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三章
39、余韻の中で
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わたくしは、かぐわしい紅茶の香りで目を覚ましました。
朝ほどの強烈な陽射しは、寝室には入っていません。随分と時間が過ぎてしまったのかしら。
「ん……っ」
体を起こそうとすると、節々が軋んで痛みます。いつの間に寝間着を着たのでしょう、それに髪も後頭部にリボンをつけていたはずなのに。今はゆるい三つ編みになっています。
「気がついたか?」
ベッドに腰を下ろして、旦那さまがわたくしを見つめていらっしゃいます。
上体を起こした時、寝間着が肌に触れて、わたくしは声を上げてしまいました。
そうです、さっきまで旦那さまに抱かれていたんです。気を失ったわたくしの体を、旦那さまが清めてくださり、寝間着まで着せてくださったのでしょう。
旦那さまに愛されると、いつも体力がもたなくて……。
「翠子さん?」
「だめ、触らないで。布が、寝間着が肌にこすれて、わたくし」
わたくしに向かって伸ばされる手から逃れようとして、枕が腰に当たりました。
「や……っ、どうして?」
駄目なの。まだ快感の余韻が去らなくて。はしたないのに、みっともないのに、わたくしの口からは淫らな喘ぎ声が洩れるんです。
旦那さまを受け入れていた場所は、痛いほどですのに。下腹部は甘苦しいような感覚に囚われて。
綿紗の寝間着にすら、全身を撫でられているように思えるの。
「……ん、んん……ぅ」
カーテンを揺らす風を肌に感じ、わたくしは唇を噛みしめました。
「だ……め、だめ、なんです」
「翠子さんっ」
ぐいっと、強い力で旦那さまがわたくしの腕を掴みます。そして彼の胸に抱きしめられたの。
「ぁ……ぁあ、ん……っ」
びくびくと痙攣する身体。頭の中が真っ白になって、目の前がちかちかと明滅します。
だめ、苦しいの。胸が、下腹部が、いいえどこもかしこも愛撫されているようで。
もう行為は終わったのに。旦那さまはちゃんと服をお召しになって、髪も整えていらっしゃるのに。
どうしてわたくしだけが、いつまでも甘美な余韻の中に浸っているの?
「だん……な、さま。翠子、おかしい、の」
「大丈夫だから」
布地がこすれるだけで、すぐに達してしまうわたくしを、旦那さまは力強く抱きしめます。
さっきまでは胸に綿紗がこすれるだけで、苦しかったのに。
開いた窓から吹く風ですら、感じてしまっていたのに。
大きな手でゆったりと頭を撫でられると、徐々に落ち着いてきました。
大丈夫。だって旦那さまの腕の中にいるんですもの。
しばらく待っていれば、この感覚も薄れるわ。
「にゃあ」と声がして、わたくしは旦那さまに抱きしめられたままの状態で、視線をベッドに落としました。
いつの間に傍にいたのでしょう。エリスが、お布団の上にわたくしの足袋を置き、再び鳴くんです。
「こいつは俺が思っていた以上に、賢いようだ。足袋で遊んで、ソファーの下に押し込まなかったようだな」
ええ、そうなの。エリスはとてもお利口なの。
まるで我が子を褒められたかのような気持ちになって、わたくしは微笑みました。
エリスも褒められているのが分かるんですね。おひげをぴんと立てて、とても誇らしげです。
朝ほどの強烈な陽射しは、寝室には入っていません。随分と時間が過ぎてしまったのかしら。
「ん……っ」
体を起こそうとすると、節々が軋んで痛みます。いつの間に寝間着を着たのでしょう、それに髪も後頭部にリボンをつけていたはずなのに。今はゆるい三つ編みになっています。
「気がついたか?」
ベッドに腰を下ろして、旦那さまがわたくしを見つめていらっしゃいます。
上体を起こした時、寝間着が肌に触れて、わたくしは声を上げてしまいました。
そうです、さっきまで旦那さまに抱かれていたんです。気を失ったわたくしの体を、旦那さまが清めてくださり、寝間着まで着せてくださったのでしょう。
旦那さまに愛されると、いつも体力がもたなくて……。
「翠子さん?」
「だめ、触らないで。布が、寝間着が肌にこすれて、わたくし」
わたくしに向かって伸ばされる手から逃れようとして、枕が腰に当たりました。
「や……っ、どうして?」
駄目なの。まだ快感の余韻が去らなくて。はしたないのに、みっともないのに、わたくしの口からは淫らな喘ぎ声が洩れるんです。
旦那さまを受け入れていた場所は、痛いほどですのに。下腹部は甘苦しいような感覚に囚われて。
綿紗の寝間着にすら、全身を撫でられているように思えるの。
「……ん、んん……ぅ」
カーテンを揺らす風を肌に感じ、わたくしは唇を噛みしめました。
「だ……め、だめ、なんです」
「翠子さんっ」
ぐいっと、強い力で旦那さまがわたくしの腕を掴みます。そして彼の胸に抱きしめられたの。
「ぁ……ぁあ、ん……っ」
びくびくと痙攣する身体。頭の中が真っ白になって、目の前がちかちかと明滅します。
だめ、苦しいの。胸が、下腹部が、いいえどこもかしこも愛撫されているようで。
もう行為は終わったのに。旦那さまはちゃんと服をお召しになって、髪も整えていらっしゃるのに。
どうしてわたくしだけが、いつまでも甘美な余韻の中に浸っているの?
「だん……な、さま。翠子、おかしい、の」
「大丈夫だから」
布地がこすれるだけで、すぐに達してしまうわたくしを、旦那さまは力強く抱きしめます。
さっきまでは胸に綿紗がこすれるだけで、苦しかったのに。
開いた窓から吹く風ですら、感じてしまっていたのに。
大きな手でゆったりと頭を撫でられると、徐々に落ち着いてきました。
大丈夫。だって旦那さまの腕の中にいるんですもの。
しばらく待っていれば、この感覚も薄れるわ。
「にゃあ」と声がして、わたくしは旦那さまに抱きしめられたままの状態で、視線をベッドに落としました。
いつの間に傍にいたのでしょう。エリスが、お布団の上にわたくしの足袋を置き、再び鳴くんです。
「こいつは俺が思っていた以上に、賢いようだ。足袋で遊んで、ソファーの下に押し込まなかったようだな」
ええ、そうなの。エリスはとてもお利口なの。
まるで我が子を褒められたかのような気持ちになって、わたくしは微笑みました。
エリスも褒められているのが分かるんですね。おひげをぴんと立てて、とても誇らしげです。
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