【第ニ部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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五章

3、召し上がれ ※琥太郎視点

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 いやー、面白いっていうたら怒られるから言わへんけど。
 文子さんは反応が素直で楽しいわ。
 あかんなぁ。ついついからかってしまう。

「で、では。いただきます」

 ものすごく神妙な表情で、文子さんは呑水とんすいを手にした。
 呑水の中では、さっき仲居さんがきれいに盛り付けてくれた野菜や雉の肉、豆腐が湯気を立てとう。

「はい、召し上がれ」

 私は、雉の肉を恐る恐る口に運ぶ文子さんを眺めとった。
 初めは、まるで息を止めるかのように真剣な表情で、箸を動かして。
 次に、息を呑んでから薄く切られた肉を口に入れる。

 そして、きゅっと瞼を閉じる。
 恐る恐るやのに、食べず嫌いをせぇへんのやな。えらい、えらい。
 
「あの、お客さま。お料理が冷めてしまいますが」
「しー、やで」

 雉鍋を食べるように仲居は勧めてくるが。ほんの十秒くらいはええやろ。私は、文子さんが味わってるのを邪魔せえへんように静かに待った。
 
 うんうん、よく噛みなさい。
 蕎麦とか通は噛まんと飲みこむとか言うけど。やっぱりなぁ、ああいうのは体によくないと思うねん。
 とくに、うちの母さんが虚弱な人やから。父さんはよう「絲さん、ちゃんと噛むんやで」と言うとうからなぁ。

 私も子どもの頃は、おんなじことをよう言われたわ。
 
「あ、おいしいです」
「そうか?」
「ええ、すごく。初めていただく味です」

 ぱあっと花が開いたように、文子さんが笑顔を浮かべる。
 ええなぁ。私もつられて微笑んでしもたやんか。

 私が食事を再開すると、仲居はようやくほっとした表情を浮かべた。

「ああ、ええで。私らについといてくれんでも、後は自分らでできるから。せやなぁ、鍋が終わった後の〆になったら、また来てもろてもええかな」
「ですが……」
「大丈夫。煮すぎて硬くならんように、気を付けるから」

 にっこりと微笑むと、仲居はようやく「では」と下がってくれた。
 個室やないねんから、べったりとついとかんでもええと思うんや。
 調理場とか控えの部屋から覗いたら、こっちの食事の進行具合も分かると思うし。

 それに、やっぱり文子さんと二人きりがええなぁ。
 なんて言うと、あかんのやろか。

「琥太郎さん。召し上がらないんですか?」
「ん? 召し上がるで。でも、文子さんを見とったら、満腹になるなぁ」
「え? どうして」
「そら、可愛いもん」

 私の言葉に、文子さんは頬をぽぉっと染める。
 窓の外の藍色と対照的に、電燈に照らされた肌は白磁のように見える。それに頬の桜色。
 珍しい料理を食べるよりも、こうして文子さんを見てる方がよっぽど嬉しいんやけど。

「あの、困ります。冗談は」
「えー? 私は真実しか口にせぇへんで」
「それはそれで、嘘っぽいです」
「またまたぁ。厳しいなぁ」

 こんな他愛もない会話が楽しくて。ほかの人がおったら、文子さんがこんな風に饒舌になってくれへんやろ。
 って、油断しとったら食べるんを忘れた豆腐が煮えすぎとった。ついでに白ネギも火が入りすぎて、とろとろになってしもた。
 
 ごめんな、仲居さん。次は気ぃつけるから。

 けど、気心の知れた相手とほどほどに会話を楽しみながら、料理が一番おいしい間に食べきるっていうのは、なかなかに難しいな。
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