上 下
71 / 194
二章

42、只今、混乱中【1】※文子視点

しおりを挟む
 目が覚めた時、わたしは自分が何処にいるのか分からなかった。
 天井がうちとは違う。ベッドも違う。
 窓の外から鳥の囀りも聞こえるわ。
 そして何より違うのは、わたしの隣に琥太郎さんがいるってこと。

「……っ!」

 声を上げそうになって、慌てて手で口を覆う。
 
 待って、待って。何から理解したらいいのかしら。
 覚えてるわよ。あれくらいの梅酒で記憶をなくすほどではないからね。
 えーと、夕食をいただいてお風呂に入って、その後琥太郎さんに……。

 徐々に思い出す昨日の夜の光景。わたしは、うなじがかぁっと熱くなるのを感じた。

 そうよ、琥太郎さんに抱かれたの。しかも、わたし何も着ていないわ。
 寝間着。ううん、そもそも寝間着を着ていなかった。
 どうしよう。どうしたらいいの?

 下腹部に、じんとした痛みを覚えて。ああ、あれは夢じゃなくて現実だったんだわ、と再確認した。

「文子さん。目ぇ覚めたん?」
「は、はい。おはようございます」

 眠っていたはずの琥太郎さんに声を掛けられて、わたしは跳び上がりそうになった。でも、胸の辺りまでを毛布で隠す。今更だけど。

「痛いとこ、ないか?」
「大丈夫……うっ」

 う、うう。少し動いただけで、体のあちこちが痛い。中も外も。なんとか誤魔化そうとして笑顔を浮かべたけど。琥太郎さんがわたしの頬に手を添えてきたの。

「無理せんとき。痛い時は、痛いって言うてくれた方が、私も助かるから」
「は、はい」

 琥太郎さんは「おいで」と言って、わたしを手招きしたの。服を着ている時は細く見えるのに、筋肉のついた腕を枕に置いて。
 わたしを腕枕してくれたの。

「お邪魔します」
「なんや、それ。お行儀ええな」

 ふっと楽し気に、琥太郎さんが笑みを洩らす。その表情がとても柔らかくて。
 長い指が、わたしの乱れた髪を直してくれるの。

「ありがとう、文子さん」
「あの、何が」
「私を受け入れてくれて。強引すぎるとは思うんやけど。貴女が卒業するまで、待つのはつらいというか……うーん、そういうとこがあかんのかなぁ」

 困ったように微笑む琥太郎さんは、言い方は変だけど、本当に困っているみたいで。
 飄々として確かに強引で、でも洗練されている普段の彼とまったく違って見えたの。

 わたしは、自分でも気づかぬ内に彼の柔らかな髪に手を伸ばしていた。
 そして指で、くるくると巻いたの。

 愛しい人。わたし、琥太郎さんのことが好きなんだわ。
 こんなにも好いてもらって、わたしには勿体ない人なのに。でも、彼はそんな風には思っていない。

「文子さんの髪は、まっすぐやなぁ」

 まるでお返しとばかりに、琥太郎さんの長い指がわたしの髪をくるくると巻く。けれど癖のない髪だから、すぐに彼の指からするりと解けてしまったの。

「まっすぐな髪とくせ毛と。どっちになると思う?」
「何がですか」

 何のことか分からずに尋ねると、琥太郎さんがわたしに顔を近づけてきたの。腕枕されている状態だけれど、肘から先を彼が曲げたから、わたしは下がることもできなかった。

 そのまま、かすめるように軽く接吻される。

「私と文子さんの子ども」
「こ、こ、ここ、こども?」

 待って、待って。そこまで話が飛びますか。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

サファヴィア秘話 ー闇に咲く花ー

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:201

溺愛社長とおいしい夜食屋

BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:1,107

【完結】男だけど、転生したらシンデレラ(Ω)でした

BL / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:536

僕、先輩の愛奴隷になる事を強要されてます

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:576

女王の後宮

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:49

処理中です...