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冷たい風に、細かな雪が舞い踊る。
曇天の下。いつもの見慣れた街は雪化粧のせいか、静謐な空気で満たされていた。その静けさを破るように、莉花はうーん、と唸る。
「やっぱり、さむーい。それに歩きにくいよ~」
舗装された道は除雪されているが、ところどころ薄い氷がきらめいている。ブーツの莉花は恐る恐る足を進めながら、真一郎の腕にすがりついた。
えーと、これも今日のオプションなのかな。あるいは本当に歩きにくいのか。
「莉花さん、今日はやめておきますか?」
「まさかっ。今日こそ犯人を生け捕りにするんだから~」
莉花はいつも以上に張り切っていた。昨日、また子供が消えたらしいと言っていたが、それが関係しているのだろうか。
それにしてもと、真一郎はしみじみ思った。
莉花の情報網は侮れない。八年前の事件についてはともかく、今回の事件の情報に関してはかなりの精度だ。
なによりその熱意には頭が下がる。下手をすると……
「本当に警察より先に、犯人を捕まえてしまうかもしれないですね」
お世辞ではなかった。この犯人が捕まるのは時間の問題だと、真一郎は感じていた。
毎日、午後三時から午後八時までパトロールを続けてわかったが、子供が一人でいることは珍しく、また夜でもあちこちに人の目はあるのだ。
誘拐は連続して続けるには難易度が高い犯罪だ。
八年前の誘拐事件は未解決に終わった。しかし、犯人が逃げきれた理由はきっと……
「ねえ、真一郎くん。なんで八年前、警察は誘拐犯を捕まえられなかったんだと思う?」
「警察が無能だったから、運が良かったから、犯行が巧妙だったから」
ちょうど考えていたことを聞かれ、真一郎はすらすら答えた。
「莉花さんはどう思いますか?」
「私はバカだからわかんないよ~ 頭を動かすのは真一郎くんの役目だよ? 巧妙な犯行って、どんな犯行? 子供に嫌がられたら、すごく目立つよね?」
「そうですね。でも、甘いお菓子をあげるって言われたら、素直についてくるかもしれませんよ?」
「もうっ、からかうのはやめてよ」
「からかってませんよ」
ただ、少しはぐらかしただけだ。
正解を与えることはできるが、それは自分の頭の中を見せる行為だ。馬鹿のふりで本心を見せない彼女に、そこまで誠実にはなれない。
「真一郎くんは、巧妙な犯行って言ったけれど……」
真一郎の苛立ちを感じ取ったのか、彼女は話し始める。
「私はこの犯行は行き辺りばったりな気がしてるの。そもそも八年前に警察の手から逃げきったのに、また犯行をはじめるなんて大馬鹿だよ」
大きな瞳で同意を求められ、真一郎は苦笑した。
「その意見は八割方、賛成ですね。行き辺りばったりという点も、馬鹿という点も、その通りでしょう」
「もったいぶった言い方をするね。それで? 残りの二割は、なあに?」
「八年前の犯人と、今回の犯人が同一とは限りませんよね?」
「え……そこ? でも、共通点はあるよ。身代金を要求しないことや、犯行を連続で成功させていること」
「それだけで同一犯と考えるのは危険です」
「この町で過去に起きた特殊な犯罪が、再び起きている。しかも前の犯人は捕まっていない。それで犯人が別と考えるのは難しいよ」
「誘拐はそれほど特殊な犯罪ではありません。誘拐犯が身代金を要求しないという点も、珍しくない。八年前も今回も、目的は子供なのでしょう。犯人の目的は特定できませんが。まあ、わかりやすい例をあげるとしたら、猥褻とか?」
白い帽子のウサギ耳が風で揺れている。滑りやすい足下を見ながら歩いているため、莉花の表情はうかがえない。
「でも……でもさ、誘拐を成功させ続けるのは難しいんでしょ? 成功させ続けているというだけでも、同一犯の可能性は高いんじゃないかなぁ?」
「たしかに難しいですが、子供が抵抗しなければ、難易度は一気に下がります」
「……それが巧妙な犯行ってこと? どういうこと?」
「うーん。例えて言うならば……ハーメルンの笛吹男、でしょうか」
「また、からかう~」
不満そうな声とともに、莉花に睨まれた。しかし、上目遣いで睨まれても、とてもとても可愛いだけだと真一郎は頬を緩めたが……
「ねえ、そんなに私の上段回し蹴りがほしいの?」
曇天の下。いつもの見慣れた街は雪化粧のせいか、静謐な空気で満たされていた。その静けさを破るように、莉花はうーん、と唸る。
「やっぱり、さむーい。それに歩きにくいよ~」
舗装された道は除雪されているが、ところどころ薄い氷がきらめいている。ブーツの莉花は恐る恐る足を進めながら、真一郎の腕にすがりついた。
えーと、これも今日のオプションなのかな。あるいは本当に歩きにくいのか。
「莉花さん、今日はやめておきますか?」
「まさかっ。今日こそ犯人を生け捕りにするんだから~」
莉花はいつも以上に張り切っていた。昨日、また子供が消えたらしいと言っていたが、それが関係しているのだろうか。
それにしてもと、真一郎はしみじみ思った。
莉花の情報網は侮れない。八年前の事件についてはともかく、今回の事件の情報に関してはかなりの精度だ。
なによりその熱意には頭が下がる。下手をすると……
「本当に警察より先に、犯人を捕まえてしまうかもしれないですね」
お世辞ではなかった。この犯人が捕まるのは時間の問題だと、真一郎は感じていた。
毎日、午後三時から午後八時までパトロールを続けてわかったが、子供が一人でいることは珍しく、また夜でもあちこちに人の目はあるのだ。
誘拐は連続して続けるには難易度が高い犯罪だ。
八年前の誘拐事件は未解決に終わった。しかし、犯人が逃げきれた理由はきっと……
「ねえ、真一郎くん。なんで八年前、警察は誘拐犯を捕まえられなかったんだと思う?」
「警察が無能だったから、運が良かったから、犯行が巧妙だったから」
ちょうど考えていたことを聞かれ、真一郎はすらすら答えた。
「莉花さんはどう思いますか?」
「私はバカだからわかんないよ~ 頭を動かすのは真一郎くんの役目だよ? 巧妙な犯行って、どんな犯行? 子供に嫌がられたら、すごく目立つよね?」
「そうですね。でも、甘いお菓子をあげるって言われたら、素直についてくるかもしれませんよ?」
「もうっ、からかうのはやめてよ」
「からかってませんよ」
ただ、少しはぐらかしただけだ。
正解を与えることはできるが、それは自分の頭の中を見せる行為だ。馬鹿のふりで本心を見せない彼女に、そこまで誠実にはなれない。
「真一郎くんは、巧妙な犯行って言ったけれど……」
真一郎の苛立ちを感じ取ったのか、彼女は話し始める。
「私はこの犯行は行き辺りばったりな気がしてるの。そもそも八年前に警察の手から逃げきったのに、また犯行をはじめるなんて大馬鹿だよ」
大きな瞳で同意を求められ、真一郎は苦笑した。
「その意見は八割方、賛成ですね。行き辺りばったりという点も、馬鹿という点も、その通りでしょう」
「もったいぶった言い方をするね。それで? 残りの二割は、なあに?」
「八年前の犯人と、今回の犯人が同一とは限りませんよね?」
「え……そこ? でも、共通点はあるよ。身代金を要求しないことや、犯行を連続で成功させていること」
「それだけで同一犯と考えるのは危険です」
「この町で過去に起きた特殊な犯罪が、再び起きている。しかも前の犯人は捕まっていない。それで犯人が別と考えるのは難しいよ」
「誘拐はそれほど特殊な犯罪ではありません。誘拐犯が身代金を要求しないという点も、珍しくない。八年前も今回も、目的は子供なのでしょう。犯人の目的は特定できませんが。まあ、わかりやすい例をあげるとしたら、猥褻とか?」
白い帽子のウサギ耳が風で揺れている。滑りやすい足下を見ながら歩いているため、莉花の表情はうかがえない。
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「……それが巧妙な犯行ってこと? どういうこと?」
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「また、からかう~」
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