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二章
11、二人の夜【1】
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夜は本当に物音がしなくて。それに小屋の外は闇があまりにも深くて、わたくしは静生に手を繋いで寝てと我儘を言いました。
薄く湿った布団を二枚並べ、二人揃って横になるなんて初めて。
「お嬢さん、寒ないですか?」
「平気よ。だって静生の手は暖かいも……いえ」
駄目、正直に答えちゃ。
わたくしはふるっと身震いをする真似をして、静生を見つめました。
蝋燭の明かりだけではとても薄暗いのだけれど。でも暗さに慣れた目には、静生の表情はよく見えます。
「寒いわ、そっちのお布団に入ってもいい?」
「え? いま暖かいと仰ったやないですか」
もうっ、この朴念仁。でも、わたくしは一歩も引かなくてよ。だって失恋してもいいんだもの。どのみち結ばれないって知っているんだもの。
不思議ね。もう命が残り少ないと分かると、こんなにも大胆になれるだなんて。
わたくしは寝間着の乱れを直して、彼が拒否しようがお構いなしに、同じ布団に入りました。
「ふふ、やっぱり暖かいわ」
「それは何よりです」
さすがに同じ枕は狭いので、わたくしは慣れぬ蕎麦殻の枕を自分の布団から引き寄せて、静生のと並べました。
立っても座っても、或いは抱っこをされても彼と目の高さが違うのに。
こうして一緒に横になると、同じ位置で目が見えるのね。
「好きよ。静生」
「ほんまに困りましたね」
「静生もわたくしのことを好きだと言ったわ。あれは本音でしょう?」
意地悪く念を押すと、静生が再びわたくしと手を繋いでくれました。指と指を絡めて、さらにしっかりと手を組みます。
静生の手はがっしりとしていて、節くれだっていて。でも、とても優しくわたくしを包み込んでくれるの。
「夜は駄目ですね。しかもお嬢さまと二人きりで同じ布団やなんて、俺には酷です。ええ、酷すぎますね」
わたくしは枕から頭をずらして、静生の頬にくちづけました。
いっそこのまま抱いてくれたらいいのに。
「ねぇ、生贄の儀の後、わたくしのことを忘れてね」
「忘れませんよ」
強情ね。あなたはいずれ花嫁を迎えるのよ。勤め先の娘のことなんて、すぐに忘れた方がいいに決まっているわ。
わたくしはね、好きと言ってもらえて、その言葉を胸に旅立つのよ。
「俺は絶対に、お嬢さんのことは忘れたりしません。どれだけお嬢さんが可愛いか、我儘すらも愛らしくて、そのすべてを俺のものにしたいと思うとうけど」
「……静生」
「俺の生涯はあと少しです。短い人生やけど、それでもお嬢さんに出会えて、懐いてもらったことも好いてもらったことも、全部が宝物なんです」
どういうことなの?
彼の静かな、けれど決意を秘めた言葉に、わたくしは頭の中が混乱しました。
だって、あなたは長生きするのでしょ?
わたくしの後を追うなんてこと、しないわよね? たとえ好きだと言ってくれても、心が通じ合っても、それは今終わりにしていいの。
「お願い。あなたは幸せになって」
静生の首に腕をまわして、ぎゅっとしがみつくと、彼もまた抱き返してくれました。
雨で湿った匂いと、静生の匂い。どちらも胸いっぱいに吸って、最期の最期まで彼の温もりも匂いも、すべて覚えていたいから。
「あなたは、幸せになってくれなきゃ嫌」
「お嬢さん無しで、どうやって幸せになれと言わはるんですか」
薄く湿った布団を二枚並べ、二人揃って横になるなんて初めて。
「お嬢さん、寒ないですか?」
「平気よ。だって静生の手は暖かいも……いえ」
駄目、正直に答えちゃ。
わたくしはふるっと身震いをする真似をして、静生を見つめました。
蝋燭の明かりだけではとても薄暗いのだけれど。でも暗さに慣れた目には、静生の表情はよく見えます。
「寒いわ、そっちのお布団に入ってもいい?」
「え? いま暖かいと仰ったやないですか」
もうっ、この朴念仁。でも、わたくしは一歩も引かなくてよ。だって失恋してもいいんだもの。どのみち結ばれないって知っているんだもの。
不思議ね。もう命が残り少ないと分かると、こんなにも大胆になれるだなんて。
わたくしは寝間着の乱れを直して、彼が拒否しようがお構いなしに、同じ布団に入りました。
「ふふ、やっぱり暖かいわ」
「それは何よりです」
さすがに同じ枕は狭いので、わたくしは慣れぬ蕎麦殻の枕を自分の布団から引き寄せて、静生のと並べました。
立っても座っても、或いは抱っこをされても彼と目の高さが違うのに。
こうして一緒に横になると、同じ位置で目が見えるのね。
「好きよ。静生」
「ほんまに困りましたね」
「静生もわたくしのことを好きだと言ったわ。あれは本音でしょう?」
意地悪く念を押すと、静生が再びわたくしと手を繋いでくれました。指と指を絡めて、さらにしっかりと手を組みます。
静生の手はがっしりとしていて、節くれだっていて。でも、とても優しくわたくしを包み込んでくれるの。
「夜は駄目ですね。しかもお嬢さまと二人きりで同じ布団やなんて、俺には酷です。ええ、酷すぎますね」
わたくしは枕から頭をずらして、静生の頬にくちづけました。
いっそこのまま抱いてくれたらいいのに。
「ねぇ、生贄の儀の後、わたくしのことを忘れてね」
「忘れませんよ」
強情ね。あなたはいずれ花嫁を迎えるのよ。勤め先の娘のことなんて、すぐに忘れた方がいいに決まっているわ。
わたくしはね、好きと言ってもらえて、その言葉を胸に旅立つのよ。
「俺は絶対に、お嬢さんのことは忘れたりしません。どれだけお嬢さんが可愛いか、我儘すらも愛らしくて、そのすべてを俺のものにしたいと思うとうけど」
「……静生」
「俺の生涯はあと少しです。短い人生やけど、それでもお嬢さんに出会えて、懐いてもらったことも好いてもらったことも、全部が宝物なんです」
どういうことなの?
彼の静かな、けれど決意を秘めた言葉に、わたくしは頭の中が混乱しました。
だって、あなたは長生きするのでしょ?
わたくしの後を追うなんてこと、しないわよね? たとえ好きだと言ってくれても、心が通じ合っても、それは今終わりにしていいの。
「お願い。あなたは幸せになって」
静生の首に腕をまわして、ぎゅっとしがみつくと、彼もまた抱き返してくれました。
雨で湿った匂いと、静生の匂い。どちらも胸いっぱいに吸って、最期の最期まで彼の温もりも匂いも、すべて覚えていたいから。
「あなたは、幸せになってくれなきゃ嫌」
「お嬢さん無しで、どうやって幸せになれと言わはるんですか」
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