ああ!困ります、勇者サマ!〜聖女様に勇者パーティーを追放されたら、王太子殿下に求愛されました〜

森 湖春

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「────ヒナギク? こんな時間に、こんなところで何をしている?」

 不意に降ってきた声に、アリスは祈りの姿勢を解いて顔を上げた。

 目の前に立っている人は、朝日をバックに立っているせいで顔がよく見えない。

 眩しさに目をすがめていると、その人物は許可も取らずにアリスの隣へどかりと腰を下ろした。

 隣に来ると、よく見える。

 森の妖精と評される美しい母にそっくりな、深緑色の髪。ちょっとばかり脳足りんだけれど愛嬌があってみんなに愛される父に似た、人懐こい整った顔。

 いつもの煌びやかな衣装は目立つからか、今日は下位の貴族のような格好をしているが、それでも滲み出る気品は隠せやしない。

「──殿下」

 ネリアン王国、現国王陛下と王妃の第一子、マシュー・ネリアン。つまり、王太子殿下である。

 甘やかされて育った為に少々おつむが足りない国王に代わり、この国の政治は彼の采配で回っている──なんて国民は冗談めかして言っているが、実のところ真実だ。

 先程彼は「こんな時間にこんな場所で」なんて言ったが、彼の方こそ、なのである。

「ここでそんな無粋な名を呼ぶものじゃないよ。どうか、マシューと」

「そうですか。では、マシュー。同じセリフをお返しします」

「僕か? 僕は休養だよ。いくら施政者とはいえ、休みなしで働くなど愚の骨頂だ」

「そうですね……働きすぎは、体に毒です」

「だろう?」

「ええ」

 無理に聞き出そうとしないマシューに、アリスはありがたく思った。

 流れる空気の柔らかさに、ぐちゃぐちゃに絡まった気持ちが少しずつ解れていくようである。

 もしかしたら、この空気こそが彼の政治手腕なのかもしれないと思いながら、アリスはぽつりぽつりと言葉を漏らしていく。

「勇者と旅をするようになって、半年が過ぎました」

「ああ、そうだな」

「私がこの世界へやって来たのは、もう随分と前のような気がします」

「そうだな。君がやって来たあの日のことを、僕も覚えている」

 昔を懐しむようにそっと目を閉じると、あの日のことが色鮮やかに蘇る。

 アリスの口は、すらすらと語りだした。


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