35 / 58
第3章
33・親友は世話を焼く
しおりを挟むそれから瞬く間に時間は過ぎ……。
クラウス様と約束した三日後は、あっという間にやってきた。
「――ってことで、庭園開放の式典、来週になりそうなんだけど、大丈夫そう? ……レティノアったら!」
セリナの声に、私は慌てて顔を上げた。
城からの連絡事項を伝えに来てくれたセリナと予定を擦り合わせている最中だったのに、ぼんやりしてしまっていたらしい。
「え! あ、ご、ごめんなさい。その日程で大丈夫よ」
返事をしながらも、心ここに在らずなことは自分でもわかっていた。
(……クラウス様と約束した日だって思ったら、どうしても落ち着かないんだもの……)
朝の祈りが終わった頃に礼拝堂で待ち合わせ、ということになっているが、クラウス様はまだ姿を見せない。そうこうしているうちにセリナが来て打ち合わせすることになってしまったのだ。
セリナは私の様子を訝しげに見つめている。
「あんた大丈夫? もしかしてまたクラウス様となんかあった?」
「え!?」
「……え、図星?」
セリナの口から出てきたクラウス様の名前に、過剰に反応してしまった。
思わず大きな声を出してしまい、頬が熱くなる。
これでは正解です、と言っているようなものだ。
「……レティノア~、ちょっと私に話すことあるんじゃな~い?」
(……しまった。これは楽しまれる……)
案の定、セリナは興味津々と瞳を輝かせている。私はため息を吐き出すと、事情を話すことにした。
「へえ!? クラウス様とデート!? しかも今日!?」
私から事情を聞き終えたセリナは、驚いた様子で目を見開いた。
「せ、セリナ、声が大きい……!」
いつクラウス様がやってくるか分からないのだ。
慌ててたしなめるものの、セリナには届いていないようだった。完全に興奮してしまっている。
「何その急展開! 何があったって言うのよ!?」
「こっちが聞きたいわよ!」
クラウス様が何を考えているのかなんて、私の方が知りたいくらいだ。
何故私をデートに誘ってくれたのか、理由をずっと考えてみたがわかるわけもない。
「ってか、あんた、それで行く気!?」
セリナは私の服装をあらためて、さらにぎょっとしていた。
私の服装はというといつも通りだ。
教会でいつも身につけている簡素なシスター服。
「し、仕方ないでしょ、私そんなに服持ってないし……」
かろうじて与えられていたドレスは実家に置きっぱなしだし、最悪処分されているだろう。
新しく服を買いに出かける時間もなく、これしか着るものがなかったのだ。
「せっかくのデートなんでしょ!? せめてもっと可愛くしようよ! ほらそこ座って!」
「えええ……」
私はセリナに腕を引かれるまま、礼拝堂の椅子に座らされた。
セリナはそのまま後ろにまわり、どこからか取り出したくしで私の髪を梳かし始める。
「あんた、元がいいんだから。もっとおしゃれするべきだわ」
さすが城で侍女として働いているだけはある。器用なものだ。
セリナは話しながらも、私の髪を三つ編みにしていく。
「そういえば、クラウス様が言ってる聖女がどっちかわかったの?」
編み込みながら、セリナは何気なく尋ねてきた。
クラウス様を助けたのが、私かミレシアどちらなのかを聞いているのだろう。
私は静かに首を横に振った。
「……ううん、まだ」
「そっか。まだクラウス様の聖女がどっちなのかわかってないのか」
セリナの声は穏やかなものだった。優しい語りかけに、少しずつ心が落ち着いていくのを感じる。
「私、あれから考えたんだけどさ。例えクラウス様の言う聖女がミレシアで、ミレシアのことを大切に思っていたとしても、あんたの魅力で振り向かせちゃえばいいのよ。大丈夫、あんたならできるわ」
(……できるかしら、そんなこと)
私にそこまでの魅力があるかも不安だし、もしミレシアのことを大切に思っているなら、無理に振り向かせるなんて、大切な想いに割り込むような気がして気が引ける。
「ほら完成!」
あれこれ考えている間に、ヘアアレンジは出来上がったようだ。手鏡で後ろを見せてもらうと、三つ編みが編み込まれた可愛らしいハーフアップに仕上がっている。セリナは満足そうに笑っていた。
だが、なにかに気づいたらしく、セリナは突然「あ!」と声を上げた。
「それじゃ私、そろそろ帰るわ! デート、上手くいくといいわね!」
「え? あ、ありがとう。またね」
足早に去っていくセリナを見送る。
その次の瞬間、まるで入れ替わりにとでもいうように、私の上へ影が落ちた。
70
あなたにおすすめの小説
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎる」
その一言で、王太子アルトゥーラから婚約を破棄された令嬢エミーラ。
有能であるがゆえに疎まれ、努力も忠誠も正当に評価されなかった彼女は、
王都を離れ、辺境アンクレイブ公爵領へと向かう。
冷静沈着で冷徹と噂される公爵ゼファーとの関係は、
利害一致による“白い契約結婚”から始まったはずだった。
しかし――
役割を果たし、淡々と成果を積み重ねるエミーラは、
いつしか領政の中枢を支え、領民からも絶大な信頼を得ていく。
一方、
「可愛げ」を求めて彼女を切り捨てた元婚約者と、
癒しだけを与えられた王太子妃候補は、
王宮という現実の中で静かに行き詰まっていき……。
ざまぁは声高に叫ばれない。
復讐も、断罪もない。
あるのは、選ばなかった者が取り残され、
選び続けた者が自然と選ばれていく現実。
これは、
誰かに選ばれることで価値を証明する物語ではない。
自分の居場所を自分で選び、
その先で静かに幸福を掴んだ令嬢の物語。
「完璧すぎる」と捨てられた彼女は、
やがて――
“選ばれ続ける存在”になる。
この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜
氷雨そら
恋愛
婚約相手のいない婚約式。
通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。
ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。
さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。
けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。
(まさかのやり直し……?)
先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。
ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。
小説家になろう様にも投稿しています。
天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!
灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ?
天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?
罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~
上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」
触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。
しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。
「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。
だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。
一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。
伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった
本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である
※※小説家になろうでも連載中※※
数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました
鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。
エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。
小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる