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記憶3
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血を流して倒れている颯矢さんを見て、気は動転しているが冷静にどうしたらいいのか考える。そうだ。救急車だ。後、社長に電話した方がいいかな?
まずは救急車だ。119番通報して、怪我人がいることを伝え救急車の到着を待つ。それから、社長室に電話をし社長に颯矢さんが頭から血を流して倒れていることを伝える。
電話をすると、社長はすぐに来てくれて一緒に救急車を待つ。その時間がやたらに長く感じたのは、やはり冷静ではないんだろう。
やっと来た救急車に社長と2人で付き添いとして乗る。社長はスマホで会社のデータにアクセスし、颯矢さんの緊急連絡先をメモしていた。
病院についてから颯矢さんは治療と検査にまわされる。社長はどこかに電話をしに行ったから、おそらく颯矢さんの緊急連絡先に電話をしていたんだろう。
電話から戻ってきた社長は、俺に缶コーヒーを買ってきてくれていた。
「大丈夫だから、落ち着こう」
その言葉で、自分が震えていたことに気づく。
「って無理だよね。でも、もう病院に来たし大丈夫だよ。後は先生がきちんと診てくれる」
「はい。でも、俺が……俺を庇おうとしたから……」
でも俺はさっきから自分を責めていた。俺が芸能界を引退するなんて言わなければ、あそこを通ることはなかった。そして、俺を庇おうとしなければこんなことにならなかった。颯矢さんをこんな目に合わせたのは俺だ。
「自分を責めないこと。いつもならあそこを歩くことはなかった、自分を庇ったからとか考えてるんでしょう? でも、問題なのは鉄材を落ちるように置いていた建設会社なんだよ。柊真じゃない。だから自分を責めないこと」
こんなときでも冷静な社長ってすごいな、と思った。俺は自分を責めることしかできていない。次から次へと流れてくる涙を拭うこともできない。
「柊真はよく冷静に動いたよ。すぐに救急車を呼んで僕のことも呼んでくれたでしょう。それはすごいよ」
そう言って、僕の手を握る。震えはまだ落ち着いていなかった。
「あの現場にいたら怖くなるよね。でも、僕もいるし、壱岐くんのご両親もこれから来るっていうから、もう安心しなさい」
社長はいつもの穏やかな社長だ。俺が社長を好きで尊敬するのはこういうところだ。決して大声を出したりしない。いつも冷静で穏やかな人だ。
社長だって苛立つことだって冷静でいられないときだってあるはずだ。でも、社長は決してそういうそぶりを見せたりしない。俺より年上というのもあるのかもしれないけれど、性格や立場的にというのが大きいと思う。
「颯矢さんの家族の人が来たら、俺……」
「大丈夫。責めたりしないから安心しなさい。さっきも言ったけど、柊真はなにも悪くないから。それは壱岐くんのご両親にだってわかるよ」
「はい……」
「それより、柊真、明日のスケジュールはわかる?」
「確か、明日はNテレビとYテレビで収録があります。ドラマの撮影は明日はオフです」
「そしたら今日はもう帰りなさい。明日の仕事に響くから。帰ってお風呂に入って寝る。それが今柊真がすべきことだ」
「でも……」
「で、壱岐くんの怪我しだいだけど、しばらくは休んで貰うからその間は他の臨時マネージャーについてもらう。これから手配するから、後で連絡するよ」
確かに社長の言う通り、明日の仕事に備えるべきだろう。確かNテレビの入は11時って颯矢さんは言ってた。だからうちを出るのは10時半だったはずだ。
チラリと病院の時計に目をやると、21時だった。ここから帰って21時半ということだろうか。まだ、もう少しなら大丈夫と思って社長を見るけれど、社長はニコリとしながらも首を振っている。帰れ、ということか。
「あの。じゃあ、颯矢さんのご両親に謝罪してから……」
「さっきも言ったけど、柊真が謝るようなことは何ひとつない。状況を話せるだけでしょう」
社長はニコリとしてはいるけれど、譲る気はないように見える。こうなると、柊真がなにを言っても無駄だ。
「……帰ります」
「うん、そうしてね。どちらにしても後で連絡するから待ってて」
「はい」
颯矢さんの顔を見てから帰りたかったけれど、まだまだ時間がかかりそうだし、なにより社長が認めてはくれないので、仕方なく家に帰ることにした。
まずは救急車だ。119番通報して、怪我人がいることを伝え救急車の到着を待つ。それから、社長室に電話をし社長に颯矢さんが頭から血を流して倒れていることを伝える。
電話をすると、社長はすぐに来てくれて一緒に救急車を待つ。その時間がやたらに長く感じたのは、やはり冷静ではないんだろう。
やっと来た救急車に社長と2人で付き添いとして乗る。社長はスマホで会社のデータにアクセスし、颯矢さんの緊急連絡先をメモしていた。
病院についてから颯矢さんは治療と検査にまわされる。社長はどこかに電話をしに行ったから、おそらく颯矢さんの緊急連絡先に電話をしていたんだろう。
電話から戻ってきた社長は、俺に缶コーヒーを買ってきてくれていた。
「大丈夫だから、落ち着こう」
その言葉で、自分が震えていたことに気づく。
「って無理だよね。でも、もう病院に来たし大丈夫だよ。後は先生がきちんと診てくれる」
「はい。でも、俺が……俺を庇おうとしたから……」
でも俺はさっきから自分を責めていた。俺が芸能界を引退するなんて言わなければ、あそこを通ることはなかった。そして、俺を庇おうとしなければこんなことにならなかった。颯矢さんをこんな目に合わせたのは俺だ。
「自分を責めないこと。いつもならあそこを歩くことはなかった、自分を庇ったからとか考えてるんでしょう? でも、問題なのは鉄材を落ちるように置いていた建設会社なんだよ。柊真じゃない。だから自分を責めないこと」
こんなときでも冷静な社長ってすごいな、と思った。俺は自分を責めることしかできていない。次から次へと流れてくる涙を拭うこともできない。
「柊真はよく冷静に動いたよ。すぐに救急車を呼んで僕のことも呼んでくれたでしょう。それはすごいよ」
そう言って、僕の手を握る。震えはまだ落ち着いていなかった。
「あの現場にいたら怖くなるよね。でも、僕もいるし、壱岐くんのご両親もこれから来るっていうから、もう安心しなさい」
社長はいつもの穏やかな社長だ。俺が社長を好きで尊敬するのはこういうところだ。決して大声を出したりしない。いつも冷静で穏やかな人だ。
社長だって苛立つことだって冷静でいられないときだってあるはずだ。でも、社長は決してそういうそぶりを見せたりしない。俺より年上というのもあるのかもしれないけれど、性格や立場的にというのが大きいと思う。
「颯矢さんの家族の人が来たら、俺……」
「大丈夫。責めたりしないから安心しなさい。さっきも言ったけど、柊真はなにも悪くないから。それは壱岐くんのご両親にだってわかるよ」
「はい……」
「それより、柊真、明日のスケジュールはわかる?」
「確か、明日はNテレビとYテレビで収録があります。ドラマの撮影は明日はオフです」
「そしたら今日はもう帰りなさい。明日の仕事に響くから。帰ってお風呂に入って寝る。それが今柊真がすべきことだ」
「でも……」
「で、壱岐くんの怪我しだいだけど、しばらくは休んで貰うからその間は他の臨時マネージャーについてもらう。これから手配するから、後で連絡するよ」
確かに社長の言う通り、明日の仕事に備えるべきだろう。確かNテレビの入は11時って颯矢さんは言ってた。だからうちを出るのは10時半だったはずだ。
チラリと病院の時計に目をやると、21時だった。ここから帰って21時半ということだろうか。まだ、もう少しなら大丈夫と思って社長を見るけれど、社長はニコリとしながらも首を振っている。帰れ、ということか。
「あの。じゃあ、颯矢さんのご両親に謝罪してから……」
「さっきも言ったけど、柊真が謝るようなことは何ひとつない。状況を話せるだけでしょう」
社長はニコリとしてはいるけれど、譲る気はないように見える。こうなると、柊真がなにを言っても無駄だ。
「……帰ります」
「うん、そうしてね。どちらにしても後で連絡するから待ってて」
「はい」
颯矢さんの顔を見てから帰りたかったけれど、まだまだ時間がかかりそうだし、なにより社長が認めてはくれないので、仕方なく家に帰ることにした。
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