After story/under the snow

黒羽 雪音来

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21.4-6 裏側エピソードその10

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 今更すぎる話をしよう。

 彼の義肢には、特別な素材を使っている。
 一般的な素材として使われるのは、木製が鉄製だ。

 木製の義手は、義手専用の木が存在する。その木は西の大陸でのみ育林されている。人間らしい滑らかなで細かな肌や触り心地を再現し、魔法の術式を組み込むのに最も適した1級品。
 片腕あるいは片脚だけで、一生遊んでいられる金額が必要となる。
 それは初めの購入時の話。半年に1度の点検に出せば、さらにお金はかかる。

 決められた動きだけなら、魔法を仕込まなくても動かせ、触り心地など気にしなくていいことから大量生産が可能。それにより安価で購入出来るのは、鉄製の義肢だ。
 だが、鉄という水滴に弱い素材のため、自分で管理や手入れを毎日行わないといけない。空気中の湿気で動きが鈍くなる。土砂降りの雨の中では動かなくこともあった。

 特別な材料と加工法により、木材や石材などの短所を全て克服したのが、魔神の作った義肢だ。
 唯一の短所は人間離れした形だ。けれど、木材や鉄製より軽くて頑丈。しかも、義肢特有の違和感も少ない。彼が使い慣れる特訓が少なくすんだのも、彼の執念だけでなく、この特別な素材で作った義肢のおかげもあった。
 特別な素材だからこそ、何個も義肢を用意出来ない。彼が着けている分と予備しか用意できなかった。
 彼の落ちた左の義手を、南の魔神が回収したのもそのためだ。
 彼は見ていなかったが、落ちた右腕の義手も回収していた。

 余談だが、鉄製の義肢と同じように接続部分で取り付け、あるいは取り外しが可能。その時は、電撃の魔法を食らったような激しい痛みと痺れが伴う。 
 
 痛みに耐性がある彼なら、絶対無茶して義肢を何回も壊す。痛みとかあると、変に肯定しそう。
 南の魔神はそう先読みして、手入れ不要の改良を施す際に、接続部分にも手を加えた。そのおかげで、激しい痛みと痺れはなくなった。
 

 そして、特別な素材を使った義肢にした理由は、もうひとつあった。

 復讐を行う地が、雪が降るほどの極寒。
 彼も内心で言っていたが、鉄製だと肌に張り付いてしまうのだ。
 あと寒さのあまり、動きが鈍くなるのだ。

 そのわかりやすい例が、南の魔神の目の前にいた。



 これは、北の大陸から魔物がいなくなってから1ヶ月も経っていない時の話だ。

 その男は、裏事業として人身売買を行い、両脚を切り落とされて捕まった元犯罪者だ。

 両脚を切り落とされたのは、刑罰からではない。
 復讐相手として、彼が切り落とした。

 輝かしい経歴で言うなら、勇者一行の雑用係を務め、北の大陸の勇者が北の魔神と裏で繋がっていたのを目撃した。そう証言した男だ。

 逮捕前の逃亡中より、彼が襲撃した時より、さらにみずぼらしくなっていた。
 衣服は纏っているが、汚れた肌が見える面積の方が多かった。
 両脚には、接続部分のない鉄製の義足が直接突き刺さっていた。金属部分に触れる血管と皮膚と肉がくっついて真っ赤に晴れて痛々しかった。

 義足は錆だらけ。接続部分無しに力業で取り付けたことで、傷の断面から流れた夥しい血が義足を真っ赤に染めて錆びさせた。手入れもできずに放置したらこうなった。そう容易に想像できた。
 1歩足を前に出すたびに、小さな悲鳴が零れていた。

 辺りを不安そうにきょろきょろと見渡す様子から、犯罪者としてどこかに放り込まれた場所から逃げてきたのだろう。
 王都の監獄塔は魔物を製造する工場と化していた。魔物の素材になる犯罪者にも善し悪しがあった。
 魔物にしても大した価値にならない犯罪者は、魔物の性能確認の道具として消耗させられる。
 
 当然の疑問は出てくる。
 なぜ、この男は生き延びているのか。

 答えは簡単だ。
 北の大陸から、魔物がいなくなったからだ。
 男は生き延びて、逃げ出したのだ。
 


 南の魔神は用事があって、町も村も全くない雪山にやってきた。
 用事を終わらせて、指定された場所に移動して北の魔神と合流する。そこまで予定が組まれていた。
 それでも、男の後を追った。
 無論。心を読みながらである。

 男がこんな人里離れた雪山にやってきたのには、男なりの明確な理由があった。

 罪人として送られた場所で、別の罪人が金貨を隠した話を聞いた。
 それを掘り起こして、西の大陸に渡って1からやり直そうと考えていた。
 罪人として裁かれた以上、北の大陸では生きにくい。 

 掘り出した金貨で海を渡って、他者の身分あるいは架空の身分を買い取る。それで西の大陸の人間としてやり直す。それしか、自分が成り上がる術はないのだと。
 他の大陸から見て、今の北の大陸の人間に対する評価が著しく良くないからだ。

 西の大陸なら、ワンチャン有りだよなぁ。
 そう、南の魔神は内心で呟いた。

 西の大陸では、身分を証明するカードが発行されていた。
 裏社会では、それを高値で売買する悪人もいた。

 男の様子と内心から、身分証明のそれを手に入れられる伝手があるのはわかった。おそらく、人身売買で荒稼ぎしていた時に、西の大陸の方にも人脈を作っていたのだろう。そう南の魔神は判断した。
 北と西の貿易ルートの再確認と、裏社会の人間が出しゃばらないようにしておかないと。と、予定を組み直す。

 
 復讐の代行に使う薬品を初めとする必需品の輸入。他の大陸の状況や、どれだけ北の大陸の現状を把握しているかの情報の収集と確認。王妃の悪事をばらまくための窓口の確保など……様々な理由から外部との繋がりが必要だったため、あの手この手と西の大陸と貿易するように、裏で南の魔神が動いていたのだ。
 それぞれの大陸が承認している貿易ルートは、南の魔神も把握していた。そのルートを使っての不正薬物を始めとする違法持込品を発見しては、送り主に送り返していた。
 人身売買のやり取りはなかった。なら、極秘で開拓したの1点だなぁ。
 そんな予測を立てながら、南の魔神は尾行を続けた。
 

 男はさらに奥へと進んでいった。 
 白い葉を茂らせているかのように、雪を枝に積もらせた木々が増えていった。
 その木々の大きさに統一感はない。見上げるほどの背丈の木から、膝ほどの高さしかない木まであった。
 ただ、雪が降り積もっているせいで、これ以上の木々の特徴が見当たらない。
 
 男は、そんな景色の中でハナナシという木を捜していた。
 北の大陸にしか生息していない木だ。花がなくても薄桃色の実を付ける。
 薄桃色の実は1年中実っているが、中の実は生殖機能がとても低い。50個もの実の中にある種を全て植えても、ひとつ芽を出せば良い方だ。
 
 1つでも芽が出れば、あとは雪解け水から栄養を得ているかのようにすくすくと成長する。そして、寿命がとても長い。

 実は美味しくない。そして、伐採しても生活に役立つことはない。どんなに乾燥させても薪にならない。木の皮は薄くて脆く、大人の人間の胴体の幅より細い幹はどんなに加工しても、材料費と加工費の方が高くついてしまう。

 なんでこんな無価値な木が生えているのだ。
 子供すら首を傾げたくなるほど、北の大陸ではその存在理由を不思議がる人間が多い。

 だが、男とっては違った。
 そんな無価値の木の下に、金貨が隠されているのだ。
 その金貨を掘り起こせば自分の物だ。男は醜い笑みを浮かべた。

 そんな男の目の前に、素材のわからない石碑が建てられていた。
 思わず近くまで寄って、刻まれている文字を読んだ。その内容に、顔を真っ赤にするほど激怒した。

「ふざけるなっ!!」
 歩行の補助として持っていた長い枝で、石碑を殴り続けた。
 来る途中で拾っただけの枝だ。耐久の低い枝の方が音を立てて壊れた。
 そうなっても、握れなくなるまで殴り続けた。

「ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない」

 男は壊れた蓄音機のように呟きながら、今度は汚れた手で石碑を殴り続けた。
 ふと、その手が止まった。男はにんまりと汚らしい笑みを浮かべながら、折れた枝で自分の掌を切った。
 ぼたぼたと血が垂れる手を、石碑の文章を塗り潰すように左右に何度も動かした。

「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ。こんな間違った糞歴史は消えちまえばいいんだ!!」

 南の魔神は隠れていた場所から、男が振り返れば見える位置に移動した。その際に、本来の南の魔神としての、兜無しの鎧を纏った黒獅子姿に戻した。
「歴史を伝えるのは、輝かしい功績を残るためだけじゃねぇぞ」

 男は驚きから飛び跳ねるように、後ろを見た。そして、悲鳴すら出せないほど恐怖で震えだし、失禁した。

 聞き覚えのある白毛の狼の声。しかしその記憶を嘲笑うかのように、その姿は全くかけ離れた肉食動物でありながらも、どの生物にも当てはまらない不気味で悍ましい怪物がいた。
 なにより、振り返ったと同時に放出された魔力と気配の圧に飲まれた。その肉食獣特有の口が大きく開き、凶器のように研がれた歯が、喉に突き立てられて噛み砕く。
 そんな根拠なき想像が、何度も男の頭の中に再生されて、考えることすらできなくなっていた。

「おいおいおい。いつもの弱体化した姿だと怖がるかと思って配慮してやったのに、肉に飢えた獣イメージって酷くねぇかぁ?」
 南の魔神は盛大にため息を零した。
「俺にとって、この姿は正装みたいなもんなんだぜぇ? せっかくの俺の好意大奮発に小便漏らすって最低過ぎだろぅ・・・・・・まぁでも、人間相手に見せたらどうなるかって改めて確認できただけでも良しとするか・・・・・・」

 南の魔神の姿を砂嵐が覆い隠した。それが消えると、白骨にマントを羽織った姿に変わった南の魔神がいた。
 弱体化していることにより、先程まで放出されていた魔力と気配の圧は消えた。
 それでも、先程の姿と魔力と気配に押されて、男は恐怖に支配されたままだった。

「・・・・・・そうそう。歴史は過ちを繰り返さないための戒めでもある、って言いたかったんだぁよ。教え諭す、懲らしめる、厳しく守り通す。この3点から、建てたのは北の勇者にこの大陸の未来を託された北の魔神ってなっているが・・・・・・本当は、俺が勝手にそれらを造って建てた」

 南の魔神が指したのは、血に濡れた石碑だった。
「制作者として、止めろやこのやろうって言いたくなったワケだぁよ。・・・・・・それとは関係ねぇけど、文章含めていい仕上がりだろ?」

 南の魔神が指を鳴らした。
 砂嵐が慰霊碑を覆い隠した。中から岩が割れるように、重々しくもやや貫高い音が何度も響いた。
 砂嵐が晴れると、石碑は欠片となって壊れていた。

 しかしそれは、男にとって数秒の幸福でしかなかった。
 こんな糞な歴史を、誰かに知られてはいけないのだから。

 ふと。破片から、転がるような小さな音が聞こえた。

 その次の瞬間。
 磁石に引かれるように、破片が元の場所へ集まり、石碑に戻った。刻まれていた文章にべったりとついていた男の血は消えていた。

「・・・・・・ご覧の通りぃ。壊せば何度でも修復できるんだなぁ。王政制度を根源から否定されて1番困るのは、この大陸の人間だぁ。元王都に設置した5カ所の慰霊碑なんざもう、何千回壊されてるし・・・・・・。北の大陸中にこれを建てるって計画していた時から、こうする奴が絶対にいるとわかりきってた。これはその対策」

 南の魔神は剥き出しの歯の両端を持ち上げて、笑うような表情をした。
 けれど、眼窩は笑っていない。
 眼窩の中央が、持ち上がっていなかった。 

「で、本題。お前さんの捜しているハナナシ、俺が移動させちまったんだぁ。頑丈な箱に入っていた大量の金貨は俺が持っている」

 南の魔神はそう言うと、マントの中からしっかりした丈夫な箱を取り出した。

「────なっ!! ふざけるな!!」

「おーっと!! 金の話になった途端に我に返るのかよぉ。・・・・・・そこまで金にがめつくねぇと、横取り騎士様に金で買収なんてされねぇか・・・・・・」

 南の魔神の言葉に、男が目を見開いた。
 驚きと恐怖。そして、知られるはずなんて無いという確信が儚く崩れた精神的衝撃に、南の魔神は事実を告げる。

「お前が北の勇者と魔物が密会を目撃したって証言した町にもそれを建てた。まぁ。北の魔神との会話っていう脚色は加えているが・・・・・・お前が、宿屋の店主の娘を何度もぶん殴っていた真実に変えといたぞ」

 男はひどく狼狽した。
「そ、そんなわけない・・・・・・あれは────」

「知ってる知ってるぅ」
 楽しそうに弾む声で、南の魔神は遮った。
 だが、その眼窩は笑っていない。だが、怒っていない。
 代弁者のように、事実を伝えているかのようだった。 

「宿の手配の時に勇者一行の名前を出しても値引きに応じなかったことで、懐に金をこっそり入れられなかったことが動機だって知ってる。店主は大柄で手を出すのは怖いが何度も殴らないと怒りが収まらないから、自分より弱そうな店主の娘を標的にしたのも知ってる。お前の失態を、手柄横取り騎士様が金の力でなかったことにしたのも知ってるぅ」

 魔神が知っていると言うたびに、男の表情が強張っていった。

「宿屋の店主とその娘がその後どうなったか知ってるかぁ? 娘の方は顔面を強打され続けて、顔が変形して婚約の話は破棄になった。町では化け物と言われ続けて、石を投げられ、生きていく希望を失って自ら命を絶った・・・・・・。宿屋の店主、いいや娘の親父って言った方がいいかぁ・・・・・・。娘のことだけでなく、大事な宿も北の勇者が魔物と取引していた場所として、非難が殺到。手柄横取り卑劣騎士様の金の力と、お前の証言が現王に認められたせいで、親父さんも裏切り者扱いになったぁ。それだけならまーだ耐えて真実を訴え続けられた。が、埋葬した娘の死体を掘り起こされて、町の真ん中にひっでぇ有様の晒し者にされたぁ。もう、親父さんの正義心はぽっきり折れた。娘との思い出詰まった宿屋を自らの手で焼いて自殺を偽造した。自ら残された親心と復讐心で元凶の2人を道連れにしようと、自ら顔を焼き、薬で濁声にして、バレねぇようにしてから王都にやって来た。その覚悟を見せつけられたら、俺もつい声を掛けちまったっ!!」

 ようやく、南の魔神は眼窩の中央を歪ませるように持ち上げ、にんまりと笑った。

「俺に依頼すりゃ──最高の復讐にしてやる、てなぁ・・・・・・」

 男は短い悲鳴を何度も落としながら、後ろに下がった。すぐに石碑に背中が当たって逃げられなくなっても、錆びついた義足を後ろに動かし続けた。

 男から見れば、白骨の姿をした悪魔がいた。
 清く正しい立場の人間を引きずり落とし、価値のない愚かな人間の味方をするふりをして、不幸という蜜を味わう、嫌悪すべき悪魔だ。

 悪魔の囁くに負けたからこそ、その身で味わった。
 全てを失う破綻しかないと。

 助かった命すら、あの時のように風前の灯火になった。
 違う。あの時の黒衣の男とは明確な違いがあった。

 目の前の悪魔には、どんな抵抗も命乞いも通用しないと。


「目立ちたがり屋の卑怯者には、無様な姿で呆気ない寂しい死を」

 南の魔神は指を鳴らした。
 南の魔神の背丈の半分もないが、横に広い砂嵐が出現し、すぐに消えた。
 大きくて頑丈な旅行鞄が、雪の上に置かれていた。人間1人入れるほどの大きさだ。
 置かれていただけなら、良かったかもしれない。
 その鞄は暴れているのだ。中に人間がいて暴れているかのように激しく、そして言葉になっていない大声が響いていた。

「金の亡者の卑怯者には、金で解決できない絶望に落としてから、金ではどうしようもできない理不尽な生き地獄を味合わせ……そして、その終わりはこの手で行いたい。と・・・・・・」

 鞄の留め具が外され、鞄が開いた。
 男が鼻を覆いたくなるほどの、身の毛もよだつ異臭が解き放たれた。
 
「お前は手段は選ばねぇ。金のためなら、身内を切り捨て、自らの手で殺人だって起こして自滅するタイプだと読んでたんだ俺。あの時は殺しをやらせっと後々面倒なことが起きるから妨害しただけだが・・・・・・別の依頼で生かされるとはねぇ。そういう部分も含めて、復讐ってのは奥が深ぇよなぁ」  

 南の魔神がしみじみとした様子で何度も頷いていた。
 
 正直、何を言っているのか男には理解できなかった。
 だが、それを尋ねる余裕はなかった。
 その横で鞄から出てくるそれを見て、男は2つの意味の恐怖でまた失禁した。

 それは顔中に包帯を巻いた大男だった。
 見覚えがあった。だけではない。
 この男が、隠した金貨について話していた本人。そして、さらに詳細を聞くために暴力込みの尋問をし、用済みになかったから殺した罪人だった。

「当初は復讐のアドバイスマネージャーとして請け負った。だが、あまりにも手ぬるいと指摘を受け、復讐代行としての案を提示したらそっちがいいと注文されたんだぁ。特に、殺されてもゾンビとして蘇った姿を見たお前が、恐怖に絶望して喘ぐ姿と、その後の地獄に自らの手で送れるのがとっても良いとなぁ……」

 男の恐怖と絶望をさらに引き立てるかのように、南の魔神は真実を語った。

 それは嘘ではないと見せつけるかのように、全身が変色した血にまみれていた。皮が破れて腐った肉が見えた。首には縄で締め付けた後がくっきりと残っていた。

「東の大陸に運んでから、死体にナーマを大量にぶち込んで進化体にした。復讐心って未練がすごすぎてすぐにゾンビになったぜぇ」

 南の魔神の言葉を肯定するように、死体が動きだした。
 腐った体が崩れないようにゆっくりとした足取りで、男の方に向かって歩き出した。
 けれど、復讐という軸が体の中に張られて支えているかのように、一直線に向かう。
 
 男は寄ってくる恐怖から逃げようと、石碑の裏へと回った。
 その瞬間、雪の中から飛び出してくる青い塊がいくつも出てきたのだ。

 花弁を二重に重ねた、大きな花だった。

「そいつらはスノーフラワー。北の大陸に出現する進化体。特徴は全然違ぇけど、ゾンビと同じ存在だ。日中は雪の中に姿を隠しているが、夜になると雪をかき分けて出てくる」

 これがなんなのだと怯える男に、南の魔神は説明する。
 理解できない恐怖ではなく、理解できたからこそ抗えずに無様な最後しかないとわからせる恐怖を与える。
 諦めが悪い人間ほど効果を発揮する、絶望への落とし方だ。

「全ての進化体は突然出現する。大昔に進化体を研究していた南の大陸の学者はそう発表していたが、それは大きな間違い。出現方法に一定の基準は存在しねぇ。ただ、大陸を維持するって点では魔族と同じだが、進化体はより強くなるために進化もするし増え続ける。そのため、生態系が崩れる。それを抑制する存在が自然界の方で誕生した。北の大陸で言りゃ……それがハナナシだ」

 南の魔神が説明している間に、ゾンビが石碑の前まで来ていた。
 
 男は追い詰められ、思考が混乱して何もできないなっていた。
 前方には、得体のしれない不気味な植物。
 後方には、筋違いな逆恨みをするゾンビ。

 きっかけは自分の行動だと男は理解している。
 だが、それは自分の言葉に従わなかった店主が元凶だ。その後の娘のことも、店主がどうなったのかも、自分には一切ない。これは何ひとつ間違いのない正当な道理で、自分が逆恨みされる筋合いはない。
 これが、混乱する中で唯一確認できた、男の内心だった。

「おっと。俺もやらなきゃいけねぇことがあったんだ」

 南の魔神は思い出したかのように言うと、助走なしで大きく跳んだ。

 ゾンビの頭上を、石碑の上を超えて、男の前に着地すると、空いている手でその顔面を鷲掴みした。

 男は恐怖から悲鳴を上げた。
 南の魔神は動ずることなく数秒間手を当てて、呆気なく離した。

「あ~。なるほどぉ。そのルートで奴隷を運搬する予定だったのかぁ。こりゃ盲点だった。……うまく逃げ切れば、この金貨で身分買えるなぁ」
 南の魔神は大きな独り言を零しながら、持っていた箱を後ろに投げた。

 男は、南の魔神が自分の記憶を勝手に読んだのだとわからなかった。
 ただ、くるくると宙を舞う箱を、目で追っていた。

 箱はスノーフラワーに当たり、中身が雪の上にまけた。
 白い雪の上に、金色の硬貨が希望の光のようにその色を主張する。

「さぁ? お前はどうする?」
 南の魔神は、あえて決断を尋ねた。 

 男の答えは決まっていた。
 そう尋ねてくるということは、金貨を拾いに行くのは危険だと。
 だから、命を優先した。

 後ろ髪を引かれる思いで決断した直後。後ろから首を掴まれた。
 首にまとわりつくような不気味な感触と、鼻が曲がるほどの異臭に、男はゾンビに掴まれたのだと気づいた。

 この話す白骨が何かしたのかと、無意識に視線を向けた。
 いちいち答えを求めるな。肉も皮のない骨の顔で、そんな表情を浮かべた。

「当たり前だろう? いくら義足で歩きにくいとは言え、ゾンビより足が速いんだ。命優先して逃げねぇように足止めしないとなぁ……」

 男が怒りの声を向けるより先に、ゾンビの拳が男の後頭部に直撃した。
 
 人間の拳とは思えない強力な一撃に、男は頭がもげるかと慄いた。
 首にかけられていた圧が消え、男の体は雪の上に落ちた。

 殴られた衝撃で、軽い脳震盪を起こしながらも男は逃げようと手を伸ばす。
 手首を捕まれ、ボキリと嫌な音が鳴った。

 男は悲鳴を上げた。
 なのに、悲鳴の声が聞こえなかった。
 代わりに、ビンが割れる音がすぐ近くから聞こえた。

「ああ。それ?」
 男の視界に映らない位置にいる、南の魔神が答えた。
「お前ら言ってただろう? 悲鳴上げた奴にうっさいって。設定した音量以上の音が鳴ると、聞こえなくしてくれる魔法道具が売られてんだよぉ。レモーナ家の紋章入りだから安心安全性能良し‼ 俺は気が配れるから、買っておいたんだぁ‼ 依頼人。瓶の破片は大きめのを使った方がいいらしいぞぉ」

 ゾンビが、割れた瓶の破片を持っていた。持っていた破片より大きめのを拾い直した。
 それを、男の口の中に強引に入れた。片方の手で口を塞ぎ、もう片方の手で拳を作って高く上げた。
 
 ゾンビの一連の行動に、男は覚えがあった。
 止めろと言ったが、口が塞がれて言葉にすらならず、そのまま顔面を殴られた。
 口の中に熱を押し込まれたような痛みと熱さに、男は籠った悲鳴を上げた。
 
「……ああ。お前らが北の勇者にやってきたこと、依頼人に話したんだ。殴るのは当然だが、せっかく時間あるんだから他にも何かないかって聞かれたからなぁ。頼まれた道具のほとんどが、お前たちがやってきたのに使ってたもんだったから──再現する気満々だぜぇ」

 南の魔神はそう答えると、男と依頼人の方を見るのを止めた。
 石碑の周りにやらかした、男の粗相の掃除をするためだ。
 指を鳴らして小さな流砂を出現させ、雪ごと飲み込むように掬っては水分を蒸発させていく。くぼんだ部分に新しい雪を流砂で運んで埋めていく。
 
 流砂に作業をやらせている間に、マントの中から全ての大陸が描かれた地図を引っ張り出した。
「……人身売買のルートがこうで……麻薬の密売がこうで……」
 と、地図に視線を落として、書き込み始めた。

 依頼人からの要望だ。
 娘と同じ人のいない状況で同じ時間殴り続け、娘が受けた以上の苦痛を味合わせたい、と。

 直接手を下すのは依頼人に任せた。
 東の大陸の進化体であるゾンビは、脳と体に残された記憶から生前の行動を再現し、未練を果たそうとして人を襲う。

 このゾンビにとっての未練は、この手で男に復讐すること。だが、そこに理性は残されていない。
 本能の赴くまま動き、残された感情のまま襲う。
 男がこのまま死んだとしても、晴れることのない復讐心に突き動かされて殴り続けるだけだ。

 依頼人は、この目で復讐を達成する光景を見たいのではない。
 見たとしても、娘は帰ってこない。

 復讐を果たしても、その娘の自殺を止められなかった己が生きている方が許せなかった。
 だからこそ、復讐相手が最も悲惨な末路で終わることを望んだ結果だった。
 この命が先に終わる形で、最高の復讐を果たす。それが、この形というだけだった。



 南の魔神があれやこれやといろいろ済ませている間に、ゾンビは真っ赤に染まった雪を殴っていた。

「さあさあ。ご依頼人。復讐は終わりだ」
 形式として声をかけたが、ゾンビは殴ることを止めなかった。
 
 南の魔神はため息を吐いた。
「……後始末に入らせてもらうぜぇ」

 指を鳴らして、ゾンビの周りに砂嵐を出現させた。
 砂嵐はそのままゾンビを運んで、スノーフラワーの上に落とした。

 復讐の打ち合わせの時に決めていたとはいえ、依頼人にこれをやるのは避けたかった。

 そんな南の魔神の考えとは裏腹に、スノーフラワーが雪の中から根を伸ばし、ゾンビの体に巻き付いた。別々の個体で引っ張り合って、腐った体をばらばらに引きちぎった。
 絡ませた部位ごと根っこを雪の中に戻して、何事もなかったかのように、スノーフラワーはあり続けた。 

 流砂で赤い汚れごと雪を溶かしてから、南の魔神は頭の後ろに手を添えた。
「・・・・・・さて。これで残るは復讐のアドバイスマネージャーの1件なんだけどなぁ・・・・・・」

 最初に立っていた位置まで戻って、ゾンビが入っていた鞄を掴んだ。
「あー・・・・・・マジでどうしたもんかねぇ~?」

「我としてはそんな依頼を受ける時点で、魔神としてどうしたもんだと言いたい」 

「今は魔神なんて名乗って──」
 振り返ると、北の魔神がいた。
「のわわわあああああああああああああああああああ!!」

 南の魔神は後ずさった。
 その速さは、人間が正面を向いて駆け出すよりも速かった。

「……貴様は喧嘩を売っているのか? 待てどくらせど来ぬから探しに来た。そんな我に対する態度がこれだと言うのなら、その喧嘩買うぞ?」
 北の魔神は右目周辺の筋肉を引きつらせながら、不機嫌な声で尋ねた。
 姿はそのままでだが、南の魔神と変わらない大きさまで縮んでいた。

 結界を纏って、外から姿を見せなくさせることもできた。だが、あの巨体で結界を纏うとかなりの魔力を使うため、器を小さくして魔力の消耗を抑えていたのだ。

「約束すっぽかしたのは謝るが‼ 誰でも驚くわぁ!!」
 大きめの木の陰に隠れながら、南の魔神は怒っていると強調するように腕を上げ下げした。
「てか、いつからいたんだよっ!?」

「貴様が人間の記憶を読み取りに行ったところからだが?」

「最高潮のところかぁ・・・・・・そりゃ気付かねぇわ・・・・・・」

「最高潮? 我からすれば下らぬ馬鹿騒ぎにしか見えなかったが?」

 北の魔神はそう言うと、スノーフラワーの群集に指を向けた。

「それはともかく、これはなんだ? ここにも進化体がいるとは我は聞いていないが?」

 南の魔神は真顔で、スノーフラワーの群集をじっと眺めた。
 これは、とても難しい説明なのだ。
 
 分裂体を生産する工場を破壊しながら、スノーフラワーを株単位で回収。こっそりと育てて量産させていた。
 ここは、その栽培場所であった。
 もう少し大きくなって、スノーフラワーの分裂の性能が確認できたら、北の大陸の至る所に追加で配置し、石碑だけがある場所にするつもりでいたのだ。

 ハナナシは栽培には邪魔だった。しかし、物理的に数を減らしてしまえば、増殖した時の抑止力が消えてしまうため、根っこから引き抜いて引っ越しさせた。

 スノーフラワーにとっての栄養素は、ナーマを吸収して生成させた魔力のみ。生物を捕食することはない。

 ゾンビになった依頼人に行ったのは、自己防衛だ。
 スノーフラワーは、縄張りだと決めた範囲に入ってきた存在を、雪の中に生やした根っこで絡め取り、引きずり込む。ここで激しく抵抗すると、防衛から攻撃に変わる。

 本当なら、スノーフラワーの自己防衛を男に使いたかった。
 依頼人のようになるかもしれない。生きたまま雪の中に埋められるかもしれない。
 ただ、殴る殺されるよりも、復讐としては実にいい終わりになる気はした。
 再びそう考えてしまい、依頼人の意見を重宝したけどもったいないことをしてしまった気になった。

 ここのスノーフラワーをどう説明するかと考えているうちに、南の魔神は復讐の請負としての反省会を始めだしてしまった。 

 北の魔神は真顔で回答を待った。けれど全く返ってこないことに我慢が出来なくなり、溜の動作無しに口から氷柱のような鋭い氷を撃ち放った。

 南の魔神はすばやくマントの中に手を突っ込んだ。黒い布が巻かれた黒い剣を取り出して、上空に向けて氷を打った。

 互いに睨み合う。
 口以外で先に動けば、激闘が繰り広げられる。少しでも有利にするために、先に相手を動かしてやろうと挑発する。

「・・・・・・くっそぉ。これだから魔神ってのは短気で嫌なんだぁよ・・・・・・」

「貴様も魔神だが?」

「俺はハイパー魔神だから別格なんだぁよ!!」

「は!! 笑わせてくれるわ!! 魔神の中では一番魔法が下手故に、魔女に頭を下げて弟子入りするほどの尊厳無しが!!」

 魔神同士で顔を合わせれば、すぐに殺し合いに発展するほど険悪。
 勇者や聖女が理由無く戦う存在なら、魔神達は気に入らないという身勝手な感情を理由に、殺し合いをする存在である。

「どの口で言ってんだよトカゲ野郎ぉ? 羽さえあれば偉大だろうって安易な考えなら、縁起物のヤモリ様に変わって出直してこーいって話だぁ!!」

「貴様は黒獅子より骸骨の方がイカしていると思っているようだが、端から見ればそこら辺で野垂れ死んだ未練塗れで彷徨う哀れな骨にしか見れんわ!! しかも、獅子などでっかい猫ではないか。猫じゃらしを振れば大きな肉球でじゃれつくだけの愛玩ではないか!!」

「はぁあ!? 猫は可愛い!! ヤモリは縁起がいい!! それを悪く言うなんて脳みそ空っぽなのかぁ!?」

「貴様こそ壊れたか? 魔力生命体には生物のような脳みそはないだろう? ああ。そうか!! 貴様は悪趣味に没頭しすぎて、我らの脳である魔力変換機関が壊れてしまったのだな!!」

 とにかく、相手を先に動かして少しでも勝利に近づける。それを優先させたら、大陸の悪役である魔神とは思えない幼稚な悪口が飛び交い始めた。


 ぎゃあぎゃあと激しくもどうでもいい悪口大会が続く中、無言で参加していた人物が声をかけた。
「・・・・・・・・・・・・もう、攻撃してもいいですか?」


 大人しくて気の弱さを感じさせる少女の声に、魔神達は振り返った。
 
 夏の聖剣を携えた、南の勇者のソフィがいた。
 魔神達の中央から少し離れた位置に、恥ずかしながらも嬉しそうに頬を赤く染め、告白文を綴った手紙を渡したくて、でも勇気が出せなくて、でも頑張って声をかけてみよう。そんな感じにもじもじとしていた。

 大きな剣さえ視界に入れなければ。その本心が戦闘民族のような凶暴なものでなければ。恋に一途な愛らしい少女に見えた。

 だが、本性は違う。純粋に戦うが大好きで、戦いに飢えた凶暴な人間である。

 ここで戦いが始まれば、石碑とスノーフラワーが余波で破壊される。
 その答えを弾き出した南の魔神は、一目散に逃げだした。
 ソフィの恐ろしさを知らない、北の魔神に押し付けて時間稼ぎをさせる。

 北の魔神は飛べる。ソフィの危険性に気づけばすぐにでも空中に逃げる。そうすれば、ソフィーはそれを追いかけて空中戦に変える。
 飛んで逃げてここから離れるなら、スノーフラワーと石碑に被害が及ばない。
 そんな華麗な計画を立てた南の魔神は、地上から走れば絶対に逃げ切れると確信した。
 砂嵐で転移すれば、北の魔神に悟られる。だから、人間のように走って逃げた。

 並走するように、低空飛行する北の魔神の姿を見て、悲鳴を上げた。

「ぎゃああああああああ!! なんで逃げてんだよお前も!!」

「逃げるに決まっているであろう!! あれは人間ではない!!」
 北の魔神は、今にでも悲鳴を上げそうなほど切羽詰まった声を上げた。

 子供のような悪口大会をしあっていた同士とは思えないほど、息のあった逃走速度。
 その後ろから、夏の聖剣を担いだまま、「待ってくださーい」と、はにかむ笑顔と共に追いかけているソフィの姿があった。

「いやいやいやいや!! ソフィの嬢ちゃんは人間だからなぁ!!」
 南の勇者と何度も戦った相手として、南の魔神は生物学上の分類を訂正した。

「どこにそんな要素があるのだ!? あの姿を見てまだ人間と言えるのか⁉」

「うん人間だぁ‼」

「貴様の目は節穴か‼ あの姿を見ろ‼ あと、聖剣持ちとはいえ魔力無しが我のブレスを一閃で斬るなど、人間では到底出来ぬからな!!」

 聖剣という単語に、南の魔神がぼそりと呟いた。
「あー・・・・・・。あいつに頼んだから気にしてなかったが、設定値ミスってたのかこりゃ・・・・・・」

「何か言ったか南の!?」

「お前はどこで戦ったんだって口にしただけだよぉ!!」

「魔神さん同士で組んで構いませんので戦いましょ?」
 今からデートしましょ。ソフィは恋する少女のように目を輝かせながら、不安と期待を胸に返事を待つ。

「ソフィの嬢ちゃん!!」
 南の魔神が、ここから脱出するための提案を出した。
「北の魔神はこの大陸でしか戦えない貴重種だぞっ!! 空中戦も楽しめるぞっ‼ 南の大陸で何度も戦える俺よりそっちを優先した方が良いんじゃねぇか!?」

「貴様!! 我を生贄にする気か!?」
 
 北の魔神の怒りの色が滲み出た指摘を無視し、南の魔神はソフィの回答を待った。

「で、でも・・・・・・」
 ソフィは恥ずかしそうでありながらも、覚悟を決めたように告げた。
「黒い剣持った南の魔神さんとも戦いたいですっ!!」
 
 その言葉に、南の魔神は持っていた黒い剣を持ち上げた。
 無言で、マントの中に戻した。

「なんのことだぁ?」
 笑ってすっとぼける南の魔神の頭を、北の魔神は翼で殴った。

 
 2体の魔神を追いかけて行ってしまったソフィと入れ違えるように、サフワが石碑とスノーフラワーの所へやって来た。

 聖女として、各大陸の進化体の特性を教え込まれていたサフワは、自身を囲うように結界を発動させた。
 念には念を入れてだ。どこまでがスノーフラワーの縄張りかわからないからこそ、用心しての対処だ。
 石碑の前に立って、文章を読んだ。

 物語の一編のように長々と語られる内容には、勇者時代の生き様を語る元勇者と、それに対して自分の答えを告げる北の魔神のやり取りが記されていた。

 この一編を締めくくる、最後のやり取り。
 北の魔神が、「これが終わったらどうするつもりだ」と尋ねた。
 元勇者は、「何も考えてないな。・・・・・・もしかしたら今度こそ死んでしまうかもしれないから」といつもの様子で答えた。

 実際、北の大陸の北の果てにある石碑の1つには、元勇者の死を仄めかす1編が綴られていた。
 王妃のような人間が現れて、再び北の大陸と他の大陸に危険が及ばないように守って欲しい。そう大勢の魔物に苦戦する北の魔神に願いを託した。
 最も危険な魔物と一騎打ちをして元勇者が勝利するも、姿はどこにもなかった──と。
 
 石碑の内容は真実だと、北の魔神自らが証言した。
 
 元勇者の生存は、この石碑と北の魔神の証言のみ。しかし、内容にずれがなく、王都に向かう北の魔神の姿も目撃されていて、信憑性が高いと判断された。

 サフワとソフィが北の魔神と出会ったのは、魔物が王都に襲撃してから数ヶ月後の話だ。
 一緒に行動していたという元勇者は見かけていない。

 ラークと名乗っていた眷族が言って勇者はこいつか。そう思ったが、言葉では表せない違和感があって納得できなかった。

「・・・・・・あいつ。元気にしてんのかな・・・・・・」

 あの1件以降、南の大陸ですら再会できていない眷族を思い浮かべながら呟いた。
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