勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

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友誼、らしいです

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 加速された意識の中、スローモーションのように倒れていく兄様。
 その姿はまるで糸の切れたマリオネット……
 いえ、動力であるゼンマイの切れたおもちゃの様でした。
 不自然に脱力し、抵抗なく大地に横たわります。

「兄様……?」

 声掛けにもピクリとも動かないミスティ兄様。
 快活な兄様のそんな姿が信じられず、私は呆然としてしまいます。
 悪戯好きで。
 でもどこか憎めなくて。
 強くて優しい、私達の自慢の……

「兄さん!」
「兄様!」

 駆け寄った私達は急ぎミスティ兄様を抱き起します。
 頭などは打たなかったようですが、顔色は蒼白です。
 更に触れた個所が驚くほど冷たい。
 浅い癖に息が荒いのも気になります。
 私達を見ながら苦悶する兄様。
 やがて胸元を押さえながら苦悶を洩らします。

「くそっ……!」
「兄さん! 大丈夫ですか!?」
「兄様! 痛みは!?」
「畜生ォ……」
「え?」
「持って行かれたあああああああ!!」

 絶叫し、蹲るミスティ兄様。
 そのキーワードに生前見たアニメの主人公が重なります。
 禁忌を犯したその少年に下された罰は身体の欠損。
 しかし見た感じ兄様に欠けた部分はありません。
 はっ!
 もしかして内臓でしょうか!?
 確か主人公の師匠さんは臓器の一部を持って行かれた筈。
 私は慌てて気を兄様に当て内部を探ります。
 ……あれ?
 完全に健康体です。
 ただ少しだけ臓器の温度が低めなのが気になりますが……

「大袈裟じゃのう。
 対価として、ただ少し血液を貰っただけじゃぞ」

 私達を見下ろしながらトレエンシア様が呟きます。
 その言葉に私達は兄様を見詰めます。
 注目の中、ニヤリと邪悪に嗤う兄様の姿。
 それはもう、悪戯が成功した時のような。

「兄さん!」
「兄様!」

 先程と同じ言葉なのに込められた思いは全然違います。

「いや~悪い悪い。
 お前らがあんまり真剣だからさ……つい」

 てへぺろ。
 苦笑する兄様。
 悪びれたように頭を掻きます。
 シャス兄様が訝しげに手を貸しますが、元気に立ち上がります。
 どうやら血を急に失った事による貧血だったようです。
 もう! 
 心配して損しました。ふん。


   ※  ※  ※


「さて、トレエンシア。
 助力ありがとな。
 あの三人、間違いなく村まで転移できたんだろ?」
「……礼には及ばぬ。
 それ相応の対価を汝は払ったのだ」
「それとこれとはまた違うさ。
 マジで助かった。
 俺達はともかく、戦う力の無いあいつらを巻き込めないしな」
「そうか……汝は強いな」
「ん~何の事だかよく分からないが」
「……汝が秘めるならそれもまたよかろう」
「ま、俺の事情だから気にしないでくれ。
 ……そういう訳で、シャスにユナ!」

「「はい」」

「俺は今の転移で大分力を使っちまった。
 けどあいつらに契約精霊である風乙女をくっつけておいた。
 風録伝霊<ウインドボイス>による伝言術式を発動できるようにな。 
 つまり親父か誰かに救援に来てもらえる手筈になる」
「なるほど……それで」
「親父クラスなら1時間もあれば余裕で来れると思うが……
 それまで頑張れそうか?
 俺は戦力外と考えて、だ」
「任せて下さい。
 交戦を避け、逃げ回るなら可能です」
「はい、未熟ですけど……私もお手伝いします」
「いい返事だ。
 よし、あと1時間……耐え抜くぞ」

「「おー!!」」

 唱和する私とシャス兄様の声。
 そんな私達を慈しみを以て見守っていたトレエンシア様が微笑みます。

「強きものじゃな、人とは」
「うん? いつもこんなもんだぞ」
「確かに、まあ……」
「行きあったりばったりです」
「フフ……人族のその生命力と活発さが妾には眩しい。
 思わずお節介をやいてしまうほどにな。
 皆の者、指を出すが良い」
「え?」
「ん?」
「はい」

 突然のトレエンシア様の言葉に私達は疑問に思いながらも指を差し出します。
 屈み込んだトレエンシア様は自らの髪を3本抜くと指輪の様に輪を作ります。
 そしてそれを丁寧に私達の指に嵌めてくれました。

「これは?」
「樹の精霊王にして聖霊たる妾の加護が宿りし指輪じゃ。
 草花により惑う事無く、その恩寵を得る。
 試しに茂みや藪に向け指を向けてみよ」
「?」

 私達は思い思いの方に指を向けてみます。
 !!
 驚きました。
 指輪の嵌った指の指し示す先、草花が蠢き道を作り上げるではありませんか!
 こ、これは凄過ぎます!!

「これは……」
「流石は精霊王ってことか……大したもんだ。
 んで、対価は?」
「いらぬ」
「うえ?」
「これは汝が見せた意志。
 そして汝らが見せた絆に贈る、妾からの友誼。
 素直に受け取るがいい」
「……すまないな、トレエンシア。
 もしかして気を遣わせたか?」
「気にするな、寵愛児よ。
 謝罪する気があるなら、早く妾達を統べる騎士となってみせよ。
 他の聖霊達だけでなく我等が皇も汝との邂逅を楽しみにしておるのじゃぞ」
「ちっ……分かってるよ」
「一刻も早く汝の傍にあることを妾達は望む。
 さて……召還の時間じゃのう。
 ではさらばじゃ、人の子達よ。
 汝らに草花と樹木の加護があらんことを!」

 ミスティ兄様と親しげに会話していたトレエンシア様でしたが、徐々にその姿が薄くなっていきます。
 やがて名残惜しむ様にミスティ兄様の頬を撫でながら、その姿は完全に消えてしまいました。
 ミスティ兄様との仮契約が切れ、精霊界に戻ってしまったのでしょう。
 これがこれからも幾度かお世話になる樹の精霊王、
 樹聖霊トレエンシア様との初対面となるのでした。









   ※  ※  ※

(……本当に良いのか?)
(何がだ?)
(汝が失ったのは血液等ではなく……
 寿命、ということを知らせなくとも)
(ああ。……こいつらに言ってどうなる訳でもないしな。
 お節介なこいつらの事だから事実を知ったら大騒ぎだろうし。
 ならば余計な心配は掛けたくない)
(対価は妥当であったが……汝は後悔せぬのか?)
(ん? ま~そこは色々な。
 俺自身思うとこはあるさ。
 ただ……俺は知ってるから)
(何をじゃ)
(心の難しさ、ってやつ)
(?)
(人の心ってのは、常に揺れ動く不安定なもんなんだ。
 目隠しをして歩く様にフラフラしちまうし。
 悪魔の様に狡猾で破壊を弄ぶ自分。
 神々の様に冷徹で創造を描く自分。
 凡人の様に憶病で自制を望む自分。
 そんな自分が俺の中にいて、そのどれもが自分である。
 そしていずれかが欠けても、人は人たり得ない。
 嫌な話だよな。
 こうして心で繋がってるから隠せないけど、
 正直あいつらを見捨てて……
 俺達兄妹だけ助かろうか、とも一瞬思ったんだぜ?)
(それが普通の反応じゃろ。
 何も恥じる事は無い)
(ああ。だけどさ……
 それをしちまったら俺はこいつらに顔向けできなくなる。
 こいつらの前ではカッコつけたいんだ……兄として、意地でも)
(なるほど)
(だからこそ俺は隠し続ける。
 自分の本性<シャドウ>を。
 自分が自分である為。
 力などに振り回されぬ、確固たる存在意義を守る為。
 ……例え他の者に何て呼ばれようともな)
(それが汝の在り方……
 流石は騎士の器ということか)
(褒めてんのか、それ?)
(フフ……汝の不器用さを好ましく思っただけじゃ)
(ちえっ……なんだ、それ)

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