ああ!困ります、勇者サマ!〜聖女様に勇者パーティーを追放されたら、王太子殿下に求愛されました〜

森 湖春

文字の大きさ
12 / 21

12

しおりを挟む
 その後も、勇者の冒険は問題だらけだった。

 日本の某RPGゲームをこよなく愛する勇者は、花壇の中に入って立札を読んだり、夜の街で美女に誘われてホイホイついて行った挙げ句に身ぐるみ剥がされたり、死体に話しかけて「返事がない。ただの屍のようだ」とナレーションしてみたり──と枚挙に暇がない。

 何度、マシューに助けられたことか。
 助けを求める手紙を書くたびに、情けなくてたまらなくなった。

『大変な役目を負わせてしまってすまない。だが、僕が信頼できる者でないと、任せられないのだ』

 あなただから、任せられる。

 多忙な中、気遣う手紙とともに贈られる菓子に、どれほど感謝したことか。

 勇者パーティーらしく神官、魔法使い、戦士を迎えてからは、さらに悪化した。

 アリスを出し抜こうと考えた聖女様ミモザが暴走した結果、目的地を間違えてレベルに見合わない強いモンスターに倒されたり、ミモザに魅了された魔法使いアスターが戦闘中に混乱して味方を攻撃したり、戦士グロリオがカジノにどハマりして一文無しになった挙げ句にアリスのゴールドカードを持ち出そうとしたり。

 そしてついには、

「────私は勇者パーティーを追放になったのです」

 もともと、アリスは非戦闘員として同行している。

 だというのに、理不尽な理由で追い出された。

 勇者のことはそれなりに責任を感じているので大切にしてきたが、こうなるともう、アリスにはどうにも出来ない。

 突然の解雇通知に当惑し、逃げ出してきてしまったのだと告げたアリスに、マシューは自分のことのように煩悶はんもんの表情を浮かべた。

「……そうか。全て報告は受けていたが、それ以上に大変だったのだな。ありがとう。そして、すまない。僕が頼んだばかりに、ヒナギクにはつらい思いをさせた」

 険しい顔で、マシューはアリスに謝罪する。

 彼に、謝る理由なんてないのに。

 アリスに勇者のおともを依頼したのはマシューだ。だが、今回の追放はミモザがしたことであり、マシューにはなんの罪もない。

「いえ、そんな……私が不甲斐ないばかりに、殿下には多大なご迷惑をおかけして……」

「迷惑ではなかった。ヒナギクからの手紙を、僕は毎回楽しみにしていたのだ。それがたとえ、助けを求める内容だったとしても、僕は嬉しかった」

 秘密を打ち明けるようにひっそりと告げてきたマシューに、アリスの胸がキュンと弾む。

 彼女の脳裏に、春のあたたかな日差しと満開の桜が一気に広がった。

 想像してみてほしい。

 どこをどう見ても麗しい美貌の青年が、アリスからの手紙を待ち遠しく思っていたと、いたたまれない様子で告げてくるのである。

 ついさっきまでアリスのことを心配し、凛とした表情を浮かべていた男が、今度は打って変わって可愛らしい一面を見せてきたら。このギャップに、大抵の女性はクラリとするのではないだろうか。

 恋愛初心者のアリスが、身分差を忘れてときめいてしまっても、致し方がないだろう。

「殿下……」

「だが……そうだな……ヒナギクを傷つけた聖女とやらは、許せそうにない」

 ときめいた気持ちも一瞬で凍るような恐ろしい声が、形の良い唇から漏れ聞こえた。

 アリスは一瞬、聞き間違えかと思った。「え?」と尋ね返した彼女に、マシューは口元だけの笑みアルカイックスマイルを浮かべて言った。

「ヒナギク。僕に任せてほしい」

 ゴゴゴゴ。

 そんなはずはないのに、何故だか地震の音がする。

 さきほどとは違った意味で胸をドキドキさせながら、アリスはマシューを見た。

「な、何をでしょう?」

「さぁ、行こうかアリス」

 有無を言わさず手を握られて、立ち上がらされる。

 そうして連れて行かれた先は、王都でも有名なお針子を抱える、ポーチュラカ商会メゾン・ド・ポーチュラカだった。


 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

処理中です...