を流して作った魔力が、勝手に流れていく。
それも、ごっそりと。
突然、自分の体が崩れた。膝を雪の上につける形でどうにか持ち堪えた。
魔力の流れを辿って視線を向ければ、炎の上を突き進む別の鎖達がいた。
何かを見つけたように、1点に向かっていく。
その鎖のかなり上から、砂嵐と共に魔神が姿を現した。
砂嵐はため込んでいた砂を吐き出して、蒼い炎ともみくちゃになる。
魔神は魔力で纏った黒い剣で一閃、突き進む鎖達を砕くように斬った。そのまま落下し、地面に叩きつけるように黒い剣を振り下ろし、蒼い炎と砂を吹き飛ばした。それだけでは留まらず、その余波で炎を噴いていた鎖も粉々になった。
自分は魔神の様子を見ながら、立ち上がった。
再び鎖達に指示を与えると、魔神の近くにいる鎖以外は自分の指示に従って雪を溶かし始める。先ほどのはなんだったのか、考える余裕などない。
否。また砂の塊が妨害してきた。場所を変えてもすぐに移動して身代わりになる。
熱い炎と冷たい雪が混ざり合って温度が急激に変化したら、霧のように白い煙で見えなくなると予想していた。しかし、自然の炎ではないからか。煙1つすら立たなかった。
飛び散った蒼い火の粉は、雪の上で小さく燃えているか、魔力が足りなくなって消えるかのどっちかだった。
その中に、見覚えのある姿がいた。
「あ~あ。ごり押しでバレた……」
そう言ったのはピエロだった。残念そうに肩を落とした。
ああ。分身体を協力者にしていたのか。そう自分の中で結論を出した。
ピエロには嫌な感情があったはずなのに、全く湧いてこなかった。
あるいは、ピエロの格好をした別の存在かもしれない。声が魔神と全く似ていないからだ。
「で、俺の幻術と並列思考を使った短時間決戦は失敗したけど・・・・・・別プランに変更するか?」
南の魔神は何も答えず、こちらを見ていた。
出方と窺うというより、観察している。そう見えた。
「・・・・・・おーい? 話聞いているかー?」
「・・・・・・ん? ・・・・・・いやいやいや。先に口挟んできたお前のせいだろぅ?」
南の魔神は剣を持たない手の手首を、高速で左右に振った。
会話が嚙み合ってなかった。
「なんかボーとしているが……どっかで頭打った?」
南の魔神は、頭についた小さなゴミを払うかのように頭を軽く叩いた。
「いや・・・・・・。策士あるあるの考えごと……」
その時、自分は真っ黒な液体を吐き出した。
先ほどの急な魔力の消費で、粗悪品の臓器に負担がかかったのだと推測した。
顔から零れていく血と同じものとは思えなかった。
馴染みのある錆びた鉄の味から、これも血なのだと理解した。
吐血するたびに、胸や喉が痛んだ記憶が蘇った。
ざらざらとした皮膚を持つ魔物の攻撃の時のように、皮膚を削り取られるような痛み。そこに自分の体温で熱し続けた血を吐いた時の焼けるような熱さがあった。
処刑された日は、まだ自分にも熱があったのだと暢気に思ったのを思い出した。
今は、慣れ親しんだ痛みも熱も感じられなかった。
自分の指示から離れた鎖達が、また高速で移動を始めた。
この鎖達を、どうにかしようという気はなかった。
魔神を妨害してくれるなら、それでいい。
その間に、自分は雪を溶かす。
鎖から炎が噴出された時、どこからか砂の塊が滑るように移動してきて、雪と炎の間に割り込んだ。
砂はぐるぐると回って、炎そのものを弾いていく。
雪が溶けない原因が判明した。
気づかなかったのはなぜか。そう疑問を浮かべた時に、ピエロの言葉が蘇った。
そういうことかと理解し、他に溶かせそうな場所はないかと視線を走らせた時だった。
「確認してぇことあっから後方退避よろしく」
「は? ……ちょっ‼ 待て‼」
そんなやり取りが聞こえた。
振り向けば、魔神が黒い剣に魔力を流していた。
そして、横に薙ぐように勢いよく素早く動かした。
放たれたのは、魔力の塊だ。
盗賊団の頭首が使っていた、拳に風を纏わせて飛ばす遠距離攻撃と同じ原理だ。
風の拳も、その周りを吹き荒れる風も、受ければ危険。
それを魔神が行えば、威力は計り知れないほど上がるのは必然だった。
鎖の盾では防ぎきれない。
炎を放てば、強風に吹き返されて巻き込まれる。逆に危険に晒される。
工場から鎖を伸ばし、それを掴んで自分ごと引っ張り上げる。風に巻き込まれない上空で鎖を手放してやりすごす。
朽ちていく体に負担は大きいが、これしか手がない。
最後の復讐相手に手をかけるまで、この体が使い物にならなくなるのは避けなければならない。
伸びてきた鎖を掴もうと、手を伸ばした。
手を通り過ぎて、腕に絡まった。そのまま引っ張り上げるよう指示を出すも、鎖は全く動かなかった。
このままでは当たる。そう確信した。
どんどん近づいてくる魔力の塊が、前触れなく霧散した。
静寂の中に、盛大なため息が聞こえた。
「・・・…本当、目的のためなら手段問わねぇよなぁ・・・・・・」
魔神の、その声音に覚えがあった。
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