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二章
5、雨降り
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朝になり、森に囲まれた別荘の窓からは、おぼろげな光が差し込んでいました。
旦那さまの腕の中で、わたくしはぱっちりと目を覚ましました。ええ、とてもよく眠ったようで、気分も爽快です。
不思議ですね。最初は旦那さまが、わたくしのベッドに入っていらしたのかと思ったのです。
もう少しで「ご自分のベッドでお休みにならないといけませんよ」と、言いそうになりましたけど。
でも、わたくしのベッドは壁際、旦那さまのベッドは窓に近い方です。
ですから、わたくしが空間を飛び越えてしまったのかしらとも考えたのですけど。
もしかしてですけど、寝相が悪いのかしら。
いいえ、寝相が悪いのはエリスです。だって家ではよく蚊帳に絡まっていますもの。
鳥のさえずりがよく聞こえますが、今朝は賑やかな鳥の声に混じって、かろかろと軽い蛙の声も聞こえます。
窓の外は霧が立ち込めているのでしょう。乳白色にぼんやりとかすんでいます。
「やぁ、おはよう」
旦那さまが、至近距離から覗きこみました。
「寝づらくなかったかい?」
「は、はい。よく眠れました」
「それは何より」と旦那さまは柔らかく微笑みました。
「俺も熟睡できたよ」
「でも、狭くありませんでしたか? せっかくベッドが二つあるのに、旦那さまの方にわたくしもエリスも集まってしまっているのですから」
「問題ないね。狭いくらいがちょうどいい」
そうなのでしょうか。旦那さまが気になさらないのなら、よろしいんですけど。
「今日は笹を取りに行く予定なんだ。翠子さんもついておいで」
「笹ですか?」
「明日が七夕だからね」
そうでした、忘れていました。旦那さまやわたくしが暮らす街は、旧暦で七夕の行事をするのです。新暦では七夕はまだ梅雨の時期。ええ、京都の祇園さんの先祭の頃に、梅雨明けするのですから、七月七日は梅雨真っ盛りです。
牽牛織女が逢引きできるはずもありません。
「どこに取りに行くんですか?」
「湖の対岸だ。ボートを借りて、漕いでいくんだ。翠子さんも漕いでみるかい?」
「いいんですか?」
「もちろんだ」
まぁ、なんて素敵なんでしょう。ボートなんて乗ったこともなければ、漕いだことも勿論ありません。なのにその両方が一度にできるなんて。
旦那さまと一緒だと初めてのことがたくさんです。
「では、用意をしますね」
がばっとベッドから身を起こすと、旦那さまに頭を押さえつけられました。突然のことに、うつぶせの状態でベッドに倒れこみます。
「あの……苦しいんですけど」
「済まない。いや、まだ早朝だからな。休んでいなさい。あなたが早く起きすぎると、銀司やお清も早起きしないといけないだろう?」
「は、はい」
確かにそうですね、勇み足でした。わたくしが浮かれてお二人の生活時間を乱してはいけません。お清さんは、お家のように通いではないのですから。
わたくしを腕の中に閉じ込めたまま、旦那さまは瞼を閉じていらっしゃいます。
え、二度寝ですか? 部屋を出ずに、今日の計画を立てるくらいはいいでしょうに。
見ればエリスも、わたくしの傍で丸くなっています。
側卓に置いてある時計を見ると、まだ五時すぎでした。
起きたいのに起きることのできない状態というのは、なかなかに苦しいです。せっかく気持ちのいい朝ですのに。ああ、でも旦那さまとエリスの温もりが心地よいです。
別荘の朝はひんやりしているので、温かくて……エリスが柔らかくて、旦那さまのたくましい腕に抱きしめられて……。
しだいに瞼が重くなり、旦那さまの寝顔が朧にかすんでいきました。
ぱたぱたと何かを叩く軽い音で、わたくしは目を覚ましました。
鳥のさえずりはもう聞こえません。代わりに蛙の鳴く声がします。
「大変。雨です」
わたくしは跳び起きました。
旦那さまの腕の中で、わたくしはぱっちりと目を覚ましました。ええ、とてもよく眠ったようで、気分も爽快です。
不思議ですね。最初は旦那さまが、わたくしのベッドに入っていらしたのかと思ったのです。
もう少しで「ご自分のベッドでお休みにならないといけませんよ」と、言いそうになりましたけど。
でも、わたくしのベッドは壁際、旦那さまのベッドは窓に近い方です。
ですから、わたくしが空間を飛び越えてしまったのかしらとも考えたのですけど。
もしかしてですけど、寝相が悪いのかしら。
いいえ、寝相が悪いのはエリスです。だって家ではよく蚊帳に絡まっていますもの。
鳥のさえずりがよく聞こえますが、今朝は賑やかな鳥の声に混じって、かろかろと軽い蛙の声も聞こえます。
窓の外は霧が立ち込めているのでしょう。乳白色にぼんやりとかすんでいます。
「やぁ、おはよう」
旦那さまが、至近距離から覗きこみました。
「寝づらくなかったかい?」
「は、はい。よく眠れました」
「それは何より」と旦那さまは柔らかく微笑みました。
「俺も熟睡できたよ」
「でも、狭くありませんでしたか? せっかくベッドが二つあるのに、旦那さまの方にわたくしもエリスも集まってしまっているのですから」
「問題ないね。狭いくらいがちょうどいい」
そうなのでしょうか。旦那さまが気になさらないのなら、よろしいんですけど。
「今日は笹を取りに行く予定なんだ。翠子さんもついておいで」
「笹ですか?」
「明日が七夕だからね」
そうでした、忘れていました。旦那さまやわたくしが暮らす街は、旧暦で七夕の行事をするのです。新暦では七夕はまだ梅雨の時期。ええ、京都の祇園さんの先祭の頃に、梅雨明けするのですから、七月七日は梅雨真っ盛りです。
牽牛織女が逢引きできるはずもありません。
「どこに取りに行くんですか?」
「湖の対岸だ。ボートを借りて、漕いでいくんだ。翠子さんも漕いでみるかい?」
「いいんですか?」
「もちろんだ」
まぁ、なんて素敵なんでしょう。ボートなんて乗ったこともなければ、漕いだことも勿論ありません。なのにその両方が一度にできるなんて。
旦那さまと一緒だと初めてのことがたくさんです。
「では、用意をしますね」
がばっとベッドから身を起こすと、旦那さまに頭を押さえつけられました。突然のことに、うつぶせの状態でベッドに倒れこみます。
「あの……苦しいんですけど」
「済まない。いや、まだ早朝だからな。休んでいなさい。あなたが早く起きすぎると、銀司やお清も早起きしないといけないだろう?」
「は、はい」
確かにそうですね、勇み足でした。わたくしが浮かれてお二人の生活時間を乱してはいけません。お清さんは、お家のように通いではないのですから。
わたくしを腕の中に閉じ込めたまま、旦那さまは瞼を閉じていらっしゃいます。
え、二度寝ですか? 部屋を出ずに、今日の計画を立てるくらいはいいでしょうに。
見ればエリスも、わたくしの傍で丸くなっています。
側卓に置いてある時計を見ると、まだ五時すぎでした。
起きたいのに起きることのできない状態というのは、なかなかに苦しいです。せっかく気持ちのいい朝ですのに。ああ、でも旦那さまとエリスの温もりが心地よいです。
別荘の朝はひんやりしているので、温かくて……エリスが柔らかくて、旦那さまのたくましい腕に抱きしめられて……。
しだいに瞼が重くなり、旦那さまの寝顔が朧にかすんでいきました。
ぱたぱたと何かを叩く軽い音で、わたくしは目を覚ましました。
鳥のさえずりはもう聞こえません。代わりに蛙の鳴く声がします。
「大変。雨です」
わたくしは跳び起きました。
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