漆黒の令嬢は光の皇子に囚われて

月乃ひかり

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番外編

~あの夜を忘れない~ランスロット&フィオナ(6)

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 数日後、フィオナは、前に比べると少しづつではあるが徐々に悪阻にも慣れ、気分も幾分か楽になってきた。
 メアリに自分の秘密を打ち明けたことで、ひとりで抱え込んでいた心の重荷が取れたこともあった。
 カイル皇子にも懐妊したことを話せずにいるままだったけれど、自分一人ではなく、メアリとなんとか知恵を出し合って、お互いの国同士が波風を立てずにうまく解決することができるのではないか、そんな淡い期待を抱いていた。
 
 そして自分のお腹に宿る赤ちゃんの存在。
 まだ自分の中に赤ちゃんがいるなんて信じられないでいたが、毎朝吐き気をもよおすたびにお腹をそっと押さえる。
 メアリが悪阻つわりがあるのは赤ちゃんが順調に育っている証拠だと言っていた。
 それからは、悪阻もなんとか我慢してやり過ごすことができるようになった。

 ーふふ。
 あの黒騎士さまが私の妊娠を知ったら、びっくりするかしら?
 時折、そんなことも考えるようになった。メアリの言うように、本当に彼が迎えに来るかどうかはわからない。だけど、この赤ちゃんはきっと私が育てなければー
 そう思うと、なんだか勇気が湧いてきた。
 今日は白鳥の宮の庭園でも散歩してみようか、きっとお腹の赤ちゃんにとっても外の景色を眺めるのはいいことだ、そう思ってベッドから起き上がると、寝巻きのまま鏡台の前に腰掛けた。

「王女さま、フィオナ様、大変です…!」

 メアリが緊張した面持ちで、フィオナの部屋にするりと入ってきて、扉をぴったりと締める。

「メアリ? どうしたの。何かあったの?」

 メアリの声は、なんだかすごく緊張しているようだった。

「白鳥の宮の衛兵から聞いたのですが、昨日ダークフォール公爵のご令嬢のリゼル様が王女様を訪ねていらっしゃったそうなのです」

「リゼル様が私を訪ねて? でも私は聞いてないわ」

 メアリは、もっともだと言うように頷いた。

「それがおかしいのです。いつもなら王女様のご面会は、必ず私のところに取次がきます。ただ昨日は、王妃様の指示で別の侍女が対応したそうなのです。これは噂なのですが、リゼル様は王女様を暗殺しようと、毒入りの紅茶をもってきたとか」

「なんですって!?」

「それだけではありません。リゼル様の対応をした侍女もどこに行ったのか行方不明です。私たちには何も教えられてなくて。それに昨夜、衛兵がダークフォール公爵邸に踏み込んで、リゼル様をフィオナ様の暗殺未遂容疑で捉えたとか。もうまもなくリゼル様の裁判があるようなのです。今朝はその話で、私たち女官の間でものすごい噂が飛び交っています。王妃様はその裁判に出るために今不在のようで・・・」

「そんなばかなっ・・・」

 フィオナは喘ぐように息を飲んだ。

 まさか、信じられない。
 あのリゼル様が、なぜ 私を?

「毒入りって、なぜ私にその紅茶を?」

 メアリがふと目を細めて、フィオナ王女に言おうかどうか躊躇していた。

「何か知っているのなら、教えて」
「女官たちの噂では、リゼル様はカイル皇子さまを密かにお慕いしていたとか。それで、その、嫉妬でフィオナ様を毒殺しようと謀ったと」

「・・・!!」

なんてこと!リゼル様がカイル様を?
確かにあのお二人は小さい頃からのお知り合いだという。
カイル様のように素敵な皇子様であれば、リゼル様が恋をするのも頷ける。
そういえば、カイル様もいつもリゼル様を見ているような気がした。
あの聖神祭の夜会の日、お茶会の時…、今思えば、カイル様も、いつだってリゼル様を見ていたのだ!

あの二人は、もしかして相思相愛ではないの?
でも、だったらなぜカイル様は私を婚約者にしたの?
リゼル様のご身分なら王族でなくとも、十分、お妃様になれるはずだ。

以前、ランスロット様に、リゼル様はご結婚しないのか聞いたことがあった。あんなに綺麗な方なら求婚者がいっぱいいるだろうと思ったのだ。
「リゼルは、叶わぬ人を思っているから」そんなことを言っていた気がする。
あれは、カイル様のことだったのだろうか?

フィオナは、なんだか謎が解けたような気がした。もしもカイル様もリゼル様のことを想っていたなら、私に対するそっけない態度も頷ける。

とはいえ、リゼル様は、そんなことをするだろうか。
少ししかお話ししたことはないけれど、とても優しげな瞳をしてらした。

「…メアリ、リゼル様はそんなことをする方ではないように思うの」
「私は、なんとも…」

それに、あのランスロット様の妹さんだ。
あんなに素敵な兄妹はいない。ランスロット様はリゼル様をとても可愛がって愛しているようだった。
そう思うと逆にフィオナにの胸がとくんと鳴った。
もしも、無実だとしたらリゼル様がいわれのない罪で審判にかけられるなど、お可哀そうだ。

「メアリ、その審判に行ってお母様に聞いてみましょう」
「ええ!? 王妃様にですか?」

「着替えを出してくれる? それとお母様がどちらにいるか調べて」

 お腹に赤ちゃんがいるせいだろうか。感覚が研ぎ澄まされたようになり、自分の直感がリゼル様は無実だと語っている。
 リゼル様がカイル様をお慕いしているのであれば、なんとか協力したい。
 そのためにも、リゼル様をお救いしてあげなくては。

 フィオナが、そう決意して着替えるために立ち上がると、部屋の外から女官たちの慌てふためく騒がしい声が聞こえた。
 フィオナとメアリは思わず何が起こったのかと二人で顔を見合わせた。

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