Always in Love

水無瀬 蒼

文字の大きさ
22 / 43

転機2

しおりを挟む
 葬儀は無事終わり、遺骨を家に持ってくるとほんとに母さんはもういないんだと思い知らされた。小さな骨壷に骨が入っているだけ。母さんの存在はそれだけになってしまった。
 遺骨は、仕事の合間に納骨を済ませることになっている。伯母さんは遠いから、特に式は行わず納骨だけをすることにした。それならいつでもオフのときにできる。
 三回忌には伯母さんが来てくれるし、時間があえば伯父さんも来てくれると言っている。伯父さんは会社を経営しているから忙しい。それでもそう言ってくれるのはありがたい。
 うちは父さんがもういないので親族も伯母さんしかいないから、その点は寂しいけど、そんなことを言ってはいけないのはわかってる。だって伯母さんはいつも親身になってくれるのだから。
 そして、葬儀が終わり、伯母さんが帰る時間になった。
 
「私帰るけど、柊真くん大丈夫? もう少しいようか?」
「ううん。伯母さんだって伯父さん待ってるんだし、大変でしょう。俺も明日からまた仕事だから」
「そう? 大丈夫なのね? でも、なにかあったら遠慮はいらないから電話してね」
「ありがとう」
「私もできることはさせていただくので」
「ありがとうございます。柊真くん、ほんとに辛くなると私にも遠慮しちゃうから、よろしくお願いします」

 伯母さんが帰るのに、颯矢さんに挨拶をしていた。伯母さんは遠慮するなっていうけど、伯父さんいるからそんなに甘えるわけにはいかない。

「伯母さん。大丈夫だよ」
「その言葉信じるわよ? 智恵もあの世で柊真くんのこと見守ってるから。私だってなにかあったらすぐに来るし。マネージャーさんだっているから、ね? 1人だなんて思っちゃダメよ」

 心配そうに言う伯母さんを見ていたら、自分が1人ぼっちになったんだと再確認させられて涙が出た。そっか、今日から1人なんだ。

「あぁ、もう行かないと新幹線が……。柊真くん、たまに電話するから。ね? ごめんね。新幹線くるからもう行くけど。辛かったら私でもマネージャーさんでもいいから話すこと。約束してね」
「わかった。伯母さん、急がないと」
「じゃ、柊真くん、しっかりするのよ」

 そう言うと伯母さんは慌ただしく帰っていった。残ったのは俺と颯矢さんの2人だ。でも、会話はない。伯母さんは颯矢さんにも話せって言ってたけど、きっと俺は話さない。
 以前であれば話してたかもしれないけれど、最近はまともに会話もしていないし。俺が一方的に作ったけれど、今、俺と颯矢さんの間には溝がある。颯矢さんが結婚したらその溝はさらに広がるだろう。
 そんなこと、余計に心配させるから伯母さんには言えなかったけれど。
 伯母さんは1人じゃないって言ってたけど、1人だよ。もう、母さんはいない。そう思うと涙が出て止まらなかった。

「俺も一度事務所に戻って仕事の調整してくるが、大丈夫か?」
「……」

 大丈夫かどうか訊かれたら大丈夫なんかじゃない。でも、大丈夫って言うしかないじゃないか。それに今、颯矢さんがいたところで話はしないんだから、いなくても一緒だと思う。それに、今回のことでスケジュール調整があるんだろう。それは颯矢さんじゃないとできない。

「柊真……」
「行っていいよ」
「なにかあったらすぐに連絡しろ。寂しい、でもなんでもいいから」
「大丈夫だよ」

 颯矢さんが親身になってくれるのは仕事だから。個人的になんかじゃない。だから、なにかあったって電話なんてしない。それに今の俺と颯矢さんの間に溝があるのは気づいているだろう。それならなおさらだ。
 大丈夫だと言って颯矢さんを帰らせ、俺は1人になった。そう、1人だ。誰もいない。1人になった俺はどうしたらいい? 
 入院しているにしても母さんが生きているときは考えたことがない。母さんも頑張っているんだから俺も頑張る。そう思っていた。でも、その母さんはもういない。
 なんのために頑張っているんだろう。
 あんなでっちあげの記事書かれて。行きたいところにさえ自由に行かれない。それでも、颯矢さんのそばにいられれば良かった。でも、もう違う。
 颯矢さんは結婚する。香織さんとか言う人と。俺が欲しくて欲しくてどうしようもない人を、女という性別だけで手に入れることができる人。
 俺は男で、かつ颯矢さんにとっては商品のようなものだ。どうやったって叶うはずがないんだ。
 そう考えて、ふと仕事を辞めようかと考えた。
 仕事自体は決して嫌いじゃない。演技をするのは好きだ。でも、息苦しい。そして、どうやっても手に入らない颯矢さんと顔を合わせなくてはいけない。
 辞めるなら今が辞め時かもしれない。他の仕事に就くにせよ、20代の今ならなんとかなる。
 母さんもいないから、何にも縛られない。引退してもいいのかもしれない。そうしたら、颯矢さんとも顔を合わせなくてもいい。そうだ。そうしよう。
 自分の中でそう決めると、後は近いうちに事務所に行って社長に話そう。そう決めると少し気持ちが軽くなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

僕の目があなたを遠ざけてしまった

紫野楓
BL
 受験に失敗して「一番バカの一高校」に入学した佐藤二葉。  人と目が合わせられず、元来病弱で体調は気持ちに振り回されがち。自分に後ろめたさを感じていて、人付き合いを避けるために前髪で目を覆って過ごしていた。医者になるのが夢で、熱心に勉強しているせいで周囲から「ガリ勉メデューサ」とからかわれ、いじめられている。  しかし、別クラスの同級生の北見耀士に「勉強を教えてほしい」と懇願される。彼は高校球児で、期末考査の成績次第で部活動停止になるという。  二葉は耀士の甲子園に行きたいという熱い夢を知って……? ______ BOOTHにて同人誌を頒布しています。(下記) https://shinokaede.booth.pm/items/7444815 その後の短編を収録しています。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

冬は寒いから

青埜澄
BL
誰かの一番になれなくても、そばにいたいと思ってしまう。 片想いのまま時間だけが過ぎていく冬。 そんな僕の前に現れたのは、誰よりも強引で、優しい人だった。 「二番目でもいいから、好きになって」 忘れたふりをしていた気持ちが、少しずつ溶けていく。 冬のラブストーリー。 『主な登場人物』 橋平司 九条冬馬 浜本浩二 ※すみません、最初アップしていたものをもう一度加筆修正しアップしなおしました。大まかなストーリー、登場人物は変更ありません。

想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。 そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

処理中です...