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記憶5
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「意識が戻ったのが今日のお昼でね。僕もそれで急いで来たんだけど、これからの仕事の話をしていたら、柊真のことを新人ですかって言ってね。話をしてみると柊真のことを覚えていなかったんだ。慌てて先生を呼んで訊いたら、他のことはきちんと覚えててね。それで、さっきの系統的健忘じゃないかって言われて、柊真が来るのを待ってたんだ」
他のことは覚えているのに、俺のことだけ覚えてないってなんで? そう思うと涙が出てくる。忘れるほど俺のこと嫌いだったの?
その思いは、心の中だけでなく口からも出てしまっていたようだ。
「壱岐くんが柊真のこと嫌いなわけないでしょ」
「でも、俺のことだけ忘れてるって」
「系統的健忘って、解離性健忘っていう記憶障害のひとつらしいんだけど、ストレスが原因らしいんだ。だから、柊真のことが嫌いでっていうわけじゃないんだよ」
「ストレス?」
「そう。もし、仕事のことであれば僕が悪いんだけどね。でも、なにかあっても自分で抱え込むのは壱岐くんの性格だから、これは壱岐くんにしかわからないんだけど、今の壱岐くんにはわからない」
ストレス......。
なんのストレスなんだろう。
俺は颯矢さんの私生活についてはなにも知らない。俺についていてくれているときの颯矢さんのことしか知らない。
俺に対してストレスを感じていたんだろうか。そう思ったら涙が止まらない。
「柊真、なんでも自分のせいにしないの。柊真のことが嫌いなわけじゃないから」
「でも……」
「だから泣かないの。目腫れちゃうよ。今朝も腫れてたんじゃない? 明日の仕事は?」
「明日は午後から撮影が入っています」
「だって。目腫らすわけにいかないよね」
そう言われたらうなずくしかできない。でも、泣き止みたいと思っても涙は止まってくれないんだ。
「壱岐くん、この仕事を柊真の代表作にしたいって言ってたからね。壱岐くんのその気持ち受け取ってあげてよ」
「この仕事を?」
「そう。今回のドラマって、監督側がすごく力入れてたでしょう。映画に負けないドラマをって。だからね、壱岐くんはそんなドラマを柊真の代表作にしてあげたいって」
俺の代表作に……。
なんでそんな大事なこと言ってくれないんだよ。
だから、頑張れって言ってくれれば良かったのに。
でも、俺のことそんなふうに思ってくれていたのに、なんで俺のことだけ忘れたりしたの? 今の颯矢さんに訊いても答えはないんだろう。
「まぁ、柊真のことを覚えてなくても仕事のことは覚えてるからマネージャーとして仕事はできる。けど、しばらくは頭の傷があるから、その間は氏原くんにお願いするよ。その後のことは壱岐くんの様子次第かな?」
そっか。俺のことは覚えていなくても、仕事のことを覚えてればマネージャーの仕事はできるのか。そうしたら、また颯矢さんと仕事ができる。だけど、俺のことだけ忘れてる颯矢さんと仕事をするのは少し悲しい。いや、仕事なんだから悲しいもなにもないけれど。
「まぁ、仕事復帰の前に少しでも記憶が戻るように先生も尽力してくれるし、僕たちの方でも柊真のことを思い出すようにするけどね」
「記憶ってどのくらいで戻るんですか?」
「それは人によるらしい。数日で戻る場合もあるけど、何年もかかる人もいるらしい」
そんな……。
視線を颯矢さんに向けると、俺の方をじっと見ていた。
今の颯矢さんにとって俺は見知らぬ人なんだよな。
「きっとすぐに戻るよ。だから柊真は気にせずに仕事をして欲しい」
「はい……」
ほんとは仕事なんて放って颯矢さんのことを見ていたい。
でも、俺の代表作にしたいって颯矢さんが思っていたのなら、仕事はしっかりする。
ここでいい加減に仕事をして、あとで颯矢さんに幻滅されないためにも。
「それまでの間、氏原くんよろしくね」
「はい! 任せてください!」
「そろそろ面会時間も終わりだから帰ろうか。氏原くん、柊真のこと送っていってあげてね」
「わかりました」
「じゃあ柊真、明日の仕事も頑張って」
「はい。あのっ! また颯矢さんのお見舞いにきてもいいですよね?」
「もちろんだよ。顔を見せてあげるといい。それで記憶が戻るかもしれないしね」
「はい!」
とりあえず、お見舞いはしていいというから、時間ができたらお見舞いに来よう。そう思ってその日は病院を後にした。
他のことは覚えているのに、俺のことだけ覚えてないってなんで? そう思うと涙が出てくる。忘れるほど俺のこと嫌いだったの?
その思いは、心の中だけでなく口からも出てしまっていたようだ。
「壱岐くんが柊真のこと嫌いなわけないでしょ」
「でも、俺のことだけ忘れてるって」
「系統的健忘って、解離性健忘っていう記憶障害のひとつらしいんだけど、ストレスが原因らしいんだ。だから、柊真のことが嫌いでっていうわけじゃないんだよ」
「ストレス?」
「そう。もし、仕事のことであれば僕が悪いんだけどね。でも、なにかあっても自分で抱え込むのは壱岐くんの性格だから、これは壱岐くんにしかわからないんだけど、今の壱岐くんにはわからない」
ストレス......。
なんのストレスなんだろう。
俺は颯矢さんの私生活についてはなにも知らない。俺についていてくれているときの颯矢さんのことしか知らない。
俺に対してストレスを感じていたんだろうか。そう思ったら涙が止まらない。
「柊真、なんでも自分のせいにしないの。柊真のことが嫌いなわけじゃないから」
「でも……」
「だから泣かないの。目腫れちゃうよ。今朝も腫れてたんじゃない? 明日の仕事は?」
「明日は午後から撮影が入っています」
「だって。目腫らすわけにいかないよね」
そう言われたらうなずくしかできない。でも、泣き止みたいと思っても涙は止まってくれないんだ。
「壱岐くん、この仕事を柊真の代表作にしたいって言ってたからね。壱岐くんのその気持ち受け取ってあげてよ」
「この仕事を?」
「そう。今回のドラマって、監督側がすごく力入れてたでしょう。映画に負けないドラマをって。だからね、壱岐くんはそんなドラマを柊真の代表作にしてあげたいって」
俺の代表作に……。
なんでそんな大事なこと言ってくれないんだよ。
だから、頑張れって言ってくれれば良かったのに。
でも、俺のことそんなふうに思ってくれていたのに、なんで俺のことだけ忘れたりしたの? 今の颯矢さんに訊いても答えはないんだろう。
「まぁ、柊真のことを覚えてなくても仕事のことは覚えてるからマネージャーとして仕事はできる。けど、しばらくは頭の傷があるから、その間は氏原くんにお願いするよ。その後のことは壱岐くんの様子次第かな?」
そっか。俺のことは覚えていなくても、仕事のことを覚えてればマネージャーの仕事はできるのか。そうしたら、また颯矢さんと仕事ができる。だけど、俺のことだけ忘れてる颯矢さんと仕事をするのは少し悲しい。いや、仕事なんだから悲しいもなにもないけれど。
「まぁ、仕事復帰の前に少しでも記憶が戻るように先生も尽力してくれるし、僕たちの方でも柊真のことを思い出すようにするけどね」
「記憶ってどのくらいで戻るんですか?」
「それは人によるらしい。数日で戻る場合もあるけど、何年もかかる人もいるらしい」
そんな……。
視線を颯矢さんに向けると、俺の方をじっと見ていた。
今の颯矢さんにとって俺は見知らぬ人なんだよな。
「きっとすぐに戻るよ。だから柊真は気にせずに仕事をして欲しい」
「はい……」
ほんとは仕事なんて放って颯矢さんのことを見ていたい。
でも、俺の代表作にしたいって颯矢さんが思っていたのなら、仕事はしっかりする。
ここでいい加減に仕事をして、あとで颯矢さんに幻滅されないためにも。
「それまでの間、氏原くんよろしくね」
「はい! 任せてください!」
「そろそろ面会時間も終わりだから帰ろうか。氏原くん、柊真のこと送っていってあげてね」
「わかりました」
「じゃあ柊真、明日の仕事も頑張って」
「はい。あのっ! また颯矢さんのお見舞いにきてもいいですよね?」
「もちろんだよ。顔を見せてあげるといい。それで記憶が戻るかもしれないしね」
「はい!」
とりあえず、お見舞いはしていいというから、時間ができたらお見舞いに来よう。そう思ってその日は病院を後にした。
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