【第ニ部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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四章

50、廊下

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 お風呂上がり、わたくしは廊下で銀司さんとばったりと顔を合わせてしまいました。

 まだ髪は湿っており、お行儀が悪いのですが手拭いで髪を拭きながら歩いていたのです。

「あー、翠子さま。のぼせたり湯あたりはなさっていませんか?」
「なさってませんっ」
「でも長湯でしたし、お二人で騒いでいらしたから」

 ああ、やはりお風呂場で子どもじみた遊びをしていたことが、ばれています。
 髪を拭いていた手拭いを外して、急いでたたみます。

「だ、旦那さまが先にお湯をかけてきたんですよ。わたくしからじゃないんです」
「はぁ」

 銀司さんは、ぽかんとした表情でわたくしをご覧になっています。
 うう、見ないでください。
 わたくしは俯いて、両手で顔を覆います。

 お風呂の薪をくべていいた銀司さんからは、少し煤けた匂いがしました。 

「本当です、信じてください」
「分かっていますよ。旦那さまは、翠子さま相手だと大人げないですからね。普段は落ち着いていらっしゃるのに、どうしてああなるんでしょうね」

 まぁ! ちゃんと分かっていらっしゃるじゃないですか。
 顔を覆っていた手を外したわたくしの顔は、きっとぱぁっと輝いていたことでしょう。

「こら、聞こえているぞ。二人で俺の悪口を言っているな」

 背後から低い声が聞こえてきて、銀司さんとわたくしはそのまま直立しました。
 
「いーい覚悟だな。二人とも」
「い、いひゃいです」

 後ろからむにーっと頬を引っ張られて、わたくしはまともに喋ることが出来ません。
 旦那さまの指には、さほど力は入っていないんですけど。
 でも、しつこいので離してくださらないの。

「ほら、聞いていてやるから。もっと悪口を言いなさい」
「いえまひぇん」
「ほーお? それは俺が頬を引っ張っているから? それとも俺が人格者なので、もう悪口は出てこないということかな?」

 肩越しにわたくしの顔を覗きこんでくる旦那さまは、笑顔ですのに目は笑っていらっしゃらないんです。

 こ、怖いです。
 でも悪口という程の内容ではないのですよ。

◇◇◇

 いかんなぁ。さっき二人に大人げないと言われたばかりなのに。
 俺は羽二重餅のような翠子さんの頬を、指先で堪能しながら考えた。

 しかし柔らかい頬だな。
 翠子さんは何処もかしこも柔らかく、そしてすべすべだ。
 
「どうやら翠子さんは答えられないようだ。さぁ、銀司。君が言いなさい」
「うっ」

 銀司は言葉を詰まらせた。
 うん、分かっているんだ。君は何も悪くない。
 翠子さんの体調を慮ってくれただけだ。ただ、ものの言い方がなぁ。直接的すぎるというか、翠子さんは繊細なのだから気を付けた方がいいぞ。
 
「えーと、そうだ。お風呂場の窓を開いて、その……換気をしなくては。では、ぼくは失礼します」
 
 あ、逃げた。

「ひひょうものー」と、珍しく翠子さんが銀司を詰っている。
 それがちゃんと彼に「卑怯者」と届いたかどうかは甚だ疑問だが。
 銀司は何度も翠子さんに頭を下げながら、風呂場へと向かった。

「で? 君が一人残されたわけだが」

 俺はようやく翠子さんの頬から手を離した。
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