婚約破棄なんてどうでもいい脇役だし。この肉うめぇ

その頃の実家

ケイラン子爵家では今、王都どころか地方にまで爆走チキン令嬢と呼ばれすっかり有名人？となってしまったケイラン子爵の息女の婚約によって喜びの声が上がっていた。

「ようやく家の問題児が嫁いでいってくれたか！」

「まだ婚約ですわよ。最後まで気を抜いては駄目ですわ。何せあの子ですから。」

父親であるセオドラ・ケイランはもう嫁いでいったとばかりにストレスで部分ハゲになってしまった部分を隠すための鬘を飛ばして大喜びしている。
セオドラの妻であるマリアも口では注意しつつも翡翠色の瞳を潤ませ泣いて喜んでいる。

次期ケイラン子爵であるジオンも父親譲りのダークブラウンの髪を禿げてないか手で確認しつつほっと息をついた。

「母上良いではないですか。僕だってストレスで父上のように禿げる前に嫁いでいってくれて嬉しいと思っているのですから。」

もちろんメイド、侍従、執事、庭師にいたるまでこれまでの苦労を思って全員大喜びしている。ただし料理人達は除く。
なにせあんなに美味しそうに食べてくれる人は滅多にいない。料理人からしてはこれ程料理人冥利につきる職場はなかったわけである。しかも時々もらうアドバイスにも大変助かっていたし、そこから新たな工夫だってできていた。

あぁお嬢様いっそ連れていってくださいよおぉぉおぉ！

若き料理人コルト・クレイガンは一人崩れ落ちていた。そんなクレイブを料理長は背中をさすってやりながら慰めている。だかこのときふと、一つの考えが料理長を掠めたが期待させるのもどうかと思ったのであえて何も言わなかった。
だか、この後料理長の頭を掠めた一つの考えとやらに自力でたどり着いて子爵の執務室に直談判することを料理長は知らない。もちろん他の人も知るわけがなかった。