はーとふるクインテット

後日談 アレな大団円

代行とカナメのその後

咲夜が一部の代行業務に復帰してから少し後の事。

「ああ、金目。少し彼のお墓参りに行って来るよ。すぐに戻るし敷地内だから護衛は要らないよ」
「彼、というと。…ああ、貴方の昔の愛犬の、カナメの事ですか」

「…ああ、そうだよ。君ももうあの子の名を知っていたのだったね」
「…ええ、初めて使用人の口から聞いた時はかなり引きましたが。…代行様。何故、嘗て己の手で焼き殺した愛犬の名を、僕につけたのです？」

「……そうだね、おそらくは贖罪のつもりだった…んだと思う。君には悪い事をしてしまったね。嫌なら今から別の通り名を名乗ってもいいよ？」

「…いえ、もう五年以上もこの名を名乗っていますし、名の響き自体は嫌いではないので構いませんが。…代行様。殺処分命令が出ていて仕方なかったとはいえ、もう二度とあのような残酷な獣の殺し方はしないと、今は友人でもある僕に誓って下さいませんか」

「ああ、ここに誓おう。もう二度とあんな惨たらしい殺し方はしないよ。安心すると良い」
「…そのお言葉、信じさせていただきますよ。では、行ってらっしゃいませ」


そうして、僕はその自ら殺めた愛犬の墓を参じた。

「…カナメ。ごめんと言っても到底済むものではないけれど。…あんなに苦しめて死なせてしまって、本当に済まなかったね」

「…きっと君は天国で、今も僕の事を噛み殺してやりたいと思っているだろうね。…いままでの罪滅ぼしの為にまだ死ぬ訳にはいかないのだけれど、君に墓参り以外に何かしてやれる事があれば良かったのにね」

「…本当にごめんね、カナメ。君にもう一度会えたなら、心の底から謝りたいよ」


それから更に数年後、僕は厳重な経過観察の元、学園長代行業務を卒業後も続けられる事となり、アレ政策の撤廃促進など政務にも再び携われるようになった。

そうして学園長代行の役目も、もはや5年近く務めるようになっていた頃のある年末の事。

「ええと、次の入学希望生徒は…と。…おや、この名前は。…ふふ、金目。面談試験待ちの彼をここに通してあげて」
「はい、畏まりました」


「…久しぶりだな、咲夜よ」
「…ふふ、やっぱりそうだったんだね」

「…代行様、お知り合いなのですか?」

「…いや、今生で・・・会うのは初めてだね。そうだよね、カナメ？」

「…ああ、そうだな。今生は名前じゃ無くて苗字だがな。俺は要乱牙だ。筆記試験の成績は問題ないはずだ。さっさと面接試験を通してくれ」
「ああ、もちろん。合格だよ、要くん・・・…ふふ、当然だろうけどその話しぶりでは、やっぱり前世の事を恨んでいるようだね」
「当然だろ。あんな苦しめられてえげつなく殺されたんだ。殺処分決まったとしても愛してるなら普通薬殺だろうがよ」

「…ふふ、そうだね。本当にあの時は悪かった。当然謝って済む問題ではないだろうけどね」
「あったりめえだ。前世の事だから仇討ちできねえのが残念だが、ステージ上でてめえらギタギタに噛みついて叩きのめしてやるよ。覚悟しときな」

「あはは。ああ、それは楽しみだね♪」