4 / 9
1-3
しおりを挟む
今年二度目の雪が降った連休明け。
真一郎が喫茶店の出口付近に立ち止まってから、十分が経過しようとしていた。
「もうわかったからっ!」
うっかり出てしまった母からの電話に、とうとう彼は音を上げる。
「ちゃんと食べているし、風邪も引いていないっ。冬物衣類は足りているし、電球も切れてないよ!」
母は真一郎が物心つく前から、家を空けることが多かった。そのせいか、息子が一人で暮らしていけることは知っているはずなのに、過保護だ。
そもそも、寂しがり屋な人なのだろう。
父のことも愛していたし、父がいなくなってからもその面影を真一郎に求める。
それを悲しく感じることはあっても、疎ましく思うことはない。
ただ、母が仕事の合間に突然よこす連絡は面倒だった。いつもはそれも己の義務として応えているが、そろそろ莉花がやってくる。
「他にないなら、電話切るよ。友人を待っているんだ」
『えー、なぁに? 真一郎、あなた友達がいたの!?』
……我が子を一体、なんだと思っているのだろう。
『安心したわー! あなたの人への接し方って、上っ面だと感じていたのよねぇ』
「上っ面……」
『正直、この子の中には冷たい血が流れていて、人になど興味はなくて、どう矯正しようか途方に暮れていたのだけど、本当にホッとした。今日のお酒は美味しく呑めそうっ』
「……そっかぁ、よかったね。僕は、無神経な母の言葉に胸がとてもとても痛むから、今日はこれで。さようなら」
『え、ちょ、待って……まだ話が……』
電源を切る。それとほぼ同時に、出入り口のドアベルが軽やかに鳴った。
「お電話、終わった~?」
莉花だった。
真一郎が電話をしているのが見えたのだろう。外で待っていたらしい。
「……入ってきて良かったのに。外は寒くなかったですか?」
「待ってたのはちょっとだよぉ。それより~……今日のオプションは、こんなところでどうかなぁ」
満面の笑みを浮かべて、莉花はピンクの爪で、もこもこの白い帽子を指さした。
「テーマは、ウサギロリータなのだよ?」
……今日もまた気合いを入れてきたなぁ。
莉花の耳をすっぽり隠す帽子には、長い長い耳がついていた。まるで、たれ耳ウサギのよう。
小さな身を包むのは、白いコートにキャメルのブーツ。
チェックのスカートから覗く健康的な太ももが目の毒だが、ウサギ帽子が彼女を幼く見せ、せいぜい中学生くらいにしか見えないため、何ともアンバランスな魅力である。
「眼福ですね。ありがとうございます!」
「どういたしまして。さて、今日はどこに行こっか~」
「駅前の書店を見た後に、デパートのおもちゃ売場などはどうでしょうか?」
慣れたやりとりはデートの相談のようだが、もちろん巡回経路の確認である。
あれから、五日か……
真一郎は一つため息をつくと、支払いをすませ喫茶店を出た。
真一郎が喫茶店の出口付近に立ち止まってから、十分が経過しようとしていた。
「もうわかったからっ!」
うっかり出てしまった母からの電話に、とうとう彼は音を上げる。
「ちゃんと食べているし、風邪も引いていないっ。冬物衣類は足りているし、電球も切れてないよ!」
母は真一郎が物心つく前から、家を空けることが多かった。そのせいか、息子が一人で暮らしていけることは知っているはずなのに、過保護だ。
そもそも、寂しがり屋な人なのだろう。
父のことも愛していたし、父がいなくなってからもその面影を真一郎に求める。
それを悲しく感じることはあっても、疎ましく思うことはない。
ただ、母が仕事の合間に突然よこす連絡は面倒だった。いつもはそれも己の義務として応えているが、そろそろ莉花がやってくる。
「他にないなら、電話切るよ。友人を待っているんだ」
『えー、なぁに? 真一郎、あなた友達がいたの!?』
……我が子を一体、なんだと思っているのだろう。
『安心したわー! あなたの人への接し方って、上っ面だと感じていたのよねぇ』
「上っ面……」
『正直、この子の中には冷たい血が流れていて、人になど興味はなくて、どう矯正しようか途方に暮れていたのだけど、本当にホッとした。今日のお酒は美味しく呑めそうっ』
「……そっかぁ、よかったね。僕は、無神経な母の言葉に胸がとてもとても痛むから、今日はこれで。さようなら」
『え、ちょ、待って……まだ話が……』
電源を切る。それとほぼ同時に、出入り口のドアベルが軽やかに鳴った。
「お電話、終わった~?」
莉花だった。
真一郎が電話をしているのが見えたのだろう。外で待っていたらしい。
「……入ってきて良かったのに。外は寒くなかったですか?」
「待ってたのはちょっとだよぉ。それより~……今日のオプションは、こんなところでどうかなぁ」
満面の笑みを浮かべて、莉花はピンクの爪で、もこもこの白い帽子を指さした。
「テーマは、ウサギロリータなのだよ?」
……今日もまた気合いを入れてきたなぁ。
莉花の耳をすっぽり隠す帽子には、長い長い耳がついていた。まるで、たれ耳ウサギのよう。
小さな身を包むのは、白いコートにキャメルのブーツ。
チェックのスカートから覗く健康的な太ももが目の毒だが、ウサギ帽子が彼女を幼く見せ、せいぜい中学生くらいにしか見えないため、何ともアンバランスな魅力である。
「眼福ですね。ありがとうございます!」
「どういたしまして。さて、今日はどこに行こっか~」
「駅前の書店を見た後に、デパートのおもちゃ売場などはどうでしょうか?」
慣れたやりとりはデートの相談のようだが、もちろん巡回経路の確認である。
あれから、五日か……
真一郎は一つため息をつくと、支払いをすませ喫茶店を出た。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【アラウコの叫び 】第4巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日21:40投稿】
4巻は、序盤は「推理もの」、中盤から後半は「ロマンスもの」が展開されます。
・サンティアゴで起こる「事件」と「裁き」
・「アンデスの悪魔」として悪名を轟かせた狂気の老人カルバハルの存在感
・ニドス家の兄妹の「行く末」
・イネスとバルディビアとの「出逢い」と「結末」
大きく分けてこの様な展開になってます。
-------------------
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる