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三章
7、七夕の紙衣【2】
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お清さんが用意してくださった千代紙は、どれも愛らしいものばかりでした。
そのまま着物の生地になりそうな、薄紅の桜模様。鉄線の花や手毬、それに御所車の千代紙まであります。
「帯には、無地で少し濃い色の紙を使うといいですよ。折り方は、真ん中に向かって両方の端を……こうして、さらに折り返してから裏返して、鋏で切るんです」
「はい、ありがとうございます」
お清さんは折り慣れているようで、聞けば「子どもの頃から何度も作っているんですよ」と照れ笑いを浮かべました。
さぁ、説明も頭に入りましたし、千代紙も鋏もあります。
「ほら、翠子さん。ここにおいで」
「え、でも」
それまでソファーに座っていらした旦那さまが、わたくしの隣、千代紙の置かれた低いテーブルの前に腰を下ろしました。
しかもあぐらをかいたご自分の膝を、手で軽く叩いていらっしゃるんです。
「正座して折りますよ」
「足が痺れるぞ」
平気ですってば。そう反論したかったのですけど「ほら、早く」と急かされてしまいました。
そんな。お膝に座るだなんて子どもではないのですから。
「翠子さん?」
「は、はい」
さっきまで文子さんとご一緒していた所為でしょうか。旦那さまに密着するのが、恥ずかしいのです。
「失礼します」と小さく言って、わたくしは旦那さまの膝に腰を下ろしました。
子どもの頃から、誰かの膝に座るという経験がないので。妙に緊張します。さらに緊張の所為で、さっきお清さんに教えてもらった紙衣を折る手順がきれいさっぱり消し飛んだんです。
「え? あら、まずは両端を真ん中に折りこんで、えーと、次はどうするのだったかしら」
「裏返して、上の一枚だけを折るんだよ。次は横長の半分に折り筋をつけて、そこを鋏で切る」
耳の側で聞こえる指導の声。わたくしは焦りながらも、手を動かしました。
「え、えーと」
「慌てなくていいから全体図を考えるんだ。今、翠子さんが折っている部分は袖になる。ならば、こちらは着物の裾だろう?」
なるほど、確かに。高瀬先生は頭がいいですね。
わたくしは、物事を俯瞰して全体を考えるのが苦手なんです。
「で、再び鋏の出番だ」
「にゃーん」
「きゃっ、危ないですよ」
さっきはわたくしから逃げたくせに、退屈したらしいエリスがわたくしの手元を覗きこみます。
困ったことに、この子は鋏の両方の刃がちょきちょき動くのが大好きで。すぐに顔を寄せてくるんです。
今にもおひげを切ってしまいそうで、怖いんですよ。ああ、今度は前脚まで出して。分かっています? エリス。
「着物が出来たら、次は帯だ。まず紙を細く切って、着物の胴の部分に巻いて長さを決める。端は糊で貼り合わせて終わり」
「さすがは高瀬先生ですね。わたくしは覚えきれませんでした」
「なんで『先生』なんだよ」
あ、つい。
でんぷん糊の器に手を伸ばそうとした時、背後にぐいっと引っ張られました。
旦那さまの長い指が、わたくしの頬をつーっと撫でます。
「深山さんに折り紙にと、俺は随分と我慢をしたぞ」
何の我慢でしょうか、と尋ねることはできませんでした。
なぜなら唇を塞がれてしまったからです。
そのまま着物の生地になりそうな、薄紅の桜模様。鉄線の花や手毬、それに御所車の千代紙まであります。
「帯には、無地で少し濃い色の紙を使うといいですよ。折り方は、真ん中に向かって両方の端を……こうして、さらに折り返してから裏返して、鋏で切るんです」
「はい、ありがとうございます」
お清さんは折り慣れているようで、聞けば「子どもの頃から何度も作っているんですよ」と照れ笑いを浮かべました。
さぁ、説明も頭に入りましたし、千代紙も鋏もあります。
「ほら、翠子さん。ここにおいで」
「え、でも」
それまでソファーに座っていらした旦那さまが、わたくしの隣、千代紙の置かれた低いテーブルの前に腰を下ろしました。
しかもあぐらをかいたご自分の膝を、手で軽く叩いていらっしゃるんです。
「正座して折りますよ」
「足が痺れるぞ」
平気ですってば。そう反論したかったのですけど「ほら、早く」と急かされてしまいました。
そんな。お膝に座るだなんて子どもではないのですから。
「翠子さん?」
「は、はい」
さっきまで文子さんとご一緒していた所為でしょうか。旦那さまに密着するのが、恥ずかしいのです。
「失礼します」と小さく言って、わたくしは旦那さまの膝に腰を下ろしました。
子どもの頃から、誰かの膝に座るという経験がないので。妙に緊張します。さらに緊張の所為で、さっきお清さんに教えてもらった紙衣を折る手順がきれいさっぱり消し飛んだんです。
「え? あら、まずは両端を真ん中に折りこんで、えーと、次はどうするのだったかしら」
「裏返して、上の一枚だけを折るんだよ。次は横長の半分に折り筋をつけて、そこを鋏で切る」
耳の側で聞こえる指導の声。わたくしは焦りながらも、手を動かしました。
「え、えーと」
「慌てなくていいから全体図を考えるんだ。今、翠子さんが折っている部分は袖になる。ならば、こちらは着物の裾だろう?」
なるほど、確かに。高瀬先生は頭がいいですね。
わたくしは、物事を俯瞰して全体を考えるのが苦手なんです。
「で、再び鋏の出番だ」
「にゃーん」
「きゃっ、危ないですよ」
さっきはわたくしから逃げたくせに、退屈したらしいエリスがわたくしの手元を覗きこみます。
困ったことに、この子は鋏の両方の刃がちょきちょき動くのが大好きで。すぐに顔を寄せてくるんです。
今にもおひげを切ってしまいそうで、怖いんですよ。ああ、今度は前脚まで出して。分かっています? エリス。
「着物が出来たら、次は帯だ。まず紙を細く切って、着物の胴の部分に巻いて長さを決める。端は糊で貼り合わせて終わり」
「さすがは高瀬先生ですね。わたくしは覚えきれませんでした」
「なんで『先生』なんだよ」
あ、つい。
でんぷん糊の器に手を伸ばそうとした時、背後にぐいっと引っ張られました。
旦那さまの長い指が、わたくしの頬をつーっと撫でます。
「深山さんに折り紙にと、俺は随分と我慢をしたぞ」
何の我慢でしょうか、と尋ねることはできませんでした。
なぜなら唇を塞がれてしまったからです。
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