ワイルドアットハート

壱(いち)

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顔を俺から背けてブツブツ言っている。背を向けているカムイの鋭い爪の付いた指がわきわきと動いているのを見て、なんだか顔の筋肉が緩む。
なに考えてるんだか知らないが、そろそろ独り言はいい加減にしろ龍のくせにと思い、にやけた表情を引っ込める。

「カムイ、戻ってきて」
『あ?あぁ』
「どーしたの急に」
『いや・・・』
「歯切れ悪いなぁ。俺が若くてびっくりした?」

振り返ったカムイはふよふよと漂いながら戻ってきて、胴で俺を囲むようにし顔を正面に向けてくる。
全体的に大きいけど順応があるのか怖さはもうない。

『それもあるが』
「うっとりした顔して俺なんか見て、そんなに会えて嬉しい?」
『当然だ』

冗談で聞いたらはっきりと頷くカムイに擽ったい気持ちになる。

「カムイ?」

立ち上がって見ると緩く囲んでいた胴体がスペースを詰めて体へ、腕の上から足下へ絡み付くように巻き付いてきて不振に思いカムイを呼ぶ。

「なぁ、俺も・・・っ」

俺も半獣なの?って聞く前に、堅い鱗で覆われた胴体がシャツの上から乳首のある場所をゾリゾリと痛くない程度に這い、掠めていくから思わぬ刺激に体が小さく震える。
下へと巻き付く尾に近い胴体は左足を残して右に巻き付いて動いていく。急所に近いところは撫でるように左右へ動き、臀部に近い胴体は器用さを発揮して揉み込むような動きをし、なんともいえない刺激の連続に俺は吐息ともとれるものを口から出してしまう。

鱗の動きに服が破れたり解れたりしないのは夢だからなのか。

頭上に移動し見下げる顔を生理的に潤んだ視界の中でカムイを睨むと足の付け根にある胴体がきゅっと締まり、言いようのない感覚が体の中を巡る。

「何の真似だっ」

自由を奪われた体は動けばふらつき、雲の上へ体が転がるだろう。
まさかこの世界に呼ばれたのは慰み物にされるためじゃないだろうな。

見上げて見つめると、きらきらと光ってカムイの全体がぼんやりと靄にかかったみたいに霞んでいき、光と合わさって龍の姿が消えていく。その様を巻き付く胴体で確認したら、ちょうど自分の正面、下を見ていると靴を履いた足があることに気付く。
自分と同じで雲の上、段々と下から目線を上げていくと立っているのは青く艶のある長い髪、目つきが鋭く精悍な印象を与える男。体つきはがっちりしていて武道なんかやってそうだ。風に髪を靡かせて佇む。

「紘貴」

警戒して見ていれば微笑む男に名を呼ばれ、声がカムイのものだと分かる。

「カムイ?」

確認するように呼ぶと近付いてきて俺の腕を掴んで引っ張り寄せ、腕を離してから体を抱き込んでくる。
肩幅は広く分厚い胸板。自分の額がカムイの肩にあたるから背は結構高い。間近の顔に首から上へと流し見ていく。輪郭がしゅっとしていて肌は少し日に焼けた色をし、唇は薄め、鼻は高すぎることなく通り瞳はやっぱり金色に緑がかったもので眉は整った形をしてる。

「こんなに痩せて細い体、細い腰をしていて男の摩羅を迎えられるのか?」
「変態クサ!俺は女しか興味ねえよ」

酷く官能的な声を出して耳元で喋るくせに内容が内容だけに別の鳥肌がたって、腕の中で少し距離を置く。ケツを撫でるあたり行動がオヤジくさい。

「女を抱くのか」

一度瞬いた優しい眼差しと頭の中でなんの想像をしているか分からない、いやらしい笑みを向けてきて口元が引きつる。
胸に手をついて僅かばかりの距離をとっていたのに力強い腕はまた体を押し付けてきて距離がなくなる。片方の手が背中の中心を撫で、腰を撫で、ウエストを確かめるように通り過ぎ、尻の形を確かめるように撫でたかと思うと尻たぶを鷲掴む。

「ちょっと!話が出来」
「はあぁ、この手触りや感触が溜まらぬ。紘貴よ、女など抱かずとも私がここの」
「うぎゃあっ、どこ触って・・・っ」

信じられない、この男、いや龍か。俺を懐に入れたまま耳元で熱い吐息混じりに言いながら、両手で服の上から尻の谷間を割り開き、穴のある場所を指が探るよう縦に動く。

「善さを教えてやるぞ。毎晩傷つかぬように舌で舐めて唾液まみれにし、指で中を優しく撫でてやりながら準備をして、そなたの後孔が私の摩羅をしゃぶって離さぬようにしてやろう」
「ン、マジやめろっ、この変態」
「愛しい者がいれば雄は皆変態にもなる」
「変な例えすんな、くそっ。いい加減離せ」

胸板を叩いて突き放すみたいに動いても、足を踏みつけてもビクともしない体が憎らしい。

「そなたの香りは龍族すらも魅了する」
「・・・・・はっ、香りだと?」
「そうだ。人工的に作ったものではなく体臭。果物に似た柑橘系の香りが堪らなく男心を擽る」

まるで媚薬だと、うっとりした声を聞いた後に湿った舌で耳の裏と中を舐められてひくっと体が跳ねる。
こっちに来て神経が過敏になっているのか、今まで悪戯に弄られてもなんともない場所だったところが息を掠めるだけでじんわり痺れるように感じる。

女を抱いていた時と同じ快感を人間でもない存在から暴かれていくなんて堪えられない。
もうこの羞恥から逃れたくて、下半身目掛けて蹴りを入れた俺は体を無理矢理離す。

「くっ、そなた、なんと跳ねっ返りな・・・っ」
「跳ねっ返りってのは女に使う言葉だから価値があんだよ。男に向かって使ってんな、気色悪い」

ぜえはぁ息をし漸く体を解放されて安堵する。人も龍も男の急所は同じらしい。いい発見をした。

「もっと話を聞きたかったけど、もういい。二度とあんたの面は見たくない」

じゃあな。うずくまる男へ冷めた感情を剥き出しに見下ろした後、背を向けて雲の上を歩き出す。
ふわんふわんと小さく弾む雲の感覚。靴を履いた足の裏で動きを感じながら歩いていると白じむような、曇ったフィルターが全身を覆うようになって体がふわっと浮遊する。

「紘貴!」

名を必死な声で呼ぶ奴に、顔を少し後ろに向けたところで口角が弧を描く。



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