俺の可愛いお嬢さまを離さない

真風月花

文字の大きさ
27 / 31
二章

22、大好きよ【1】

しおりを挟む
 山藤の家に着いてから、俺は自分の部屋で床について大半の時間を過ごした。
 女學校もあるだろうに、お嬢さんは常に俺の傍についていらっしゃる。
 今は夜で、部屋では角燈に灯された明かりがちらちらと天井や壁に光と影を落としている。

「お嬢さん、結局今日も欠席しはったんですね」
「生贄と決まった時点で、自主退学みたいなものですもの。また勉強したければ、編入するわ」

 困ったことに、お嬢さんは甲斐甲斐しく俺の世話をする。
 なので、随分と回復が速いのだが。

「やっぱり静生は元軍人ですもの。鍛えているからなのね」と言われてしまう。
「いや、お嬢さんのおかげです」となかなか口にできへんのは、やはり気恥ずかしさが勝つからやろな。

 だが、気持ちは言葉にしないと伝わらない。
 自分の人生は、お嬢さんが生贄に選ばれたその時に、身代わりとしてなげうつものとして覚悟していた。
 だから、今の……これからの人生は、まるでおまけをもらったかのようだ。

 「誰から」と問われれば、普通は「神さま」と答えるのかもしれないが。
 俺の場合は、冨貴子お嬢さんから頂いた人生だ。

 ベッドに横たわって、天井を眺めていると光の明滅がまるで水底から水面を見上げたように思える。
 
 ふいに視界が陰ったと思うと、お嬢さんの顔が近づいてきた。
 ふわ、っと春風が撫でるかのように、ひたいに接吻される。

「早く良くなるようにって、おまじないよ」

 まったく子どもでもあるまいに。困ったお嬢さんだ。

「冨貴子さん。おいで」

 俺が両手を広げると、仄明るい程度の室内でも、お嬢さんの顔が真っ赤に染まるのが分かった。

「でも、怪我が……」
「縫合してあるし、傷口ももう塞がってます。少々動いても問題ありませんよ」

 少々? まったくどの口が言うんや。内心で呆れながらも、お嬢さんに気取られてはいけないから、表情は変えない。

「けど、困ったことにお嬢さん今日の服は、釦が多いから。俺では外すのに難儀しますね」
「え? それは、どういう」
「自分で脱いでください」

 思いもしない言葉だったのだろう。お嬢さんは、しばらく瞬きするんも忘れとった。

「あの、静生?」
「お嬢さんの自分の意思で、俺に抱かれて欲しいんです」

 そう、雰囲気に流されるのではなく。常に俺にまっすぐに飛び込んできてくれたあの頃のままに。今も俺だけを貴女自身の意思で選んでほしい。

 室内には沈黙が降りた。
 さすがに厳しい女學校に通うお嬢さんや。それを要求するんは酷かな、と思た時。

 お嬢さんは立ち上がって、胸元の釦に手を掛けた。
 くるみ釦というんやろか。服の布と同じ生地で包まれた小さな釦を、白くたおやかな指が、一つずつ外していく。

 けど、その指は小さく震え、なかなか釦を外すことができずにいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。 俺と結婚、しよ?」 兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。 昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。 それから猪狩の猛追撃が!? 相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。 でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。 そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。 愛川雛乃 あいかわひなの 26 ごく普通の地方銀行員 某着せ替え人形のような見た目で可愛い おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み 真面目で努力家なのに、 なぜかよくない噂を立てられる苦労人 × 岡藤猪狩 おかふじいかり 36 警察官でSIT所属のエリート 泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長 でも、雛乃には……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...