【第ニ部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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二章

11、妬けてしまう ※文子視点

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「いやー、ここまで運転するんは、なかなか遠かったわ」

 琥太郎さんは車のエンジンをかけながら、高瀬先生とお話ししている。

「別に自分で運転する必要もなかったんじゃないか? 琥太兄、普段は人任せだろうが」
「たまにはええもんやで。邪魔が入らんし」
「ああ、そういう……」

 艶やかに磨き上げられた車の前で、高瀬先生が含み笑いをした。

「なんやねん。言いたいことあったら、ちゃんと言えばええやろ」
「んー。べつにー」
「うっわ、腹立つ。欧之丞、最近生意気やで」

 琥太郎さんが、先生の肩をバシバシと叩いている。先生は「痛いって、琥太兄」と苦笑しつつも楽しそう。
 
 わたしは道中の琥太郎さんを思い出していた。
 やっぱり旧知の仲である先生と、さほど親しくもないわたしとでは態度が違うのは当たり前だけど。
 なぜかしら。それを少し寂しいなんて思うのは。

「文子さん。どうしたの? 車に酔ったの?」
「ううん。何でもないのよ」

 問いかけてくる翠子さんに答えたけれど、やっぱり平気ってわけじゃないのよね。
 だから、わたしは翠子さんの服の袖を掴んだの。

「えっとね。その、琥太郎さんと先生って仲がいいわよね」

 翠子さんは一瞬、目を見開いたけど。すぐに「ええ」と微笑んだ。

「お二人は幼馴染みですからね。ちょっと妬けちゃいますね」
「妬ける? 翠子さんが?」

 思わず驚いた声を上げてしまったわ。
 だって、高瀬先生は人に対して興味がないのに。翠子さんに対してだけは、ありとあらゆる情熱を捧げているじゃない。
 
 一緒に暮らしているのに、夏休みで授業がなくて寂しいからと、昼休みにお裁縫室にまでやって来る人よ。
 いったい一日の内の何割を、翠子さんと一緒に過ごしたいのよ。
 
 あまり考えたことはなかったけど。きっと同じ部屋で、隣同士に布団を敷いて寝てるわよね。
 わたしは、指折り数えていったわ。
 そうね、夏休みの間なら多分十八時間くらいは、一緒に過ごしているんじゃないかしら。
 
 頭の中でそろばんを弾こうとしたけれど、そもそも数学どころか算術も苦手だったから。一日の何割なのか、計算できなかったわ。

 考え事をしていると、翠子さんが顔を耳元に寄せてきたの。

「旦那さまと琥太郎さんは、二十数年前からのお友達ですよ。お二人で積み重ねてきた時間の長さには、どうしたって適いません」
「でも、高瀬先生は翠子さんに夢中じゃないの」
「それは感謝していますけど。また別なんです。わたくしは、旦那さまのお友達にはなれないんですもの」

 ふいに翠子さんは、静かな笑みをたたえた。
 こんな時なの。わたしと違って、翠子さんが大人びて見えるのは。
 笠井のお家が没落して苦労を経験しているのもあるけれど。多分、先生に愛されているのも大きいと思う。

 同じ学級で、よく一緒にいて、今も隣にいるけれど。翠子さんは、わたしの何倍も人生経験が豊富なんだわ。
 
「仕方がないな、琥太兄は。俺が肩でも揉んでやろう。感謝するんだな」
「やめろって、欧之丞。くすぐったいやないか」
「まぁ、そう言うなって」
「お前のは、こそばしとんや」

 背の高い二人がじゃれ合っているのが、とても不思議な光景に思えるの。
 そして、それをにこにこと眺めている翠子さんも。
 琥太郎さん達は立派な大人なのに、まるで少年のように見えて。翠子さんの方が、なぜか大人びて見えるのよ。
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