88 / 153
七章
8、忘れましょう
しおりを挟む
早朝、アフタルはベッドから降りた。
辺りはすでに明るいが、まだ太陽は姿を現していない。
気持ちのいい朝だ。そう、ふり返ってベッドを見るまでは。素敵な朝だった。
シャールーズが上半身裸で眠っている。もちろんアフタルのベッドで。
手当てと称して、彼の服をひん剥いたのは、他でもない自分だ。
「わたくしったら……なんてはしたないことを」
酒量が多くなかったせいで、昨夜の記憶はしっかりと残っている。
「ふ、ふふふ……あり得ませんよね。王女たる者が、守護精霊に迫るなど」
あの記憶はきっと夢。シャールーズは暑くて、きっと服を脱ぎ捨てただけ。
朝日を浴びて妙な夢のことは忘れよう。
そう考えて、ベランダへと出る。
ベランダのテーブルには、ミントとレモンの入ったグラスが残されていた。
「…………っ!」
声にならない悲鳴を上げて、部屋に飛び込む。そしてソファーに頭を抱えて丸まった。
「何してんだ?」
あろうことか、シャールーズが顔を覗きこんできた。
今、一番会いたくない人だ。
「来ないでください。見ないでください。せめて服を着てください」
「脱がしたのは、アフタルだろうが。おはよう、エロアフタルさん」
「きゃーーーっ!」
クッションを次々とシャールーズに投げつける。もちろん、全部受けとめられてしまったが。
「そんなに後悔するんなら、なんで俺を襲ったんだ?」
「襲ってないです。手当てをしたかっただけなんです」
「ああ、そうだな」
低く落ち着いた声。ソファーに腰を下ろしたシャールーズが、アフタルの頭を撫でてくれた。
もうクッションはない。
そもそもふんわりと柔らかなクッションが武器になるはずもない。
「アフタルのおかげで治ったぞ」
「……嘘です。わたくしは何にもしていません」
「心のこもったキスをしてくれた」
恥ずかしさに、顔を上げることが出来ない。まだうずくまったままでいると、シャールーズに髪をいじられた。
「……他の人にキスしないでくださいね」
「するわけないだろ。っつーか、その言葉、そっくりそのままアフタルに返すけどな」
「う……ううっ」
シャールーズは、アフタルの髪を指先でくるくると巻いて遊んでいる。
「あの……他の人を抱きしめて眠ったりしないでくださいね」
「有り得ないな」
ようやくアフタルは顔を上げた。
「わたくしだけですよ?」
「当然」
シャールーズは指をまっすぐにして、てのひらをアフタルに向けた。約束の印だ。
アフタルも同じようにして、二人のてのひらを重ね合わせた。
二人の時間が、いつまでも続きますように、と。
辺りはすでに明るいが、まだ太陽は姿を現していない。
気持ちのいい朝だ。そう、ふり返ってベッドを見るまでは。素敵な朝だった。
シャールーズが上半身裸で眠っている。もちろんアフタルのベッドで。
手当てと称して、彼の服をひん剥いたのは、他でもない自分だ。
「わたくしったら……なんてはしたないことを」
酒量が多くなかったせいで、昨夜の記憶はしっかりと残っている。
「ふ、ふふふ……あり得ませんよね。王女たる者が、守護精霊に迫るなど」
あの記憶はきっと夢。シャールーズは暑くて、きっと服を脱ぎ捨てただけ。
朝日を浴びて妙な夢のことは忘れよう。
そう考えて、ベランダへと出る。
ベランダのテーブルには、ミントとレモンの入ったグラスが残されていた。
「…………っ!」
声にならない悲鳴を上げて、部屋に飛び込む。そしてソファーに頭を抱えて丸まった。
「何してんだ?」
あろうことか、シャールーズが顔を覗きこんできた。
今、一番会いたくない人だ。
「来ないでください。見ないでください。せめて服を着てください」
「脱がしたのは、アフタルだろうが。おはよう、エロアフタルさん」
「きゃーーーっ!」
クッションを次々とシャールーズに投げつける。もちろん、全部受けとめられてしまったが。
「そんなに後悔するんなら、なんで俺を襲ったんだ?」
「襲ってないです。手当てをしたかっただけなんです」
「ああ、そうだな」
低く落ち着いた声。ソファーに腰を下ろしたシャールーズが、アフタルの頭を撫でてくれた。
もうクッションはない。
そもそもふんわりと柔らかなクッションが武器になるはずもない。
「アフタルのおかげで治ったぞ」
「……嘘です。わたくしは何にもしていません」
「心のこもったキスをしてくれた」
恥ずかしさに、顔を上げることが出来ない。まだうずくまったままでいると、シャールーズに髪をいじられた。
「……他の人にキスしないでくださいね」
「するわけないだろ。っつーか、その言葉、そっくりそのままアフタルに返すけどな」
「う……ううっ」
シャールーズは、アフタルの髪を指先でくるくると巻いて遊んでいる。
「あの……他の人を抱きしめて眠ったりしないでくださいね」
「有り得ないな」
ようやくアフタルは顔を上げた。
「わたくしだけですよ?」
「当然」
シャールーズは指をまっすぐにして、てのひらをアフタルに向けた。約束の印だ。
アフタルも同じようにして、二人のてのひらを重ね合わせた。
二人の時間が、いつまでも続きますように、と。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
485
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる