俺の可愛いお嬢さまを離さない

真風月花

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一章

5、暖炉の前で

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 俺は少しぬるくなった甘酒を飲み干した。
 結局、お嬢さんはほんのひと口飲んだだけで、熟睡だ。

 本当に氷の張った池に落っこちた時は、心臓が凍りつくかと思った。
 このお嬢さんは、鈍くさいのに好奇心が旺盛で。ほんまに目ぇが離されへん。

「冨貴子。入りますよ」

 応接間の扉をノックして、奥さまが顔を出した。手には毛布を持っている。

「あら、あらあら。どうしましょう。眠ってしまったのね」
「どうやら酒粕の甘酒だったようです」

「あらまー」と、奥さまは額に手を当てて天井を仰いだ。
 
「静生さんにも迷惑を掛けますね。ソファーに寝かせましょうか。冨貴子を運んでくださる?」
「いえ、このままでいいですよ」
「でも、重いでしょ? 足が痺れますよ」

 重い? うーん、めちゃくちゃ軽いけどな。
 お嬢さんはすぐに「静生、静生」と俺の名を呼びながら付きまとってくるが。こんなにも密着することは、あまりない。
 
 庭の柿の木やら、柚子を取りたいからと抱っこをせがまれることも多いが。
 ここまで無防備な状態やないしな。

「本当に冨貴子は、静生さんによく懐いていること」
「有り難いことに、もう泣かれませんよ」
「ええ、そうね」

 ふふ、と奥さまは俺とお嬢さん二人を包み込むように、毛布を掛けてくださった。
 ほんまに愛されて大事にされて、伸び伸びと育ったお嬢さんだ。

「もしこの子に縁談がなければ。静生さんにもらっていただきたいわ」

 突然の言葉に、俺は息を呑んだ。
 応接間は沈黙に包まれた。聞こえるのは、薪が燃える音とお嬢さんの静かな寝息だけだ。

「奥さま、冗談はよしてください。俺は、ただの使用人です」
「あら、主人がわざわざ呼び寄せた遠縁の親戚でしょ。意味もなく、あなたに除隊させたとは思えないわ」

 まぁ、そうなのだが。
 奥さまは何も知らされていないから、呑気なことを仰る。

 俺は、冨貴子お嬢さんの護衛であり御守りであり、そして見届け人だ。
 最後の仕事があるかどうか、それは誰にも分からなん。
 見届けることがなければええのに、と常に頭の片隅で考えながら、俺はお嬢さんとの日々を過ごしている。
 
 お嬢さんが、いつまでも子どもでおってくれたらええのに。穏やかな日々が続いていったらええのに。

◇◇◇

 背中に毛布を掛けられた感触があり、わたくしの眠りは浅くなりました。
 完全には目覚めていないけれど。まるで温かなお湯の中をたゆたうような感覚。かすかにお母さまの声が聞こえてくるの。

 わたくしに縁談がなければ、静生にもらってほしい、って。
 それって、静生のお嫁さんになるってこと?
 
 うふふ、と眠っているのに笑みがこぼれます。
 素敵、わたくしすぐに大人になるから。だから待っていてね、静生。
 
 扉が閉まる音がして、再び頭を撫でられる感触がありました。

 ね、静生もわたくしと結婚したい?
 わたくしね、静生以外の男性はいやよ。
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