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スクープ2
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事務所に着くと、まっすぐ事務室に向かう。すると、浅川さんはすぐに俺に気づいた。
「あ、柊真くん。お疲れ様。タイから戻ってきたんだ」
「昨日戻って来ました。これ、お土産です」
そう言って紙袋から出して渡す。浅川さんへのお土産は、ドリアンのチップスとタイのレトルトカレーと調味料だ。
辛いものがあまり得意じゃない俺とは全然違い、タイの辛さが好きな浅川さんへのお土産には絶対に食品にしようと思っていた。
「おー。これは早く食べたいな。仕事なのにありがとうね」
「いえ。あ、後はこれ。事務室のみんなで食べてください」
これは事務室のみんなで食べれるように、チョコレートを買ってきた。
「ありがとうね。後で回しとくわ。あ、ちょっと待って。ファンレターまた来てるから持って行って」
そう言って紙袋を渡される。
「ありがとうございます」
「後は社長?」
「はい。じゃあ、また」
「うん。ありがとうね」
浅川さんに見送られ、事務室を出てすぐの給湯室から女性の話し声が聞こえる。前に颯矢さんのお見合いのことを聞いたのはここだったな、と思って通り過ぎようとしたところで、また颯矢さんの名前が聞こえた。
「壱岐さん、結婚するらしいわね」
「あーん。とうとう人のものになっちゃうのね」
「イケメンなのにー」
「でも相手も美人らしいわよ」
「美人かぁ。それじゃあ太刀打ちできないわ」
颯矢さんが結婚? 決まったのか? タイでなにか言いたそうにしていたのは、そのこと? でも、マネージャーが結婚しても俳優には関係がない。だって、俳優はただの仕事でしかないのだから。じゃあ、なにを言いたかったんだろう。そのときは無視したくせに、今になって気になる。
そうでなくてもさっき病院で泣きそうになったのに、今度は事務所でなんてたまったもんじゃない。ていうか、給湯室ってなに? 噂話をする場所なの? でも、女性が集まるとそうなるのかな。もう、それ以上考えたくなくて、足早に社長室のある6階を目指した。
6階で秘書の戸倉さんに訊くと、社長は来客中ということで、社長宛のお土産と戸倉さん宛のお土産を渡して事務所を後にし、タクシーで撮影現場へ向かった。
車中で考えるのは颯矢さんのことばかりだ。タイへ行く前に電話で話していた内容や、バンコクで女性向けのお土産を買っている姿を考えると、きっと結婚はするのだろう。そうしたら、失恋だ。きちんと失恋したかったけれど、告白をきちんと聞いてくれない事自体が答えなのかもしれない。だとしたら、もう随分前に失恋していることになる。
嫌だけど、きっと結婚式には招待されるんだろうな。颯矢さんがマネージしているのは俺だ。その俺が招待されないことはないだろうし、出席しなくてはいけないだろう。何が悲しくて好きな人が他の人と結婚するのを見なきゃいけないんだろう。マネージャーが颯矢さんじゃなければ良かった。そうしたら、颯矢さんを好きになることもなかった。たられば話ではあるけれど。
そんなことを考えているとまた泣きそうになる。これから撮影なんだから泣くわけにはいかない。でも、気を抜いたら涙が出そうで唇をぎゅっと噛む。仕事じゃなければいいのに。
俺のそんな気持ちとは裏腹に、タクシーは渋滞にハマることなく順調に進み、30分もすると撮影現場に着いた。
「おはようございます」
「柊真くん、おはよう。帰国したばかりだけど、頑張って」
「はい。多田さんもお疲れ様です」
タイでのロケで一緒だったスタッフさんと言葉を交わす。
そして控室に入ると、颯矢さんはすでに来ていた。まともに顔を見れないし、話なんてできない。できれば会いたくない。でも仕方がない。仕事なんだから。
「おはようございます」
「おはよう、柊真。疲れてないか?」
「大丈夫、です」
「柊真? どうした?」
どうした? と訊かれて俺はなんて答えたらいい? 無理にでも笑ってなんでもない、とでも言えばいい? 颯矢さん相手に芝居なんてできないよ。でも、なんでもない振りもできなくて、つい俺は訊いてしまった。
「颯矢さん、結婚するって本当?」
「どこでそんなことを聞いた?」
「事務所で」
「全く。誰がそんな噂話しているんだか」
「ねぇ、本当なの?」
「決まったわけじゃない。ただ、結婚を視野に入れて付き合っている」
ケッコンヲシヤニイレテツキアッテイル
ケッコンヲシヤニイレテ……
なにそれ。給湯室の話は本当だったんだ。
颯矢さんが結婚をする。
その言葉を聞いた俺は、足元から砂が削られていくようだった。
「あ、柊真くん。お疲れ様。タイから戻ってきたんだ」
「昨日戻って来ました。これ、お土産です」
そう言って紙袋から出して渡す。浅川さんへのお土産は、ドリアンのチップスとタイのレトルトカレーと調味料だ。
辛いものがあまり得意じゃない俺とは全然違い、タイの辛さが好きな浅川さんへのお土産には絶対に食品にしようと思っていた。
「おー。これは早く食べたいな。仕事なのにありがとうね」
「いえ。あ、後はこれ。事務室のみんなで食べてください」
これは事務室のみんなで食べれるように、チョコレートを買ってきた。
「ありがとうね。後で回しとくわ。あ、ちょっと待って。ファンレターまた来てるから持って行って」
そう言って紙袋を渡される。
「ありがとうございます」
「後は社長?」
「はい。じゃあ、また」
「うん。ありがとうね」
浅川さんに見送られ、事務室を出てすぐの給湯室から女性の話し声が聞こえる。前に颯矢さんのお見合いのことを聞いたのはここだったな、と思って通り過ぎようとしたところで、また颯矢さんの名前が聞こえた。
「壱岐さん、結婚するらしいわね」
「あーん。とうとう人のものになっちゃうのね」
「イケメンなのにー」
「でも相手も美人らしいわよ」
「美人かぁ。それじゃあ太刀打ちできないわ」
颯矢さんが結婚? 決まったのか? タイでなにか言いたそうにしていたのは、そのこと? でも、マネージャーが結婚しても俳優には関係がない。だって、俳優はただの仕事でしかないのだから。じゃあ、なにを言いたかったんだろう。そのときは無視したくせに、今になって気になる。
そうでなくてもさっき病院で泣きそうになったのに、今度は事務所でなんてたまったもんじゃない。ていうか、給湯室ってなに? 噂話をする場所なの? でも、女性が集まるとそうなるのかな。もう、それ以上考えたくなくて、足早に社長室のある6階を目指した。
6階で秘書の戸倉さんに訊くと、社長は来客中ということで、社長宛のお土産と戸倉さん宛のお土産を渡して事務所を後にし、タクシーで撮影現場へ向かった。
車中で考えるのは颯矢さんのことばかりだ。タイへ行く前に電話で話していた内容や、バンコクで女性向けのお土産を買っている姿を考えると、きっと結婚はするのだろう。そうしたら、失恋だ。きちんと失恋したかったけれど、告白をきちんと聞いてくれない事自体が答えなのかもしれない。だとしたら、もう随分前に失恋していることになる。
嫌だけど、きっと結婚式には招待されるんだろうな。颯矢さんがマネージしているのは俺だ。その俺が招待されないことはないだろうし、出席しなくてはいけないだろう。何が悲しくて好きな人が他の人と結婚するのを見なきゃいけないんだろう。マネージャーが颯矢さんじゃなければ良かった。そうしたら、颯矢さんを好きになることもなかった。たられば話ではあるけれど。
そんなことを考えているとまた泣きそうになる。これから撮影なんだから泣くわけにはいかない。でも、気を抜いたら涙が出そうで唇をぎゅっと噛む。仕事じゃなければいいのに。
俺のそんな気持ちとは裏腹に、タクシーは渋滞にハマることなく順調に進み、30分もすると撮影現場に着いた。
「おはようございます」
「柊真くん、おはよう。帰国したばかりだけど、頑張って」
「はい。多田さんもお疲れ様です」
タイでのロケで一緒だったスタッフさんと言葉を交わす。
そして控室に入ると、颯矢さんはすでに来ていた。まともに顔を見れないし、話なんてできない。できれば会いたくない。でも仕方がない。仕事なんだから。
「おはようございます」
「おはよう、柊真。疲れてないか?」
「大丈夫、です」
「柊真? どうした?」
どうした? と訊かれて俺はなんて答えたらいい? 無理にでも笑ってなんでもない、とでも言えばいい? 颯矢さん相手に芝居なんてできないよ。でも、なんでもない振りもできなくて、つい俺は訊いてしまった。
「颯矢さん、結婚するって本当?」
「どこでそんなことを聞いた?」
「事務所で」
「全く。誰がそんな噂話しているんだか」
「ねぇ、本当なの?」
「決まったわけじゃない。ただ、結婚を視野に入れて付き合っている」
ケッコンヲシヤニイレテツキアッテイル
ケッコンヲシヤニイレテ……
なにそれ。給湯室の話は本当だったんだ。
颯矢さんが結婚をする。
その言葉を聞いた俺は、足元から砂が削られていくようだった。
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