ショートショート集

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恋した勇者を強制アレしたクーデレエルフ

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僕は悪の限りを尽くした魔王を長い旅路の果てに討伐し、旅の仲間達も誰一人欠けず深刻な怪我も負わずに旅を終える事が出来た。

とはいえ恐ろしい力を持った魔王との死闘でそれなりの傷を負ってしまったので、近くの町に帰還後仲間の優秀な魔法使いのエルフの少女(実年齢は少女なんて物では無いが)が治療してくれる事となり、僕は安心して身を任せ眠りに就いた。


そして目覚めたのだが。

「…ん、うーん。あれ、なんかやたら寝てた気がするんだけど。僕の傷そんなに深かったの?」
「いや、傷はものの数分で完治したが。ちょっと色々と思う事があってね」
「え、思う事って何?ってか何か体の感覚おかしいんだけど今どうなってるの」


「ああ、申し訳無いが四肢を切除させてもらった」
「いやいやいやちょっと待って君何やってんの」

「話すと長くなるのだが。すべては君の事を想っての行動だ」
「いやどういう事なの」

「千年以上の寿命を持つ私からすれば一瞬の事だが、この10年にも及ぶ長い旅で私は初めての感情を抱いた」
「…そ、そうなの」

「君を見ているうちに胸が頻繁に高鳴り、ほぼ病気もせず風邪も千年の内に数度しか引いた事の無いはずなのによく顔や体が熱くなるようになった。これは何かの呪いかと焦り色々と調べたのだが、仲間の僧侶がある日こっそり教えてくれた。それは恋だと」
「…あ、あいつそんな事教えたんだ。いやそれと強制アレがどう繋がるのさ」

「分かるだろう。人間の君と私では種族の違い故、共に過ごせる時間があまりに短すぎると」
「…う、うんまあそれは確かにそうだけどさ」


「そういう訳で四肢を代償に魔力を飛躍的に高める秘術で強制的に寿命を大幅に伸ばさせてもらった。これで500年は余裕で行けるだろう。君も若いまま長生き出来て良いじゃないか」
「いやそういうのはちゃんと同意取ってからにしようよ。インフォームド・コンセントって単語知らないの君」

「知ってはいるが剣と魔法のファンタジー世界でそんな単語を軽々しく使うな。常識が無いな」
「いやこんな事平然とやらかす君に常識どうこう言う資格無いからね?」

「まあアレな事をしている自覚はあるが、事前に相談したら君は絶対に断ったろう」
「うんまあ、当然そうなるだろうね」

「だから申し訳無いが事後承諾で勘弁してもらおうと施術に踏み切った訳だ。…救いようの無い腐れ外道には容赦しないが、君は少しでも同情の余地がある相手は魔族でも慈悲を見せた。…私は君のそういう所に惹かれたのだ。心優しい君なら、きっと許してくれるだろうと信じて済まないがアレした」
「…い、いやこれはかなりギリギリなラインなんだけど」


「…だがこれも僧侶からこっそり教えてもらったが、君も私に好意を抱いていたのだろう。人間とあまり触れ合った事の無かった私は教えてもらうまで気付かなかったが」
「…う、うん確かにそうだけど正直今好意を抱いたのだいぶ後悔しつつある…」

「まあ傷は完璧に塞いだし、魔王を倒し多額の報奨金を得た君なら優秀な義肢を購入できるだろう。私の伝手で既に優美で高性能な義肢を注文したので間もなく手に入るし、君は身体能力が高いし魔力も上がっているのでリハビリも殆ど必要無く動けるだろう。寿命が延びて美しい手足が手に入るし良いじゃないか」
「いや倫理と僕の尊厳を考えてよ。ってか強制アレしといて僕のお金で義肢購入するつもりなの君」

「君、私を雇う時相当な安値しか払わなかったじゃ無いか。まあ金には困ってないから構わないが。流石に強制アレした手前私も少しは出すよ」
「いや全額出して慰謝料くれても良いくらいだよこれは。君あらゆる魔法に精通してるんだから寿命延ばすにしてももっと他に方法無かったの」

「あるにはあるがそうすると身体に相当な負荷がかかり危険だし、最悪の場合名状し難い容貌になる危険性がある。自分の美しさ大好きなナルシストの君としてもそれは避けたいだろうと思って一番外見を損なわない方法を選んだ」
「いや強制アレも相当負荷かかってるけどね。確かにアレな容貌になるのは嫌だけど配慮の方向性がおかしいよ君。…君以外知らないけどエルフって皆こんななの」


「流石に皆ここまででは無い。寿命の異なる種族と添い遂げたくて強制アレしたのは歴史上でも数える程度だ」
「いや他にも数える程度いたのが怖すぎるんだけど。過去に弾圧されてエルフ族大半滅んだって聞いて憐れんでたけどこんなアレだから滅ぼされたんじゃないの」

「そうかもな。大半のエルフは非常に長命かつ強い魔力や戦闘力を持っておりそれ故に価値観や倫理観がアレ気味だからな。だが魔族と違って良識は一応ある」
「いや強制アレする時点でだいぶ良識無いよ。…勇者としてこういう事言いたくは無いけど正直それは滅ぼされても文句言えないと思う。というか義肢付くまで僕どうすれば良いのさ」

「ああ、それまでは私が責任持って世話するから心配いらない。どうせ両想いだったのだし良いじゃ無いか。人間の婚姻の誓いでは確か、病める時も健やかなる時も愛し敬い慈しむと言うのだろう?」
「いや思いっきり病ませたの君だからね?あと誓った所でこれ世間にどう説明するの、確実にドン引かれるでしょ」

「そこは見た目より傷が深くて止むを得ずとか、実は強烈に呪われてて救命の為に苦渋の決断で切除したとか言っておけば問題無いだろう」
「いや僕呪い完全無効の護符装備してたしその設定は無理あるでしょ」
「もし疑問に思ったり追及しようとしたら魔法で精神をアレするなり記録を完璧に改竄するから問題ない」
「だから君倫理」

「流石にパーティーの仲間には精神アレしたり嘘は吐きたく無いので、後で彼等にだけは事情を説明するつもりだ」
「いや確実に仲間もドン引きすると思うよ」

「まあ、そこは覚悟している。だが仲間の異世界から転生して来た少年も私の感情に気付いていたようで、私のような奴はクーデレと呼ぶ立派な萌え属性だと言っていた。だから引かれつつも最終的には理解してくれるだろう」
「いや、今の君の言動は完全にヤンデレのそれだよ」

「それは聞いた事無かったな。まあ転生した少年は3年程度だが他の仲間は長い付き合いだ。最終的には理解してくれるだろう。そういう訳で説明して来る。何かあったらテレパシーで察知してすぐ来るから呼んでくれ」
「…いや、それ理解してくれるかかなり怪しいと思う…」


そんな訳で実は思った以上に相当アレだったエルフの彼女は世間に適当に僕の手足アレした理由を説明し、仲間にだけは真相を告げた。

当然仲間達は相当引いた。酒好きで世話焼きな僧侶も無骨なドワーフ戦士も殺人鬼に刺されて転生して来た異世界の少年も全員こいつやべえという反応だったが敵に回したく無かったのだろう、ドン引きしつつ表向きは納得した。

そうして僕は世間からは悲劇の英雄として憐れまれ、数週間で特注の優美な義肢は届きすぐに優秀な医師に付けてもらい、確かに言われたように殆どリハビリの必要無くすぐに動けるようになった。


正直ドン引きだったが僕の世話をしながらとても幸せそうな彼女を見ていると、どうしても嫌いになりきれず結局そのまま正式に付き合う事になった。
仲間達は彼女の居ない所でそれとなくこいつヤバすぎるからやめとけと言って来たが、下手に別れると何をされるか分かった物じゃ無いのでそうも行かなかった。

そのままあっという間に数年が過ぎ、引きつつも何だかんだで仲は深まって行き結局式を挙げる事になった。

国民達は心から祝福してくれたが、アレな真相を知っている仲間達はやっぱり相当引いていた。

転生して来た少年は彼女が怖すぎてもう関わりたくないと元の世界に帰って行った。帰り際にヤンデレという概念を彼女に教えるのを忘れていてすいませんと謝られた。


それからまた結構な時が流れたが、僕は確かに全く老けていなかった。

「もう魔王討伐から20年は経ってるのに、確かに全く外見変わって無いなー」
「美貌が長く保てるのは君としても嬉しいだろう。義肢も魔法で普通の外見にも出来るしね」
「…いや、それにしてもやっぱ強制アレは止めて欲しかったけどね。まあもう慣れたし良いか」
「やはり君は優しいな。最後は許してくれると信じていて良かったよ」

「…うん、正直僕も甘すぎるような気がするけど。まあ君も相当アレだけど根は良い奴だろうし、強制アレされてもどうしても嫌いになりきれなかったし」
「ふふ、ありがとう。私も君と長く居れて嬉しいよ。魔王が討伐され配下たちも大半は封印されたり滅んだが、残党はまだ幾らか潜伏しているだろうし封印もあと数十年したら解けてしまうだろう。そうしたら復活した残党達を狩りにまた旅に出よう。その時が楽しみだな」

「うーん、やっぱりかなり引くけど、まあ何だかんだで君と居ると楽しいし良いよ」
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