俺の可愛いお嬢さまを離さない

真風月花

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二章

26、わたくしの大好きな静生

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 今が夜なのか、夜はもう明けたのか、それすらも分かりません。
 わたくしの意識は朦朧として、何度も極めさせられ、そして静生のすべてを受け入れていました。

 じっとりと汗ばんだてのひら。互いの肌の境界線が分からなくなるほどに、抱かれ続けました。

「好きよ、静生」
「ええ、俺もです。冨貴子さん」

 瞼が重くて、唇がうまく動かなくて。それでも「すき」という言葉を繰り返すと、静生が同意して、抱きしめてくれるの。
 それが嬉しくて、わたしは何度も何度も同じ言葉を繰り返しました。

◇◇◇

 遠くから聞こえる教会の鐘の音。ああ、もう朝なのか。

 俺の腕の中で、冨貴子お嬢さんが眠っている。
 俺が散らした赤い花びらのような痣を、全身にまとわせて。美しく白い肌と、のびやかな肢体を惜しげもなくさらしている。

「本当に大人になられましたね」

 上体を屈ませて、愛しいお嬢さんの頬にくちづける。お嬢さんはもう眠りに落ちているはずなのに。敏感になりすぎた体にはそれだけでも刺激になるのだろうか。
 彼女は小さく身を震わせた。

「大丈夫。もうゆっくり眠ってください」

 いったい何時間、彼女を抱いていたのだろうか。何度彼女を穿ったのだろうか。
 数えてはいないから、分からないが。

 だが、絶頂を極めた彼女をまた抱いて……それを繰り返したから、最後には彼女は達した状態のままになってしまった。
 しなやかな足が敷布をたぐり寄せ、のけぞらせた背や細い首は、陸に打ち上げられた白い魚を思わせた。
 瞳を潤ませ、上気した頬で苦し気に喘ぐその姿を、美しいと言ったら、きっとお嬢さんは怒ってしまうだろう。

 だから言わない。
 あなたの乱れる姿を見ていいのは、俺だけだ。お嬢さん自身にも見せてはあげない。
 
 カーテンの隙間から、東の空の藍と茜色の境目が垣間見える。

 もし今、彼女が目を覚ましたら「ねぇ、見て。静生。朝焼けがきれいねぇ」と、子どもの頃のように教えてくれるのだろうか。

 この人の為に軍を辞め、この人の為に生きてきた。
 あなたに何一つ害が及ばないように、お守りするために。
 あなたが脅えないように、硬い口調を封印して。

 それだけが自分の人生で、愛らしく清らかな幼子であったあなたを自分のものにするなど、考えるだけでも禁忌だった。

 あなたの成長を見守り続けるだけでよかった……。そんな建前と綺麗事だけで生きていくつもりだったのに。
 
「俺はどうにも強欲みたいです」

 小さく囁く声が聞こえたのかどうか分からないが。冨貴子お嬢さんが、俺に向かって手を差し伸べてきた。
 微かに動く、その柔らかな唇。

「ね、静生。わたしを羽二重餅と間違えて食べないでね?」

 吐息のように洩れる言葉は、確かにそう言っていた。
 それは彼女が幼い頃に、俺に向かって言った言葉だった。
 大人になった彼女が、今もそれを覚えていることが可笑しいような……なのに泣きたいような気分になった。

 あなたが俺との日々をずっと覚えてくださっているように、俺もあなたと過ごした日々と、言葉はどれも記憶しています。

 でも、済みません、お嬢さん。
「食べない」という、そのお約束だけはできません。今も、これからも。

―――――

    完
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