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一章
4、わたくしの静生【2】
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「そんなに怖がらなくていい。冨貴子、彼は若月静生くん。うちの遠い親戚だ。冬になる前に、冨貴子の護衛……というかお目付け役になってもらおうと思っているんだ」
そんな風にお父さまに説明されても、静生……さんに会うのは初めてですし。
しかも、怖いんです。
目が鋭くて、背も見上げるほどに高くて体もがっしりとしていて。
軍人さんって、すぐに怒鳴ったり殴ったりするのよね。
ふるふると震えながら、わたくしは今にも泣きそうになっていたと思います。
だって、想像したの。軍服を着た静生が、わたくしの歩くのが遅いと叱りつけて、道を間違えたと怒鳴りつけて、石につまずいて転んだら、きっと「歯ぁ食いしばれ」とか言って殴られるんだわ。
「いや……いやよ」
わたくしは溢れる涙を止めることができずに、お父さまのズボンの裾を掴んだまま、床にしゃがみ込みました。
多分、お父さまと静生は困ったように顔を見合わせていたことでしょう。
「えーと、冨貴子。そんなに怖がることはないんじゃないかな。それにうちの仕事をしてもらうから、もう軍を辞めることになるし」
「はい。自分は来月には除隊し、民間人となります」
お父さまの落ち着いた声と違い、応接間に響くあまりにも張りのある静生の声に、わたくしは肩をすくめました。
恐ろしい兵隊さんじゃないの?
わたくしは顔を上げて、滲む視界の中に背筋を伸ばして立つ静生を見つめました。
うう、やっぱり怖いです。普通の人と立ち方が違うんですもの。「びしっ」とか「ぴしっ」て音がしそうなんだもの。
「自分……いえ、俺のことが怖いですか? お嬢さん」
思わずうなずいて、わたくしは「は、これは失礼にあたるのでは?」とすぐに、首を振りました。
「……素直なお嬢さんやな」
軍帽を取った静生が、不思議なことに微笑んだんです。さっきまですごく怖かったその顔が、ふわりと優しく。
しかも言葉遣いまで変化して。
「その足、どうしはったんですか?」
静生は、着物の裾から見えるわたくしの足に目を向けました。
足袋と着物の間の右足に、包帯が巻いてあるんです。
「えっと、その」
「焦らんでええですよ。ゆっくり教えてください。待ってますから」
まだお父さまの後ろにいるわたくしに近寄って、静生が床に片膝をつきました。
わたくしと目の高さを合わせるように。
「下校中に馬車にぶつかりそうになって。それで、その……危ないからよけたら、転んで。それで足をひねって。わたくしは、ちゃんと道の端を歩いていたの。その後、帰ろうとしたら……ちょっと歩いただけでもいたくて」
たどたどく説明するのに、かなりの時間を要しました。でも静生は、じっとわたくしの話を聞いてくれていたの。
「ああ、それは怖かったし、痛かったですね」
「え?」
馬鹿にしないの? だって尋常小學校の男子は「とろくさー」って馬鹿にしたのに。
「よう家までお一人で帰ってきましたね。お嬢さんは強い子ぉですね」
褒められた? 褒めてくれたの?
わたくしは、自分でも気づかぬ内に目を輝かせて満面の笑みを浮かべていたみたい。
これは後にお父さまから教えられたから、知ったのだけれど。
――あの時の冨貴子は、静生君に褒められて、まるで尻尾をパタパタと左右に振る子犬みたいだった。って。
こうして静生は、わたくしの護衛と御守りを兼任することになったの。
そんな風にお父さまに説明されても、静生……さんに会うのは初めてですし。
しかも、怖いんです。
目が鋭くて、背も見上げるほどに高くて体もがっしりとしていて。
軍人さんって、すぐに怒鳴ったり殴ったりするのよね。
ふるふると震えながら、わたくしは今にも泣きそうになっていたと思います。
だって、想像したの。軍服を着た静生が、わたくしの歩くのが遅いと叱りつけて、道を間違えたと怒鳴りつけて、石につまずいて転んだら、きっと「歯ぁ食いしばれ」とか言って殴られるんだわ。
「いや……いやよ」
わたくしは溢れる涙を止めることができずに、お父さまのズボンの裾を掴んだまま、床にしゃがみ込みました。
多分、お父さまと静生は困ったように顔を見合わせていたことでしょう。
「えーと、冨貴子。そんなに怖がることはないんじゃないかな。それにうちの仕事をしてもらうから、もう軍を辞めることになるし」
「はい。自分は来月には除隊し、民間人となります」
お父さまの落ち着いた声と違い、応接間に響くあまりにも張りのある静生の声に、わたくしは肩をすくめました。
恐ろしい兵隊さんじゃないの?
わたくしは顔を上げて、滲む視界の中に背筋を伸ばして立つ静生を見つめました。
うう、やっぱり怖いです。普通の人と立ち方が違うんですもの。「びしっ」とか「ぴしっ」て音がしそうなんだもの。
「自分……いえ、俺のことが怖いですか? お嬢さん」
思わずうなずいて、わたくしは「は、これは失礼にあたるのでは?」とすぐに、首を振りました。
「……素直なお嬢さんやな」
軍帽を取った静生が、不思議なことに微笑んだんです。さっきまですごく怖かったその顔が、ふわりと優しく。
しかも言葉遣いまで変化して。
「その足、どうしはったんですか?」
静生は、着物の裾から見えるわたくしの足に目を向けました。
足袋と着物の間の右足に、包帯が巻いてあるんです。
「えっと、その」
「焦らんでええですよ。ゆっくり教えてください。待ってますから」
まだお父さまの後ろにいるわたくしに近寄って、静生が床に片膝をつきました。
わたくしと目の高さを合わせるように。
「下校中に馬車にぶつかりそうになって。それで、その……危ないからよけたら、転んで。それで足をひねって。わたくしは、ちゃんと道の端を歩いていたの。その後、帰ろうとしたら……ちょっと歩いただけでもいたくて」
たどたどく説明するのに、かなりの時間を要しました。でも静生は、じっとわたくしの話を聞いてくれていたの。
「ああ、それは怖かったし、痛かったですね」
「え?」
馬鹿にしないの? だって尋常小學校の男子は「とろくさー」って馬鹿にしたのに。
「よう家までお一人で帰ってきましたね。お嬢さんは強い子ぉですね」
褒められた? 褒めてくれたの?
わたくしは、自分でも気づかぬ内に目を輝かせて満面の笑みを浮かべていたみたい。
これは後にお父さまから教えられたから、知ったのだけれど。
――あの時の冨貴子は、静生君に褒められて、まるで尻尾をパタパタと左右に振る子犬みたいだった。って。
こうして静生は、わたくしの護衛と御守りを兼任することになったの。
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