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二章
22、大好きよ【1】
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山藤の家に着いてから、俺は自分の部屋で床について大半の時間を過ごした。
女學校もあるだろうに、お嬢さんは常に俺の傍についていらっしゃる。
今は夜で、部屋では角燈に灯された明かりがちらちらと天井や壁に光と影を落としている。
「お嬢さん、結局今日も欠席しはったんですね」
「生贄と決まった時点で、自主退学みたいなものですもの。また勉強したければ、編入するわ」
困ったことに、お嬢さんは甲斐甲斐しく俺の世話をする。
なので、随分と回復が速いのだが。
「やっぱり静生は元軍人ですもの。鍛えているからなのね」と言われてしまう。
「いや、お嬢さんのおかげです」となかなか口にできへんのは、やはり気恥ずかしさが勝つからやろな。
だが、気持ちは言葉にしないと伝わらない。
自分の人生は、お嬢さんが生贄に選ばれたその時に、身代わりとして擲つものとして覚悟していた。
だから、今の……これからの人生は、まるでおまけをもらったかのようだ。
「誰から」と問われれば、普通は「神さま」と答えるのかもしれないが。
俺の場合は、冨貴子お嬢さんから頂いた人生だ。
ベッドに横たわって、天井を眺めていると光の明滅がまるで水底から水面を見上げたように思える。
ふいに視界が陰ったと思うと、お嬢さんの顔が近づいてきた。
ふわ、っと春風が撫でるかのように、ひたいに接吻される。
「早く良くなるようにって、おまじないよ」
まったく子どもでもあるまいに。困ったお嬢さんだ。
「冨貴子さん。おいで」
俺が両手を広げると、仄明るい程度の室内でも、お嬢さんの顔が真っ赤に染まるのが分かった。
「でも、怪我が……」
「縫合してあるし、傷口ももう塞がってます。少々動いても問題ありませんよ」
少々? まったくどの口が言うんや。内心で呆れながらも、お嬢さんに気取られてはいけないから、表情は変えない。
「けど、困ったことにお嬢さん今日の服は、釦が多いから。俺では外すのに難儀しますね」
「え? それは、どういう」
「自分で脱いでください」
思いもしない言葉だったのだろう。お嬢さんは、しばらく瞬きするんも忘れとった。
「あの、静生?」
「お嬢さんの自分の意思で、俺に抱かれて欲しいんです」
そう、雰囲気に流されるのではなく。常に俺にまっすぐに飛び込んできてくれたあの頃のままに。今も俺だけを貴女自身の意思で選んでほしい。
室内には沈黙が降りた。
さすがに厳しい女學校に通うお嬢さんや。それを要求するんは酷かな、と思た時。
お嬢さんは立ち上がって、胸元の釦に手を掛けた。
くるみ釦というんやろか。服の布と同じ生地で包まれた小さな釦を、白くたおやかな指が、一つずつ外していく。
けど、その指は小さく震え、なかなか釦を外すことができずにいた。
女學校もあるだろうに、お嬢さんは常に俺の傍についていらっしゃる。
今は夜で、部屋では角燈に灯された明かりがちらちらと天井や壁に光と影を落としている。
「お嬢さん、結局今日も欠席しはったんですね」
「生贄と決まった時点で、自主退学みたいなものですもの。また勉強したければ、編入するわ」
困ったことに、お嬢さんは甲斐甲斐しく俺の世話をする。
なので、随分と回復が速いのだが。
「やっぱり静生は元軍人ですもの。鍛えているからなのね」と言われてしまう。
「いや、お嬢さんのおかげです」となかなか口にできへんのは、やはり気恥ずかしさが勝つからやろな。
だが、気持ちは言葉にしないと伝わらない。
自分の人生は、お嬢さんが生贄に選ばれたその時に、身代わりとして擲つものとして覚悟していた。
だから、今の……これからの人生は、まるでおまけをもらったかのようだ。
「誰から」と問われれば、普通は「神さま」と答えるのかもしれないが。
俺の場合は、冨貴子お嬢さんから頂いた人生だ。
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ふいに視界が陰ったと思うと、お嬢さんの顔が近づいてきた。
ふわ、っと春風が撫でるかのように、ひたいに接吻される。
「早く良くなるようにって、おまじないよ」
まったく子どもでもあるまいに。困ったお嬢さんだ。
「冨貴子さん。おいで」
俺が両手を広げると、仄明るい程度の室内でも、お嬢さんの顔が真っ赤に染まるのが分かった。
「でも、怪我が……」
「縫合してあるし、傷口ももう塞がってます。少々動いても問題ありませんよ」
少々? まったくどの口が言うんや。内心で呆れながらも、お嬢さんに気取られてはいけないから、表情は変えない。
「けど、困ったことにお嬢さん今日の服は、釦が多いから。俺では外すのに難儀しますね」
「え? それは、どういう」
「自分で脱いでください」
思いもしない言葉だったのだろう。お嬢さんは、しばらく瞬きするんも忘れとった。
「あの、静生?」
「お嬢さんの自分の意思で、俺に抱かれて欲しいんです」
そう、雰囲気に流されるのではなく。常に俺にまっすぐに飛び込んできてくれたあの頃のままに。今も俺だけを貴女自身の意思で選んでほしい。
室内には沈黙が降りた。
さすがに厳しい女學校に通うお嬢さんや。それを要求するんは酷かな、と思た時。
お嬢さんは立ち上がって、胸元の釦に手を掛けた。
くるみ釦というんやろか。服の布と同じ生地で包まれた小さな釦を、白くたおやかな指が、一つずつ外していく。
けど、その指は小さく震え、なかなか釦を外すことができずにいた。
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