ああ!困ります、勇者サマ!〜聖女様に勇者パーティーを追放されたら、王太子殿下に求愛されました〜

森 湖春

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 水平線の向こうから日が昇るのを窓越しに確認したアリスは、座っていたベッドの端から腰を上げた。

 体が怠くて動かすのも億劫だったが、もう、ここには居られない。居ては、いけないのだ。

 重々しいため息を吐いて、アリスはのろのろと身支度を始めた。

「さぁ、グズグズなんてしていられないわ。おかみさんがカウンターに立ったら、すぐにでもチェックアウト出来るようにしておかないといけないのだから」

 いつものように前髪を上げてポンパドールにしようとして、今日はローブを羽織るから要らないのだったと、アリスはブラシをカバンへしまった。

 鏡の向こうから、目の下にべったりとクマをくっつけた顔色の悪い少女が、今にも死にそうな顔でこっちを見ている。

 目は真っ赤で、まぶたはぽってり。泣きましたと主張しているようなものだ。

 私だ、と気付くまで、アリスは数秒を要した。

 それほどまでに、ひどい顔だったのだ。

 窓の外で、ウミネコが「みゃあみゃあ」と鳴いている。まるで、アリスを笑うように。

「ぼんやりしている場合じゃ、ないのよ。アリス、しっかりしなさい」

 気合いを入れるように両頬をパチンとたたいて、アリスは支度を再開した。

 ここは、ネリアン王国の最南端にある港町、リビアンダラスである。

 町の南西には真っ白な砂浜が広がり、コバルトブルーの美しい海が観光客を待っている。

 町中に巡らされた水路では毎日たくさんのゴンドラが行き交う、とても活気がある町だ。

 始まりの村、コイズから始まった旅路は、予定のやっと半分といったところだろうか。

「半分。そうよ、まだ半分しか来ていなかった」

 だけど、アリスの旅はこれで終わり。

 だって、言われてしまったのだ。

「アリス。あなたは、クビよ」

 薔薇の花びらのように可憐な唇から告げられたのは、解雇通知だった。

「えっと……ちょっと、待って……? いきなりの話で、状況が理解出来ないのだけれど?」

 戸惑うアリスの前で、女神に愛された聖女は死んだ魚のような目をしている。それなのに口元には笑みが浮かんでいて、とても歪だった。

「もしかして、冗談……?」

「こんなひどい冗談、わたしが言えるわけないでしょ~。もう~……いくら温厚なわたしだって、怒っちゃうぞ! ぷんぷん!」

 両腕でぎゅっと胸を押し上げて、顎に拳を当てながらわかりやすくぶりっ子なしぐさをする少女を、アリスは冷ややかに見つめた。

 少女の名前はミモザ・セルラータ。勇者オリヴァーのパーティーメンバーの一人、神官である。

 女神の守護色である黄色の神官服を身にまとい、宝石がついた杖で勇者一行を癒やすことが役割だ。

 こう言うと清楚でシック、お淑やかな女性を想像しがちだが、実際には黄色いフリフリドレスを身にまとった甘めのロリータスタイル、という表現が正しい。
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